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photo by:Vince Smith |
分布:アフリカ大陸(サハラ以南)
生息域:サバンナ、草原、湿地、まばらな森
体長:59~92㎝(頭~胴)、20~38㎝(尾)
体高:54~62㎝
体重:7~14㎏
優れた狩猟本能は隠せない
1986年ごろに新しいペットが産声を上げた。サーバルを父親に、イエネコを母親にもった雑種ネコが誕生したのだ。
そのネコは親しみを込めて「サバンナキャット」と名付けられた。野生のサーバルが主にサバンナでみられることから着想を得たのだろう。
ペット業界の目論見は上手くいった。父親から受け継いだ毛並みは美しく、母親から受け継いだ性格は穏やかだった。従順で麗しいサバンナキャットは人類の新たな友として、それ以降も広く人気を集めることになる。
一方、イエネコと掛け合わせていない純粋なサーバルには、ペットのような従順さを求めるのは難しいようだ。野生の血が騒ぐのか、彼らと同程度の狩猟能力を備えている動物がそばにいると、なかなかスリリングな”遊び”を見せてくれる。
たとえばカラカルは彼らの良き友人となってくれる。手心を加えずとも攻撃を受け止めてくれる、頼もしいケンカ仲間だ。
サーバルは目にもとまらぬ突進をぶつけ、カラカルは寝ころんだまま力強いネコパンチで反撃する。「シャー」と互いに闘争心を剥き出しにしたまま、獲物を殺すかのような勢いで遊びつづける2匹の姿は、見ている人間の心を不安にさせてしまう。
野生を知らないペットの犬や猫からすれば、サーバルはもはや恐怖の対象でしかない。「ニャー」と愛嬌たっぷりに鳴こうと、相手を驚かさないようにゆったりとした歩調で歩み寄ろうと、サーバルが野生下で通用するほど高い身体能力を秘めているという事実は覆しようがない。
犬も猫も緊張を隠せないまま強がるばかりで、時にはサーバルを一方的に追い払おうとしてしまう。残念ながら危機本能は抑えようがないらしい。思わぬ反撃を受けたサーバルには、小さな隣人が自分の存在に慣れるまで待つことしかできない。
犬や猫が過剰なまでにサーバルを恐れるのも無理はない。アフリカのサバンナにおいては、サーバルほど恐ろしい狩人もいないからだ。狩りの成功率は50%以上ともいわれ、ネコ科動物ではチーターに比肩するトップハンターとしての実績を誇っている。子連れの母親サーバルともなれば、その成功率は68%にもなるのだという。ネズミや小鳥など小さな動物からすれば悪夢のような話だ。
狩りの実力に、毛並みの美しさ。どちらもチーターを思わせるサーバルだが、狩りの手法はまるで異なっている。チーターはいわば正攻法だ。獲物を全力で追いかけて、後ろから迫っていく狩り方を好む。
一方、サーバルは”空襲”という戦法を編み出した。獲物に忍び寄ると、そのまま空高く飛び、頭上から落ちるように攻撃を仕掛けるのだ。狩猟方法だけでいえば、ネコというよりもむしろキツネに近い。
もっとも背が高いネコ
サーバルはネコ科でもっとも足が長い動物だ。より正確には、からだの大きさに対して足の割合がもっとも大きいネコである。また首も長い。黄色をベースに模様で飾られた毛皮からも連想されるのか、「girafe cat」と呼ばれることもある。キリンネコ。言い得て妙である。
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photo by:veverkolog |
イメージを裏切ることもなく、サーバルはネコ科とは思えないほどの高身長を呈している。たとえば同サイズのカラカルと比べると、サーバルの背は20センチも高い。
背の高さはそのまま視点の高さに結びつく。好き放題に伸びた草も上から見下ろせるため、茂みに隠れる小動物も見つけやすくなる。
また背丈は音を聴くにも有利に働く。背が高ければ、地面近くの音が草に吸われることもなくなる。かすかな振動であっても、減衰することなくサーバルの耳まで届くだろう。
聴覚はサーバルにとって重要な感覚だ。彼らは耳をアンテナのように動かして、振動の方向や距離を探ろうとする。耳はそれぞれ180度回転させることができ、また左右を別々に動かすこともできる。たとえ背後から聞こえる音であっても、彼らは正確に捉えられるわけだ。
時には15分もかけて音の発生源を探ろうとする。目を閉じたまま身じろぎもせず、ネズミが草を揺らしたかすかな音を捉えようとする。
位置さえ割り出せれば、あとはかくれんぼの鬼に徹するばかりだ。音の重要性は誰よりも理解しているため、サーバルは神経質なまでに音を立てることを嫌う。右前脚、左後脚、左前脚、左後脚…。1歩ずつ確かめるように体重をかけていき、音を殺しながら獲物へ迫っていく。
距離を十分に稼げると、ついに攻撃の時がやってくる。長い脚はバネとしても優秀だ。四肢を折りたたんで地面に力を込めておけば、瞬発力を発揮しやすくなる。
イメージとしては、デコピンを放つ寸前の指だろうか。四肢の力をすべて解放して跳びかかれば、水平方向に3.6メートルもの跳躍が可能となる。勢いのままネズミを足で踏みつければ、あまりの力強さにネズミは気絶してしまうだろう。あとは頭からガブリとやるだけで、狩りは成功に終わる。
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足が長すぎるあまり、座ると横に膨らんでしまう。(photo by:Marie Hale) |
バネは縦方向に放っても良い。垂直方向へ4メートルもジャンプして、飛ぶ鳥をはたき落すことができる。
なおサーバルは失敗からのリカバリーも早い。1度目のジャンプが鳥に届かなかったとしても、慌てずに次のジャンプを用意する。着地と同時に脚のバネを蓄えて、着地の勢いを殺さず、より高くジャンプするのだ。
ネコ科ならではの動体視力もここで活きてくる。2度目のジャンプをする瞬間には獲物との距離・方向を測り終えており、寸分の狂いなく獲物へ跳びついていける。最高の一撃を加えられた鳥は失墜し、二度と飛び立つことはないだろう。
リカバリーは相手がネズミでも利く。空襲に失敗して逃げられたとしても、今度はモグラ叩きがはじまるだけだ。前足に力を入れて、跳ねるように何度も茂みを踏みつけていく。
サーバルはつま先を器用に操り、小さな獲物もピンポイントで叩くことができる。また湾曲している爪は獲物に食い込みやすく、1撃でも当たればネズミは簡単に引きずり出されてしまう。
下手な鉄砲でも数を撃てば当たるのだ。それが正確な攻撃となれば、ネズミも逃げきれない。サーバルが諦めさえしなければ、その狩りも成功という結末を迎える。
サーバルはこうした質の高い狩りをくり返し、1晩で15匹もの獲物をしとめるのだとか。優れた聴覚と身体能力を存分に発揮して、食うに困らない生活を送っている。
時には”鞭”の使いかたを争うこともある。ヘビを見つけるとサーバルは身軽なボクサーに変身し、長期戦を挑んでいく。
ヘビはからだを鞭のようにしならせて咬みついてくる。それをバックステップで避けるのが、サーバルに課せられた勝利条件だ。すかさず前足を振り上げて、ネコパンチで反撃することも忘れてはならない。あちらが鞭を使いこなすというのならば、こちらも鋭い鞭のようなパンチを放つまでだ。
避けては殴りのヒット&ウェイを続けるうちに、ヘビもだんだん弱っていく。ついには鞭を振りかぶる―――頭を上げる余裕もなくなり、サーバルの攻撃を待つばかりになる。あとは頭をガブリとやれば、それが勝利宣言となるだろう。
たとえ相手が毒蛇であっても、サーバルは退こうとしない。鞭の扱いには長けているという矜持があるのかもしれない。
地の利を活かしたクレバーな狩りを
優れた感覚を備えており、またそれを活かせるだけの運動能力も秘めている。サーバルほど優れている狩人もそうはいない。だが彼らはそれに飽きたらず、地の利を活かそうとする知恵も付けているらしい。
サーバルはなわばりの依存度が高く、長年にわたり同じ土地に留まることが知られている。9年間にわたり同所で目撃され続けたサーバルもおり、彼らが住み慣れた環境を要すること、また適切な環境であれば長期間を生き抜く能力があることを暗示している。
住みやすい土地を選ぼうとする関係上、他のサーバルとなわばりが被ってしまうことも珍しくない。ただその場合も、彼らは土地の利用方法を工夫することで、ライバルとの軋轢を最小限に抑えている。
たとえばその場所を訪れる時間帯やなわばりを徘徊する周期をズラすことで、空間的には同じ場所を利用していても、時間的に接触を避けることができる。尿でマーキングを施しておけば、自分がいつ訪れたのかを相手に伝えることも可能だ。お互いに避けようとする意志さえあれば、そう簡単に出くわすこともない。
もし他のサーバルと出会った場合も、穏便に済ませることが多い。お互いに攻撃的でなければ、相手の胸にそっと手を置いて、敵意がないことを伝え合うことができる。そうして無事に儀式を済ませると、サーバルたちは何事もなくその場を立ち去っていく。
土地の所有権を確かなものにすれば、あとはその土地を正しく利用することに尽力できる。なわばりを維持し続ければ、獲物を見つけやすい狩場もわかってくる。
彼らにとって生命線となるのは聴覚だ。狩りの起点となるだけでなく、ヒョウやリカオンといったサーバルに襲いかかってくる敵を察知するにも欠かせない。耳に音が伝わりづらくなる場所は避けるべきだろう。
実際、彼らは風が強い日には、狩りを早めに切り上げてしまうのだという。風音や茂みが激しく揺らされる音に邪魔されて、獲物の立てる音が聴けなくなってしまうのだろう。
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目を閉じて音に集中するサーバル。彼らにとって聴覚は視覚と並ぶほど重要だ。 (photo by:Benjamin Hollis) |
逆に、音が聞きやすくなる場所へ現れることもある。たとえば彼らは人間活動をうまく利用して獲物を狩ることがある。道路や水路脇で耳をそばだてて、獲物の音を効率的に集めている。
人間が手を加えた場所は周りが開けているため、音を阻害される心配も少なくなる。また除草された道を歩けば、草を立てて音を立ててしまう―――獲物に気付かれてしまう危険性も抑えることができる。狩りをするには打ってつけの環境だろう。
積極的に人間の行動圏まで近づいていき、時には番犬ならぬ”番猫”を買って出てくれることもある。サーバルは時に農地へ現れて、農作物をいたずらするネズミも狩ってくれるのだ。
そもそもサーバルはネズミを好んで狩る動物だ。獲物の80%以上は齧歯類で占められ、とりわけフレイネズミがよく狩られる。
ちなみに「フレイ」とはアフリカ語で「水場」を意味する言葉で、フレイネズミはその名の通り、水源にほど近い場所でよく見つかる。サーバルが湿地をよく訪れるのも、このネズミを目的としているのだろう。
ネズミが多く暮らしているのであれば、そこが農地であろうとサーバルはやってくる。野生動物は人間が活動している土地を避けがちなので、珍しい例といえるだろう。
ただし人間そのものは避けたがるのか、農地に出没するサーバルは夜行性であることが多い。通常は薄明薄暮性―――夕暮れや明け方に行動する傾向にあるので、何かしら時間をズラしたくなる動機があるのは間違いない。
サーバルは時間帯がズレたとしても、狩りの成功率を落すことはないのだという。土地や獲物の習性だけでなく、時間変化にさえも対応できるというのだから恐れ入る。
夜間行動を徹底してくれるのであれば、彼らが農地で邪魔になる心配もなさそうだ。かつては家畜や家禽が襲われることを不安視する声もあったが、不用心な鶏小屋でもない限り、彼らが積極的に盗みをはたらくことはない。
人間側からサーバルに地の利を示すことができれば、うまく彼らとも共存できるのではないか。サーバルはいつの日か、農作物を狙う不届きなネズミを成敗してくれる影の功労者となるのかもしれない。
参考動画