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| photo by:Soren Wolf |
分布:南米
生息域:
体長:95~115㎝(頭~胴)、38~50㎝(尾)
体高:90~110㎝
体重:20~30㎏
警察騒動を引き起こした「大麻の臭い」で縄張りを主張、スカンクドッグの異名も
2006年、ドイツのロッテルダム動物園で事件が起きた。「大麻使用者の捜索」と銘打って警察が出動する騒動だった。ところが犯人はすでに檻の中にいた、というよりも人間ではなかった。大麻のにおいを漂わせていた者の正体は、動物園で飼育されているタテガミオオカミだったのだ。
このイヌ科の動物は「スカンクドック」とも呼ばれており、尿が独特のにおいを放っている。食事を植物食にかなり頼っており、しかも消化率があまり良くないため、植物由来の化学成分を尿に混入させやすい―――刺激臭を放ちやすいのだ。そして、そのにおいは時として「大麻のにおい」にも感じられ、人々を警察へ走らせてしまう。
人間社会では事件になりかねない強烈なにおいも、自然界では単なる自己主張の道具でしかない。タテガミオオカミはこの尿を用いて、縄張りの支配権を主張している。
これは互いに出遭わないようにするためのもので、縄張りを持たず放浪しているタテガミオオカミは、においとにおいの境界を縫うように移動して、誰かの縄張りを踏まないようにしている。彼らはオオカミと称されてはいるが、決して群れようとはせず、単独生活を営んでいるのだ。
オオカミでもキツネでもない?独自の進化で遺伝子の構造を失った、イヌ科の異端児
そもそも彼らはオオカミではない。ではキツネだろうか。キツネ色の毛皮、大きな三角形の耳、細身の体…。特徴から類推すると、キツネの仲間と言われても信じられそうだ。
しかし残念ながら、タテガミオオカミはオオカミでもキツネでも、ましてジャッカルやコヨーテでもない。他のイヌ科動物とは一線を画した「タテガミオオカミ属」に分類される。
遺伝子の構造にも大きな隔たりがあり、大多数のイヌ科動物が染色体を78本もっているのに対して、タテガミオオカミは染色体を76本しか有していない。はるか昔、南米でタテガミオオカミを除くイヌ科動物は絶滅してしまった。その際に進化の道筋も大きく違えたのが原因だという。
とはいえ彼らもイヌ科の一員には変わりない。その特性も十分に備えており、たとえばどのような環境下でも過ごせるタフな一面をみせてくれる。
主に現れるのは見晴らしの良いサバンナではあるが、低木地や湿地帯、はたまた耕作地や牧草地へ足を運ぶこともある。
ただし寒さには滅法弱く、高山地帯や鬱蒼とした森で見ることは叶わない。彼らの毛皮には下毛が生えておらず、低温環境で暮らすには向かないのだ。
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| photo by:TheOtherKev |
イヌ科の矜持は他にもある。たとえばイヌ科の十八番ともいえる雑食性を活かし、肉も植物もなく実に様々なものをエサにしている。タテガミオオカミの食事には、最大301種の食品(うち116種は植物、178種は動物)が記録されているのだという。
これほど「雑食」という言葉が似合う動物もいないだろう。
ただし食性は地域・季節ごとにまちまちで、肉と植物を50%ずつ食べることもあれば、食事の90%を果物に頼っている場合もある。その時々に合わせてエサを問わずに生き抜いていく姿は、間違いなくイヌ科に通じるものがある。
タテガミオオカミはいかにも恐ろしげな風貌をしている。イヌ科でもっとも背が高い動物なだけあって、ただそこに立っているだけで存在感を醸し出す。
名前の由来になっている「たてがみ」もまた、彼らの威圧感を引き立てている。平均47㎝もある毛のかたまりは普段、背中に張り付かせたまましなびている。だがひとたび警戒や怒りを覚えると、彼らはたてがみを立てて威嚇しようとする。ただでさえ大きな躯体がさらに大きく見えるのだから、対峙したプレッシャーは相当なものだろう。
口元から覗かせる鋭い牙や、飼い犬の声をしゃがれさせたような咆哮など、彼らに恐ろしさを感じる瞬間には事欠かない。
そのイメージもあってか、彼らは狩猟の対象になることもあった。「オオカミ=家畜泥棒」というイメージが先行し、オオカミそっくりなタテガミオオカミも犠牲となったのだ。
しかし彼らはむしろ臆病な性格をしており、大きな動物に対してはあまり攻撃的な態度を取ろうとしない。家禽泥棒くらいにはなりうるが、牛や豚を襲うことはないだろう。
それは人間に対しても同様で、むしろ彼らのほうが怯えた様子をみせる。たとえば動物園で飼育員がエサを投げ与える時でさえも、一定の距離を保ちながら、エサをキャッチしては逃げる、という動作を繰り返す。
警戒心と食欲の板挟みになっている姿には、オオカミというよりもむしろ、まだ我が家に慣れていない愛犬を見ているような微笑ましさを覚える。
背丈を活かして茂みから鳥に襲いかかるスタイル、300種の食品を平らげる雑食と狩猟能力
自身で狩りをするわけではないが、タテガミオオカミも大型動物を食べることがある。たとえばロードキル(交通事故で命を落とした動物)を見つけるなどして道端で死肉にありつく場合は、獲物の種類を問わない。
もちろん新鮮な肉も大好物だ。彼らは狩人の血もしっかりと受け継いでいる。少なくとも自動車と並走するくらいの速さで走ることができ、その脚を活かしてシカ狩りに興じることもある。
あるいは背丈の高さも武器になる。目線の高さを活かして草むらに潜んでいる鳥を見つけ、こちらに気づいて飛び立ったところを、ヒョイとジャンプして噛みつくのだ。
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| photo by:Soren Wolf |
目線が地面に向かうこともある。彼らはネズミ狩りも得意としており、キツネを思わせる身軽さで獲物を仕留めていく。
彼らはまず、耳をピクピクと動かしながら草原を練り歩く。その大きな耳は飾りではない。物音へ耳を向けるだけで、音の発生源―――獲物が潜んでいる方向や距離を割り出すことができる。草を揺らすネズミはもちろん、羽音を立てる昆虫でさえ、タテガミオオカミからは逃れられないだろう。
”足の長さ”もネズミ狩りには欠かせない武器だ。背の高い草むらにも足を取られる心配をせずに済み、少し強めに草を踏みしめてやれば獲物を驚かすこともできる。たまらず逃げ出した獲物を見つけることができれば、あとは踏みつけて捕まえるばかりだ。
時に彼らは悪知恵もはたらく。火事で草地が焼き払われると、普段は単独行動するはずのタテガミオオカミが集まってくる。もちろん狩りをするためだ。
大地は草を焼かれ、そこで暮らしていた生き物たちも隠れ場所を失ってしまう。なんとも気の毒な話ではあるが、タテガミオオカミからすれば、それは願ってもないチャンスに映る。泣きっ面に蜂。火事に狼である。ネズミや昆虫は逃げ隠れすることもかなわず、次々とオオカミたちの胃に収まっていく。
「バランスのよい食事を心がけなさい」。誰もが耳にしたことのあるその言葉は、動物にも当てはまるらしい。タテガミオオカミにとっては特に深刻な問題であり、飼育下で肉だけを与えられて育てられた結果、膀胱結石になってしまったケースもあるのだという。
肉食だけでは栄養が偏ってしまう。ならば植物も食べればよい。そう言わんばかりに、彼らは果物や塊根も口にする。特に”オオカミリンゴ”には目がないらしく、彼らはどの季節にもこのナス科植物を食べている。
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| オオカミリンゴ。学名「Solanum lycocarpum」 (photo by:João Medeiros) |
オオカミリンゴは俗称であり、厳密にはリンゴではない。丸々と太ったトマトにも見える果実は直径20㎝・重さ900gに達することもあり、腹を満たすには打ってつけだ。
ほのかな甘みとナス科らしい柔らかな食感も嬉しい。また乾燥した季節には、手ごろに水分を補えるジュースにもなってくれる。まさに完璧な食物として、タテガミオオカミの生活を支えてくれている。
そのお礼というわけでもないのだろうが、タテガミオオカミはオオカミリンゴの種をばらまく散布者として働いてもいる。種は消化されないまま糞便とともに排泄されるため、彼らが歩けば歩くほど、オオカミリンゴもより広範に広がることができるのだ。
さらにはアリ塚へ好んで排泄しようとする習性もまた、リンゴにとって嬉しい恩返しとなる。塚に住まうアリたちは、塚に引っかけられた種を丁寧に取り出して塚の外へ運ぼうとする。そのおかげでリンゴの種はしっかりと地面に着地でき、しかもオオカミの糞という肥料まで得られる。ただそこで実を落とすよりも、はるかに芽吹きやすくなるわけだ。
タダ食いは矜持に反するのだろうか。恐ろしげにみえるのは見た目だけで、オオカミリンゴは義理堅い栽培家なのかもしれない。
参考動画



