大地を穿つ孤高の建築家、ツチブタの巣穴がアフリカの動植物にもたらす生態系的恩恵

2025/12/10

(photo:NasserHalaweh)
名称(学名)
ツチブタ(Orycteropus afer)
分類
管状歯目 ツチブタ科 ツチブタ属
分布
サハラ以南のアフリカ全域
生息地
サバンナ、草原、森林、灌木地帯、半砂漠
体長
105~130㎝(頭~胴)、70㎝(尾)
体高
60㎝
体重
60~80㎏

アリクイとの収斂進化を超えて――孤高の系統を維持する「生きた化石」の真髄

 ツチブタはアントベアやケープアリクイなど、「アリクイ」にまつわる俗称で呼ばれることがある。アフリカ大陸の南半分に広く分布するこの動物は、その俗称が示す通り、驚くほどアリクイと近い生活様式を営んでいるからだ。主食がアリであるという基本的な特徴に加え、低体温を維持してエネルギー消費を抑える点、そして有事の際に屈強な爪を振るって敵を撃退する点など、多くの生態的共通点が見られる。

 しかしながらツチブタはアリクイの仲間でも、ましてやブタの仲間でもない。彼らは1属1種の極めて特殊な動物であり、他のいかなる動物群にも属さない孤高の系統を築いている。遺伝的に最も近縁とされるのはゾウやハイラックスだが、その共通祖先をたどるには、生物史をかなり遡る必要がある。この事実はツチブタが生物史上、非常に早い時期からその姿を維持し続けてきた「生きた化石」であることを示している。

 ツチブタが獲得してきたアリを食べるための特性は、アリクイとは異なる進化の過程によって獲得された、収斂進化によるものだ。その証拠にツチブタはアリクイよりもはるかに土を掘る能力に優れており、餌場、休憩所、住居などを目的に応じて積極的に掘り分ける器用さも兼ねそろえている。アフリカ最大の掘削動物としても知られ、時には10メートルを超える長いトンネルを掘ることもある。

 また、ツチブタによって掘られた巣穴の跡地は、他の動植物にも魅力的に映るらしい。リカオンやヤマアラシが住みついたり、ネズミや小鳥が一時的な隠れ家として利用するなど、ツチブタの巣穴は一種のインフラとして機能している。このような事実から、ツチブタはキーストーン種(生態系に多大な影響を与える種)や生態系エンジニア(生息環境を物理的に改変する種)として認識されており、アフリカの環境保全において極めて重要な役割を担う動物と見なされている。

大きな鼻や丸みを帯びた体がブタを連想させるが、行動や食性はアリクイと似ている。(photo:kellyabram)

嗅覚のフィードバックと強靭な胃袋――アリ食のプロフェッショナルが辿り着いた採餌の方法

 ツチブタは生態系だけでなく人間社会に対しても益獣として貢献してくれる。アリやシロアリを主食とする彼らの行動は、間接的に農作物を食害から守る結果につながるのだ。ツチブタを排除した地域ではシロアリの食害が拡大し、被害を受けた農作物の割合が60%に達したという事例も報告されている。逆説的にツチブタがもたらす利益の大きさが伝わってくる。

 彼らはアリ食のプロフェッショナルだが、無差別に捕食するわけではない。採餌場所に応じて消費するアリやシロアリの種類を調整し、通常は2~3種類に狙いを定める。アリを優先的に食べる傾向はあるものの、シロアリが優勢な地域や、アリが姿を消す冬季にはシロアリも捕食するなど、環境に応じて食性を変化させる柔軟性が見えることもある。巣を掘り起こしさえすれば大量に入手できる種に目星をつけ、どの季節でも安定して食料を確保できるように行動するのだ。

 ツチブタのエサ探しは嗅覚から始まる。鼻腔に土が詰まることも厭わずに、鼻を地面に密着させて地下のにおいを嗅ぎ回る。アリの巣に蓄積するフェロモンを捉えるためだ。ツチブタは動物の中でも最多とされる10~11個の鼻甲介を持ち、これが嗅覚を極めて高める要因となっている。鼻甲介は鼻の内部にある骨質の突起(ひだ)で、鼻腔の表面積を広げて、におい物質の吸着を助ける働きがある。これにより空気中のわずかな匂いも逃さず捉え、アリの存在や方向を特定できる。

 無事にアリの巣を見つけたツチブタはついに地面を掘り始める。リズミカルにふみふみと足を動かしながらも、時折、鼻を土につけてにおいを再確認することも忘れない。嗅覚のフィードバックを受けながら、効率的に巣を掘り起こそうというのだろう。ちなみにツチブタは鼻を動かすために表情筋を用いる。『鼻で笑う』という慣用句も、彼らにとっては物理的な意義を持つ行動にすぎない。

 食事の時間を予感すると、ツチブタは30㎝にもなる舌を伸ばしてアリを舐め始める。粘着質の唾液でアリを絡め取って、そのまま噛まずに飲み込むのだ。胃に放り込まれたアリは、強力な胃壁に押し潰されて消化される運命にある。ツチブタは歯で咀嚼する代わりに、胃壁を激しく動かしてエサをすり潰しているからだ。筋肉質な胃の幽門部は厚さ2センチに及ぶため、アリに食い破られたり、上手くすり潰せなかったりといった事故は起こらない。人間の胃壁が3~7ミリ程度しかないことを考えると、彼らの胃はおそろしく強靭なのだ。

ツチブタは基本的に夜行性だが、栄養条件が悪いと昼間も行動する。アリやシロアリを急減させるような気象・温度の変化を受けてしまうのだ。(photo:Eric Kilby)

 なおツチブタは食事でも歯をほとんど使用しないため、歯が抜け落ちてもまるで気にしない。個体ごとに歯の数が大きく異なっていることも、それを証明している。むしろ、なぜ未だに歯を残しているのか疑問視する声もあるほどだ。解答としては、突発的なエサとして幼虫やキュウリを齧ることもあるので、そうした食事に備えている可能性が示唆されている。

 ツチブタは歯だけでなく、毛皮にも有用性を見出せなかったようだ。肌はほとんど剥き出しで、まばらに生える毛も長さが2センチ未満しかない。食事の際はアリの反撃を肌にそのまま受けることになるが、角質化した皮膚がある程度は攻撃を防いでくれるので、短時間の採餌であれば問題はない。とはいえアリに群がられるとさすがに耐え切れなくなるのか、アリの巣から立ち去ろうとしてしまう。その後、新たなアリの巣を求めてまた移動し、まだ警戒心を煽られていないアリに襲いかかろうとする。糞の調査によると、ツチブタは1日に200ものアリの巣を訪れ、総数5万匹ものアリを食べていると推定されている。それだけの食欲を満たすまで、彼らはアリの反撃に耐えながら巣を破壊し続ける。

 ただし彼らの世界にもルールはある。一度訪れた巣は一週間ほど放置し、アリの増殖を待ってから再訪問するのだ。これはアリを食べる動物全般に見られる習性であるからして、「生かさず殺さず」の精神は、自然界の基本的な生存戦略なのかもしれない。

衝撃を分散する海綿状の骨格――「掘削」に最適化された生体構造とその扱い方

 アリを食べる動物は珍しくないが、ツチブタほど豪快に食事をするものはいないだろう。アードウルフは地面を歩くアリを拾い食いする程度でしかない。オオアリクイでさえ、アリの巣を少し崩して舌を差し込むにとどまり、巣を完全に掘り起こすようなことはしない。

 ツチブタの掘削能力は目覚ましく、5分間で1ヤード(約91センチ)の穴を掘り進めることができる。4本の前足それぞれにシャベルのような爪を備えており、これらを引っ掛けては土塊を効率よく崩していくのだ。もちろん優れているのは速度だけではない。深さ3メートル、長さ13メートルに及ぶ立派なトンネルを掘るだけの建築力も備えている。しかしこのような本格的な巣穴は一部に過ぎず、多くはアリの巣を開いただけの採餌所や、捕食者から逃れるための一時的な避難所として掘られる。ツチブタは状況や用途に合わせて掘り方を変える、器用な建築家なのだ。

 日常的に穴を掘るためだろう。ツチブタの体は掘削に適した構造となっている。四肢が短いのは重心を低くしてバランスを保ちやすくするためであり、長い尻尾は掘った反動を抑えるために使用される。どんな体勢や角度で穴を掘ろうとも、体のバランスを崩す心配はない。

 力強く掘り進めるべく、手足も頑丈に作られている。ただし骨組織については一概に「硬い」とは言えないようだ。強度だけでなく柔軟性も追求した結果、彼らの骨はまるでスポンジのような「歪みやすい」構造を持つようになった。

 通常、動物の骨格は発生過程で海綿状(スポンジ状)の骨を形成し、成長するにつれて硬い組織に置き換えられていく。ところがツチブタの骨は例外的に、骨組織の置き換わりが生じることなく、生涯にわたり海綿状の構造が維持される。

「掘る」という継続的で強い衝撃が加わっても、海綿状の骨はその衝撃を骨全体に分散させるので、一か所に衝撃が集中して破損するリスクは抑えられる。また、海綿状の空隙が骨をたわませる余白を与えるため、腕を曲げたり捻ったりしても、負担がかかりすぎない程度に骨を歪ませることもできる。これも疲労骨折のリスク低減につながる、骨の重要な働きだ。

 骨の破損を防ぐ施策はまだ他にもある。たとえば、ツチブタは人間のように手首を返す回旋運動ができない。尺骨と橈骨(とうこつ)が筋肉で強く固定され、可動域が著しく制限されているためだ。手の甲と手首を交互に見せるといった回旋運動を物理的に封じることで、前後に土を掘る動作に特化させているのだろう。

 さらには骨の配置にも物理的な意義が見られる。ツチブタは前腕骨(尺骨と橈骨)が、その上部にある上腕骨よりも長い。この構造はテコの原理が働きやすいため、わずかな力でより強い掘削力を発揮できるようになる。つまり力強いストロークを重ね続けても腕が疲れにくく、巣穴作りを途中で放棄するような状況を避けられるわけだ。

 ツチブタは自らの骨格を最適化させることで、どの動物よりも効率的で持久力に長けた掘削を可能としている。

腕を力強く振るってもバランスを崩さないように、あるいは衝撃を和らげやすいように、ツチブタの骨格は重心が低くなるように作られている。(photo:Polyoutis)

アフリカの大地を改変する生態系エンジニア――ツチブタキュウリの間に見える相利共生

 ツチブタを狙う動物は多い。ヒョウ、ハイエナ、ニシキヘビ…さらには人間も例外ではない。「見た目は牛肉、味は豚肉」と称される肉や、珍味とされる尻尾を求めて、ツチブタの狩猟が行われている地域もある。

 ツチブタが身を潜めている巣穴に飛び込むのは、捕食者にとって勇気を要する行為だ。ツチブタはいざとなれば穴の中で反転し、強靭な爪を突き立てて攻撃してくるからだ。あるいは追われながらも穴をさらに掘り進め、掘り返した土を後足で固めて通路を塞ぐこともある。そもそも入口が6つもある広大なトンネルが掘られている場合もあり、安易に侵入すれば穴の中で迷子になる危険性がある。穴に潜んでいるツチブタを捕まえるのは困難なミッションなのだ。

 ツチブタは定期的に巣穴をメンテナンスして、なるべく一つ所に留まろうとする。だが体臭や老廃物が蓄積すると捕食者を呼び寄せてしまうので、動物の世界では定期的に住居を変えることが一般的だ。ツチブタもその節理には逆らえず、最長で20日間ほど滞在すると巣穴から去っていく。かつて使用していた別の巣穴に移動して、そこでも微調整を重ねながら身を隠す。

 ツチブタの巣穴は非常に快適だ。トンネルの先に寝室が設けられていることもあり、寝返りを打てるほどの十分な空間が確保されている。外気が届かない密閉空間であるため、夏の最高気温が35℃、冬場には最低-15℃を示すこともあるアフリカの過酷な気象条件を凌ぐには打ってつけだ。特に、毛皮が薄く体温調節が苦手なツチブタは、日中を巣穴で眠ることでやり過ごしている。ちなみに眠っている間は、エネルギー消費を抑えるために代謝を落とす傾向にある。平熱は37℃ほどだが、安静時には34℃まで体温を下げるのだ。巣の快適さと安全性が、ツチブタに深い眠りをもたらしているのだろう。

動物園で飼育されるツチブタ。仰向けで眠ったり、眠りながら掘る動作を見せることもある。(photo:Alexander Wilkie)

 ツチブタが穴を放棄した場合、そこには数多くの動物が訪れる。リカオン、ハイエナ、マングース、イノシシ、ウサギ、コウモリ、フクロウ、トカゲ…。挙げればキリがない。隠れ家として羽休めをする者もいれば、腰を据えて生活する者、さらにはそこで子育てを行う者まで現れる。ツチブタは自身の意図しないところで、数多くの動物たちに憩いの場を提供しているらしい。

 またツチブタはより直接的に、他の動物にエサを提供することもある。地中深くのアリやシロアリにアクセスできる動物は多くない。それゆえにツチブタを見かけると、そのおこぼれを頂戴しようと近づいてくる者もいる。掘り起こされた勢いで飛び散ったアリをついばむ小鳥や、ツチブタが去った後にぽっかり空いた穴に侵入するアードウルフなど、追跡者も呼び寄せてしまうのだ。ただしこれら動物はツチブタに危害を加えることはないため、ツチブタもわざわざ追い返したりはしない。一方が影響を受けず一方は利益を得られるという関係性、すなわち片利共生の好例とも見られている。

 植物にとってもツチブタは欠かせない存在だ。地中に凝り固まったミネラルや栄養素を地上まで掘り起こしてくれるため、栄養に乏しい土地では生きられない植物もその周辺に定着できるようになる。その結果、ツチブタが暮らしている土地でしか見られない、局所的な植物環境が形成される。

 その最たる例として、ひとつの果実を挙げてみよう。ツチブタキュウリの異名で親しまれるその果実は、ツチブタにしか消費されないという極めて異質な性質を秘めている。そもそも地中で実を結ぶため、他の動物にはアクセスできないのだ。それでいて自力で種を芽吹かせることもできない。地上のウリ科植物よりも分厚い果実を付けるため、種が果実を突き破って出てこられず、腐るのを待つばかりという悲劇が待っている。

 この悲劇的な運命を救ってくれるのがツチブタだ。彼らには、栄養と水分を提供する代わりに、種を地上へ剥き出しにしてもらう散布者として働いてもらっている。ツチブタキュウリの種はツチブタの胃酸で処理されないと発芽しづらい性質を持つと考えられており、ツチブタに強く依存していることがうかがえる。

 またツチブタとしても、ツチブタキュウリは特別な果実に映るようだ。アリやシロアリは水分を豊富に含むため、食事だけで水分は足りており、その延長でツチブタは果実や野菜を食べようとしない。だがツチブタキュウリだけは例外であり、現地ではツチブタのためにこの果実をあえて収穫せずに残しておく習慣もあるそうだ。少なくともアフリカの地においては、この2種は互いになくてはならない、相利共生の関係にあると考えられているわけだ。

 一方的であれ両方向であれ、ツチブタが数多の動植物へ大きく貢献していることは間違いない。彼らはなくてはならないキーストーン種として、あるいはアフリカの大地を過ごしやすく改変する生態系エンジニアとして、今日も地中深くで土を掘り続けている。

(photo: Nick Helme)


参考文献:Wikipedia(en,pl,ca)/PMC(共生関係)/PMC(骨組織)

参考動画