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| photo by:Eric Kilby |
分布:南アジア、東南アジア
生息域:密林、丘陵地
体長:68.6~108㎝(頭~胴)、61~91 ㎝(尾)
体高:50~55㎝
体重:11.5~23kg
千切れ雲のような迷彩模様、密林に姿を溶け込ませる隠密性に長けた神秘的なネコ
オシャレな模様に身を包む者が多い”猫科”の中でも、ウンピョウは特にシャレた毛皮で身を飾っている。淡い黄色のキャンバスに、一筆いれたかのような力強い黒線をいくつも描いている。
とりわけ肩からお尻にかけては、たくさんの楕円形が描かれており、徐々に形が小さくなっていく様が”千切れ雲”を彷彿とさせる。まさに雲豹―――ウンピョウと呼ぶにふさわしい模様だ。
だが自然界では、彼らの素晴らしい姿を目に収めることは叶わない。所狭しと木々の葉が広がるジャングルに身を潜めているため、そう簡単には見つからないのだ。
まして彼らは隠密行動を得意としている。毛皮の複雑な模様は茂みに溶け込んでしまい、しかも彼ら自身も外敵から姿を隠すべく、より見つかりづらい樹上へ身を置こうとする。少しでも危険を感じたならば、木々の合間を縫って跳びまわり、速やかにその場を去ってしまうだろう。
彼らの姿を捉えるなど、まさに雲をつかむような話だ。
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| フェイスペイントも麗しい。ぶち模様、黒筋、楕円、輪形…あらゆる形を組み合わせて、彼らは毛皮を飾っている。(photo by:belgianchocolate) |
霊長類にも引けを取らない木登り、太い尻尾と短い四肢で重心を支えるバランス能力
サバンナでは多くのヒョウが樹上生活をたしなんでいる。仕留めた獲物を木の上まで運び込み、ライバルが手出しできないうちに食事を済ませ、そして満足すると樹上でのんびりと睡眠をとり始める。木を”家”にすることで、他の動物よりも安全な生活を送っているわけだ。
ジャングルに住まうウンピョウもまた、”ヒョウ”の名にふさわしい登攀能力を見せてくれる。重さを感じさせない軽快なジャンプは、ひと跳びで1.2mの高さまで達する。
時にはジャンプの勢いが強すぎて、バランスを崩すときもある。そうした際には、長くて太い尻尾が役に立ってくれる。勢いを殺せずに傾いてしまった体を、尻尾をすばやく振った勢いで立て直すのだ。
彼らの尻尾はとても筋肉質で、太さも手首と同じくらいに膨れている。長さも相当なものだ。頭からお尻までの長さを超えることもある。
力強く、それでいて自由自在に動かせる繊細さも秘めているため、からだがどの角度に傾いたとしても、即座に尻尾を反対方向へ振りかぶり、その慣性を相殺することができる。”第5の脚”といっても差し支えないほどに、ウンピョウは尻尾を大活躍させている。
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| 尻尾もウンピョウのオシャレポイントだ。ぶち模様から輪状へと模様が移り変わっていく。 (photo by:Frida Bredesen) |
彼らは慣性を殺すだけでなく、うまく利用することもある。跳びついた幹へ爪を立てて体を支えれば、その勢いのまま木をよじ登ることもできる。あるいは枝をしならせて”踏切り板”のように利用して、そこから連続ジャンプでより高所を目指すことも可能だ。
彼らの手足はネコ科にしては短く、重心が下側へ寄っている。つまり重心が枝に近づきやすい体つきをしており、樹上でもバランスを崩しづらくなっている。
腕が太いのも、木にしがみつけるだけの腕力を確保するためだろう。しかもウンピョウは腕の可動域が広い。人間と同じように腕の骨―――尺骨と橈骨が分かれているおかげで、腕を”ねじる”動きがしやすいのだ。そのおかげで、枝の角度に合わせて腕を曲げ、枝に力をかけやすくなっている。
あるいは後脚もかなり力強く、後脚と尻尾だけで枝にぶら下がるという曲芸すら可能にしている。通常、ネコ科動物は高所からジャンプして木を降りようとするのだが、ウンピョウは頭を地面に向けたまま、後脚でバランスを取りながら駆け下りることもできる。リスが木の幹を自由自在に動き回るように、ウンピョウもジャンプせずに樹上を移動できるわけだ。
木登りならぬ”木下り”も習得しているとは恐れ入る。実際、彼らの登攀能力は霊長類にも匹敵し、カニクイザルやテングザルを獲物として追いかけることもあるのだという。
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| photo by:angela n. |
サーベルタイガーを思わせる大きな牙、90度も開閉できる顎から生み出される破壊力
ウンピョウは”ヒョウ”の名に恥じない運動能力を秘めている。だが面白いことに、彼らはヒョウとはまた異なる存在であるらしい。
ヒョウは「ヒョウ亜科ヒョウ属」に属する動物だ。一方で、ウンピョウは「ヒョウ亜科ウンピョウ属」に属しており、もっとも近しい動物は”スミロドン”なのだという。
スミロドンはいわゆる「サーベルタイガー」で知られている動物種で、残念ながら現代ではすでに絶滅してしまっている。大型種はトラに匹敵する巨体を誇っており、それ以上に、口からはみ出んばかりに付き出した上犬歯が特徴的だ。その牙は実に25㎝へ達することもあり、大型の草食動物を狩る際に役立ったと考えられている。
これら太古のネコと比べると、ウンピョウはあまりにも小さい。またスミロドンはマンモスを狩るなど、地上生活に特化していたと思われる。これもやはり、樹上生活を主とするウンピョウとは噛み合わない。
だがそれでも、ウンピョウが太古の血を引いていると納得させられる瞬間がある。間の抜けた話ではあるのだが、彼らがあくびした瞬間を目にすれば、その恐ろしい歯並びに気づくだろう。
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| photo by:Tambako The Jaguar |
彼らは犬歯が非常に大きく、特に上犬歯は4㎝以上となることもある。体の大きさに対して犬歯がもっとも長いネコであるとして、『現代のサーベルタイガー』と称されることもあるほどだ。
また顎も特殊な構造になっており、下顎をかなり大きく―――90°の角度まで開けることができる。ただあくびするだけで口内が余すことなくさらけ出され、その犬歯の鋭さには恐怖すら覚えてしまう。
実際、彼らの噛みつきは恐ろしい破壊力を秘めている。咬合力(噛む力を体重で割った値)は137とされ、これは飼い猫の約2倍に匹敵する。あるいは犬歯の先端にかかる力は544.3ニュートンに達するともいわれる。簡単にいえば、55㎏の荷物を持ち上げられるくらいの力が、噛みついた物体にかかるわけだ。
つまるところ、ウンピョウはスミロドンから「頑丈な頭」を受け継いでいる。そして彼らはおそらく、その力を活かして大物狩りに興じている。たとえば、ビントロングやホッグジカを咥える姿が目撃されている。前者は30㎏に、後者は50㎏に達することがある大物だ。
そしてこれら動物は地上性であるからして、ウンピョウもまた地上の狩りを得意としていることがうかがえる。樹上でジリスやブタオザルを追い回すこともあれば、スミロドンよろしく地上で大物相手に牙を突き立てることもあるわけだ。
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| ウンピョウの頭蓋骨。下顎の厚みや、犬歯の長さには驚かされる。 (photo by:Blutgretchen) |
強すぎる顎が引き起こす繁殖期の悲劇、兄弟との遊びや挨拶「チャフ」を通じて学ぶ社会性
ウンピョウは噛む力が強すぎるあまり、時に悲劇を引き起こす。たとえばオスのウンピョウは、ときおりウンピョウの子を噛み殺してしまう。あるいは交尾の際にもオスはメスの首筋へ噛みつくのだが、力が強すぎてそのままパートナーをかみ殺してしまうこともある。
首筋を噛むこと自体は問題ではない。ウンピョウは他の仲間とじゃれつく際、相手の首を後ろから甘噛みする習性がある。交尾を進める上でも、「首を噛む」という行為は、交尾を促すための儀式的な手順として用いられている。本能に基づいた行動なので、止めようがないわけだ。
とはいえ、自分より大きな獲物も仕留められるほど顎が強いのだ。力加減を間違えれば、すぐにでも悲劇は訪れる。それを避けるためにも、幼少期から兄弟とスキンシップを取り、適切な距離感を学ぶ必要がある。
彼らはとてもわんぱくで、幼少期もまるで”暴れる”ような勢いで遊びまわる。木へ跳びつく反動が強すぎてそのまま後ろへ転がってしまったり、伸びている枝をボロボロになるまで齧ったり、どうにも力を抑えきれない様子だ。
それは兄弟に対しても同じことで、獲物を仕留めるかのような勢いで体当たりしたり、相手の頭を両手で抑え込んで首を噛んだりと容赦がない。野生の血が騒ぐのだろう。力加減はしているのだろうが、いかんせん勢いが強く、飼い猫のような穏やかなスキンシップとは程遠い。
もし彼らがスキンシップに慣れていないまま交尾へ臨んでしまえば、相手に対する過剰な興味が災いして、パートナーを痛めつけてしまうだろう。用法は誤っているが、『好奇心は猫を殺す』わけだ。
だが彼らは遊びから学ぶことができる、賢い動物でもある。兄弟との遊びを通して力加減を学び続ければ、相手を傷つけない絶妙な”甘噛み”も覚えるだろう。
さらには”挨拶”も身につけていく。彼らは猫が喉を鳴らす要領で、”チャフ”と呼ばれる特殊な音を出すことがある。これは相手に対して親愛の意を示す音であり、相手もチャフを返した場合は、そのまま好意的なスキンシップがはじまる。
面白いことに、彼らは人間相手でもチャフを返してくれる。飼育員がウンピョウの挨拶を真似すると、ウンピョウもチャフを返しながらじゃれついてくるのだ。
背中へよじ登り、肩を両手でつかみ、頭部を舌で舐める。人間相手にはたとえ甘噛みでも痛みを与えてしまうと理解しているのだろうか。彼らはひたすら髪の毛をペロペロと舐めて、親愛の意を示してくれる。
種を超えて適切なスキンシップを図れるのだから、同じ仲間と信頼関係を結べない道理はない。『雲外蒼天』。雲の先には青空が広がっているものだ。雲模様で身を隠しながら生活する彼らの心の内にも、同族へ対する優しさが眠っているに違いない。
参考動画





