ミミナガバンディクートは、穴を掘ってオーストラリアの生態系を守っている

有袋類

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ミミナガバンディクートの全身画像
photo by:Bernard DUPONT
名称(学名)
ミミナガバンディクート(Macrotis lagotis)
分布
オーストラリア(北西部、中央部)
生息域
乾燥地帯(低木地、草原、高地、砂漠など)
体長
29~55㎝(頭~胴)、20~29㎝(尾)
体重
1~2.4㎏

バンディクートの語源はインドにあり

「バンディクート」はインドのテルグ語「pandi-kokku」に由来する単語で、直訳すると「ブタネズミ」になる。これは現地で暮らすネズミを指し、ネズミにしては大柄な姿や、ブタのような唸り声を上げる習性から名付けられていた。

 その後、オーストラリア大陸でもこのネズミにそっくりな動物が見つかり、やはりバンディクートと呼ばれるようになる。しかしオーストラリアには多種多様なバンディクートが暮らしていることも判明し、「バンディクート」という単語は次第に「オーストラリアに暮らす固有種」を意味するようになっていった。

 今日では、インドに暮らす元バンディクートは「バンディクートネズミ」と名前を変え、バンディクート属とは関わりがない動物として扱われている。単にバンディクートと言った場合、それはオーストラリアやニューギニアで暮らしている有袋類を指すようになったわけだ。

バンディクートとは何者か

 バンディクート形目は、バンディクート科20種以上とビルビー科1種から構成される小規模なグループだ。その多くは小柄で目立たないが、様々な動物を融合させたかのような奇抜な姿が人目を引くのか、オーストラリアでは一目置かれる存在として知られている。

 大きさに目を瞑れば、彼らの顔はトガリネズミに似ている。細長く尖っている吻はもちろん、エサ探しに用いる長いヒゲも両者に通ずるものがある。

 行動面ではジリスが近いだろうか。バンディクートは後脚でしっかりと体を支えながら、前脚で力強く地面を掘ることができる。鋭い爪で土を掘り起し、地中からエサを引きずり出すのだ。

 あるいはオーストラリアを代表する動物、カンガルーとも共通点があるようだ。バンディクートは後脚がバネのような構造になっており、跳ねるように動せる。カンガルーのような長距離移動は難しいが、短距離であれば連続ジャンプで軽やかに移動していく。

 他の動物からパーツを寄せ集めたような奇抜な姿は、人目を惹きつけて止まない。バンディクート形目はとても印象深く、独特な愛嬌も備わっている動物群なのだ。彼らを守るべく、保護活動が盛んに行われているという話も頷ける。

 だが彼らは生物史においてややこしい存在であり、多くの研究者を悩ませてもきた。

 バンディクートが有袋類の一種であることは疑いようもない。メスは袋を持ち、その中で子どもたちを育てていく。それ自体は、オーストラリアに暮らしている数多くの動物たち―――有袋類と共通している。

 ただバンディクートは肉食動物と草食動物、どちらの特徴も秘めているため、他の有袋類との関係性を掴むことが難しい。

 たとえば前歯が上下3対あるのは、フクロネコと共通する特徴だ。肉食動物と同じ歯列を持つおかげで、効率よく狩りをこなすことができる。

 一方でバンディクートには、人差し指と中指が癒合しているという特徴も備わっている。これはカンガルーやウォンバットなど草食動物に通じる共通点だ。こうした指の変化は樹上生活へ適応するための進化であり、かつてオーストラリア大陸に生息していた草食動物の多くが好んで取り入れていた。

 ややこしいことに、バンディクートは雑食動物でもある。種子や根茎はもちろん、昆虫やクモなど掘り起こした物は何でも食べてしまう。

 そのこだわりの薄さが進化の方向を迷わせたのだろうか。彼らは肉食動物とも草食動物とも付かない、どちらも掛け合わせたような奇妙な動物に進化した。バンディクートとは、他の動物から良いところを切り取って融合させた”キメラ”とも言える動物なのだ。

オーストラリアでは「バンディクート飛び出し注意」の道路標識も見られる
オーストラリアでは動物が道路標識に用いられることも珍しくない。バンディクートもそのひとつで、交通事故に巻き込まれないように配慮されている。(photo by:Robyn Jay)

ミミナガバンディクートとは何者か

 オオミミギツネが「bad-eared fox(コウモリ耳のキツネ)」と名付けられているように、ミミナガバンディクートにも「rabbit-eared bandicoot(ウサギ耳のバンディクート」という愛称がある。両者とも体の大きさにそぐわない巨大な耳を持ち、他の動物から名を借りている点も共通している。

 愛称そのままに、ミミナガバンディクートはネズミにウサギの耳を付けたような奇妙な顔をしている。また体型や大きさもウサギと酷似しているためか、実際にウサギと混同されやすい。さしずめオーストラリア界のウサギと言ったところだろうか。

 日本では「バンディクート」と名付けられるが、海外ではむしろ「ビルビー」と呼ばれることが多い。1950年にレッサービルビーが絶滅してからというもの、ビルビーを冠する動物は「Greater Bilby(オオミミバンディクートの英名)」を置いていなくなってしまった。そうした背景もあり、「ビルビー」とは単にオオミミバンディクートを指す単語となった。なお当記事でも例に倣い、以後はビルビーと呼ぶことにする。

 野を駆け、巣穴に潜み、爆発的な繁殖力を見せるなど、ウサギとの共通点は姿だけに留まらない。耳をピクピクと動かしながら神経質にあたりを探る様子もウサギさながらだ。ビルビーはあまり体が大きくないため、捕食者から襲われやすい。それゆえに大きな耳で周囲を探り、ヘビやトカゲ、猛禽類などの気配を感じ取っているのだろう。

 アナウサギのように所構わず穴を掘りたがる習性も、ビルビーを語る上では欠かせない。巣穴を作るにもエサを取るにも、彼らはまず穴を掘る。移動と休憩を除けば、彼らの生活は穴掘りで満たされているのだ。

 ビルビーの前足は、他のバンディクート形目と比べてもよく発達している。屈強な前足と共に爪を立ててやれば、地下にトンネルを開通させることも容易い。そうして巣穴を素早く掘り終えると、また別の場所で巣穴を掘り始める。彼らの情熱は大したもので、時には1匹のビルビーが、12個もの巣穴を用意するのだという。

 巣穴は単純なものから複雑なものまで様々だ。大きなものになると深さ2メートルに達し、トンネルの総横幅も3メートルまで広がる。

 トンネルはゆるやかにカーブしながら下へ潜っていくため、入口から内部を見渡すことができない。また、各トンネルに入口を設けておき、どこからでも巣穴へ潜り込める構造になっていることもある。こうした建築技術は捕食者を避けるのに役立つ。中身を確認できず、しかも複雑な迷路になっているトンネルへ挑みたがる捕食者はいない。ビルビーにとって巣穴は快適な家であると同時に、敵をやり過ごすための迷宮でもあるわけだ。

エサを掘り当て、生態系を掘り進める

 例え巣穴を掘り終えたとしても、ビルビーは穴掘りを辞めたりはしない。日々のエサもまた、穴掘りから得ているためだ。地中に潜んでいる昆虫を探り当てるべく、絶えず地面を引っ掻き回している。

 たとえばシロアリの巣を見つけた場合も、彼らは地下からの侵入を試みる。シロアリは巨大なアリ塚を形成するため、地上からでも簡単に見つけることができる。だが策もなくアリ塚へ挑みかかってしまえば、無数のシロアリから反撃を受けかねない。ましてビルビーは体毛が薄く、シロアリの噛みつきを防ぐことが難しい。四方八方からシロアリに噛まれてしまえば、痛みのあまり食事どころではなくなってしまう。

 そこで重要になるのが”トンネル”だ。地上が駄目ならば地下から、と言わんばかりにビルビーは地面を掘り進めていく。狭いトンネルを掘り進め、地下へ広がるアリ塚に穴を開けるのだ。

 この方法であれば、アリ塚に一方向から侵入することができる。シロアリに囲まれるリスクを抑えられるばかりか、侵入に気づかれてシロアリを興奮させる心配もない。あとは細長い吻をアリ塚へ差し込み、さらにアリクイのような長い舌を伸ばせば、安全圏からシロアリを捕まえられる。穴を掘るという手間はかかるものの、安全を確保しながらシロアリを堪能できるわけだ。

 ビルビーが狙うのはシロアリばかりではない。地中深くの根っこに住み着いている昆虫や幼虫も掘り起こす。夜行性ゆえに目はあまり良くないが、代わりにビルビーは嗅覚と聴覚に優れている。

 大きな耳を地面に押し当てれば、地下にうごめく昆虫の存在を聴き取ることができる。そうして獲物の存在を捉えると、今度は砂に鼻を突っ込んでニオイを嗅ぎ始める。嗅覚で獲物がいる方向を絞り、少しずつ掘り進めていくのだ。こうして視覚に頼ることなく、彼らは小さな昆虫を探り当てる。

 ビルビーがエサを探して掘る穴は、せいぜい25センチほどだ。決して深くはない。ただ試行回数が多いため、彼らの暮らす土地は穴ぼこだらけになってしまう。あるいは掘り返された新鮮な土があたりを染め、地面をより暗い色合いに見せる。ビルビーの影響力が垣間見える瞬間だ。

ビルビーは暗室でも迷うことなくエサを食べることができる
暗がりでエサを食べるミミナガバンディクート(ビルビー)。敵を避けるためによる行動するため、視力が弱くなったと考えられている。(photo by:Sean Kelleher)

 こうして掘り返された穴はやがて、オーストラリアの大地に恵みをもたらす。種子や球根、果物、菌類に至るまで、ビルビーは植物食にも積極的だ。時には未消化のまま植物の種を排泄し、その植物を遠くまで運んでくれる。

 またビルビーは食事と共に大量の砂を飲み込むため、その糞には多量の砂が含まれる。つまりビルビーに排泄された種は、糞という肥料だけでなく、疑似的な土壌も与えられた状態で落とされるわけだ。

 ビルビーが食べた種子は、糞に保護されたまま何か月も残り続ける。厳しい環境をやり過ごして雨の時期を迎えると、種もついに芽吹きを迎え、糞を肥料にして急速な成長を遂げていく。ビルビーの糞は植物にとって、優れた休眠ポッドとして働くわけだ。

 ビルビーが恵みをもたらす相手は植物だけとは限らない。彼らの糞に含まれている植物の残滓は、シロアリにとってもごちそうだ。そしてシロアリが集まってくれば、そのシロアリを求めて昆虫食性の動物たちも訪れてくる。ビルビーの堀場は、多くの生物を呼び寄せる餌場でもあるのだ。

 実際のところ、ビルビーがいない地域は植生のみならず、動物相も大きく変化してしまう。ビルビーの掘る力は生態系を進める上でも欠かせない要素であり、オーストラリアの景観を保つための土台でもあるのだ。

出産回数を増やして大繁殖する

 2019~2021年にかけて、カラウィンヤ国立公園では、保護活動の一環で36匹のビルビーが再導入された。天敵がいない理想環境において、ビルビーの生存力を測る目的もあったようだ。

 結論から言うと、この試みは大成功を収めた。野に放たれたビルビーは1か月と待たずに繁殖を始め、わずか3年で477匹にまで数を増やしたのだ。こと繁殖においてビルビーが素晴らしいポテンシャルを秘めていることは、誰の目にも明らかだった。

 爆発的な繁殖力の秘密は、”出産回数”にあるようだ。ビルビーは若くして繁殖を始める。生後6か月後にはすでに繁殖の準備を始め、年若いメスもすぐに出産を迎える。

 高齢出産もお手の物だ。ビルビーの寿命は6年ほどであるが、彼女たちは4歳になってもごく自然に出産する。若くして出産をはじめ、年老いてもその勢いは衰えないわけだ。そうしてビルビーのメスは生涯にわたり子を産み、数を増やし続ける。

 年間の出産回数も多い。季節を問わず繁殖できるため、ビルビーは出産回数も多くなりがちだ。育児に適した環境下では、年に4回出産することもある。妊娠期間は12~14日とも言われ、出産を迎えた翌日に妊娠することも珍しくない。育児に適した季節が過ぎ去らないうちに、少しでも多くの子を産もうとしているのだろう。

 こうした多出産は、有袋類である強みを最大限に活かした、ビルビーならではの戦略と言える。

 ビルビーを含む有袋類のメスは、基本的に膣を2つ備えている。それぞれの膣から異なるサイクルで卵細胞を排出し、体内に卵細胞を宿している期間を引き延ばしているのだ。これにより、オスがどのタイミングで現れても対応できるようになる。いつでも精子を授かり、卵細胞を受精させることができる。

 なお両方の膣から卵細胞が排泄され、どちらも受精するケースもある。この場合は、片方の受精卵を”眠らせる”ことで、重複妊娠を防いでいる。すでに片方の膣に胎児がいる場合、もう片方の膣では受精卵が成長しないのだ。

 有袋類はこの「胚休眠」を利用して、2つの膣が同時に妊娠を迎えないように調節している。そして出産と同時に胚休眠を解除することで、また安全に妊娠を迎えていく。

 ビルビーもまた、出産の翌日に妊娠することが珍しくない。そのカラクリもやはり胚休眠にあるのだろう。1度の出産数は平均2匹と少ないが、有袋類であることを利用すれば弱点も補える。出産回数を増やすことで、結果的に生まれてくる子の数も増やしているわけだ。

ビルビーの母親とその子供
ビルビーの母親とその子供。新生児は袋の中で育てられるため姿を見ることが難しい。母親と同じ体型にまで成長すると、ようやく袋から出てくる。(photo by:Dcoetzee)

メスを追いかけて進化するオス

メスが特異な進化を遂げるならば、オスもそれに追従しなければならない。これは有袋類にも当てはまる理屈らしい。有袋類の場合、メスが膣を2つ備えているように、オスも2股に分かれた陰茎を持っている。

 メスが片方の膣にしか卵細胞を宿していなかったとしても、両方の膣へ精子を届けておけば安心だ。逆に言えば、片方にしか精子を届けられないと、オスは2分の1の確率で精子を卵細胞へ届けられなくなってしまう。つまり繁殖に失敗してしまう。

 そのようなギャンブルは許容できるものではない。確実に自分の子を残すためにも、コイントスに身を任せることは避けたい。そこで有袋類のオスは、自身の生殖器を改良することにした。1度の挿入でメスの膣を両方とも満たすべく、陰茎を二股に変形させたのだ。

 こうして有袋類は性別それぞれに異なる進化を遂げていった。メスは出産数を増やすべく、オスは出産率を伸ばすべく、特異な生殖器を持つに至ったのだ。

 オスがメスを追いかけるのは、なにも進化に限った話ではない。異性を物理的に追いかける役割もまた、オスが担っている。それはビルビーも同じだ。オスはメスよりもはるかに広い範囲を移動し、多くのメスを見つけようとする。

 なお、オスは日頃からオス同士で序列を定めている。これもメスを見つけやすくする工夫のひとつだ。たとえば格上のオスは、格下のオスが残したニオイを上書きして自分のなわばりを広げようとする。行動域を奪い取り、メスと遭遇する確率を上げているわけだ。

強い子を育て、世代をつなぐ

 メスのビルビーにも序列がある。ビルビーは基本的に単独生活を好むのだが、メスはメス同士でペアを組むこともあるのだ。この場合のみ、彼女たちは”音”でコミュニケーションを取り合い、共同生活を送る。

 オスはニオイで遠くのライバルを牽制するが、メスは傍にいる同居者とだけ連絡を取り合う。この距離感の差がコミュニケーションの違いに表れているのだろう。メスたちは聴覚を通じて、ゆるい上下関係を維持している。

 ただし相手が同居者とはいえ、その優位性は覆しがたい。優位のオスがメスを訪ねてくると、同じく優位のメスがその相手を務めようとする。ビルビーはそれぞれの性別で優位性を証明し、より強いビルビー同士が結ばれるように画策しているのかもしれない。

 悲しいことに、ビルビーの生存率はあまり高くない。母親の袋から無事に出てこられる子供は、全体の25%しかいないのだという。1度の出産で2匹しか生まれないことを思えば、あまりにも低い数値だ。

 我が子の不幸を思えばこそ、ビルビーたちは自身の強さを証明したがるのだろう。強く生きる親から生まれた子は、やはり強く生きてくれるに違いない。あるいは母親が出産回数を増やすように進化してきたのも、生存率の低さを補う目的があったのかもしれない。

 ビルビーの成長は早い。生後直後は米粒程度の大きさしかないが、母親の袋の中で母乳をすすり急速に成長していく。70日も経てば、体重は200グラムを超えるだろう。これは出生時の100倍にあたる数値だ。ビルビーの子は著しい成長を遂げ、手狭になった袋から飛び出していく。

 ここまで成長すればひとまずは安心だ。袋を卒業した子供たちは、母親の巣穴で共同生活を送るようになる。

 だが母親に頼れる時期もそう長くはない。巣穴での生活も2週間ほどで終わりを告げ、若者たちは速やかに独立していく。自らの巣穴を掘り、狩りを通じて強さを学び、来たる繁殖に備えるのだ。新たなビルビーが産声を上げる日も、そう遠くはない。

大きな耳を立ててこちらを見つめるビルビー
ビルビーは捕食者に狙われやすく、若くして命を落とす個体も多い。早期から繁殖を始めるのも、そうした背景があるのだろう。(photo by:Queensland Government)




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