性別を偽る、オスを集めて戦わせる…異性を惑わすメスのフォッサは世渡り上手

食肉目

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枯葉の中で横たわるフォッサ
(photo by:Rod Waddington)
名称(学名)
フォッサ(Cryptoprocta ferox)
分布
マダガスカル島
生息域
森林、サバンナ、高山地帯
体長
60~80㎝(頭~胴 )、55~90㎝(尾)
体高
約37㎝
体重
5~12㎏

フォッサを生み出した箱庭のような島

 マダガスカル島は『ノアの箱舟』を彷彿とさせる生命の宝庫だ。旧約聖書の一幕では、地上を生きるすべての動物が大洪水で命を落としてしまう。だがノアとその家族、あらゆる動物のつがいを乗せた「ノアの方舟」だけは無事に残され、新世界の担い手として命を育んでいった。

 ノアの方舟が「種の保存」を担ったように、マダガスカル島もまた、種の多様性を保つための箱庭として機能してきた。今から約8000万年前にアフリカ大陸から分離してからというもの、この島国には外部の生物が訪れることもなく、独特の生態系が守られ続けてきたのだ。

 土地面積は日本の1.6倍ほどであり、これは地球全体の表面積のわずか0.1%にすぎない。だが、これほど小さな島でありながら、マダガスカル島の生態系は驚くほど多様性に富んでいる。

 世界最小のナノカメレオンから世界最大のパーソンカメレオンまで、70種を超えるカメレオンが生息しているだけでなく、熟れたトマトのように赤く膨らんだアカトマトガエルなど、奇妙な両生類にも恵まれている。

 昆虫に目を向けてみても面白い。体長を超えるほど首が長いキリンゾウムシや、縦にも横にも15センチ以上のサイズとなるコメットモスなど、目を疑うような形状が飛び込んでくる。

 あるいはマダガスカル島はよほど居心地がよいのか、マダガスカルヤツガシラは本能的な行動すら放棄してしまった。本来、ヤツガシラに属する鳥は、渡り鳥として知られているのだが、マダガスカル島で暮らしている種に限り、年間を通して島内に定住しているのだという。

マダガスカル島の固有種として知られるバオバブの木
マダガスカル島には個性豊かな植物も生えている。写真はバオバブの木。世界に9種存在し、その内6種がマダガスカル島の固有種なのだという。
(photo by:JeanFiFou)

 昆虫から哺乳類に至るまで、そこで暮らす生物種の80~90%以上がマダガスカル島でしか見られない固有種であり、それゆえに奇抜な姿や行動を見せるものも多い。当然、フォッサもその一員だ。ピューマをギュッと縮めたような姿はネコ科動物を思わせるが、フォッサはあらゆる科から独立したマダガスカルマングース科に属している。

 そもそもマダガスカル島にはネコ科動物はおろか、イヌ科動物も生息していない。8000万年という歴史の中で多くの固有種が育まれてきたのも、強大な肉食動物が侵入を阻まれ続けてきた、閉鎖的な環境によるところが大きい。

 フォッサもその恩恵を大いに受けており、マダガスカル島の頂点捕食者という地位に収まることができた。天敵に怯える心配がなく、あらゆる生物をエサとして利用できる支配的な地位を、ネコ科動物の代わりにフォッサが占有したわけだ。

ネコのように進化したネコではない動物

 おもしろいことにフォッサは地位だけでなく、その姿や能力までもがネコ科動物と酷似している。たとえば地面や枝に寝そべってリラックスする姿は、日向ぼっこをする野良猫を彷彿とさせる。

 毛づくろいする姿もネコそっくりだ。首を器用に動かして体を舐めたり、後脚を伸ばして胸元を掻いたりと、フォッサは柔軟性も見せつける。また、時にはお互いを毛づくろいするのだが、その舐めっぷりはあまりにも荒々しい。加減を知らないカラカルのように、相手から不機嫌な声を返されることもある。

 しかしフォッサを最も”ネコらしく”感じるのは、何と言っても木登りの時だろう。垂直な幹であろうと躊躇なく駆けあがり、枝から枝へ大胆にジャンプを重ねていく。さらに、長い尻尾を振り回せば、跳びついた衝撃を相殺することも可能だ。こうした行動はすべてネコ科動物、それも樹上生活に長けているネコ科動物との類似点になっている。

 それだけではない。力強い四肢で枝にしがみついたり、鋭い爪を幹へ突き立ててピック代わりにしたり、フォッサはあらゆる体勢で樹上に留まることができる。ネコ科動物と同様に爪を出し入れできるので、歩き回るうちに爪がすり減る心配はない。むしろ幹を引っ掻いて爪を研ぎ、その鋭さを維持しているほどだ。そうして爪の摩擦力を高めておき、時には体を逆さまにしたまま幹へ抱きつき、手足の力だけで木を降りるという芸当すら見せてくれる。

ネコのように丸くなって眠るフォッサ
丸くなって眠る姿もネコを思わせる。日頃から枝をよく掴むためか、棒状のものを抱き枕代わりにすることもある。
(photo by:Josh Henderson)

木を登るためにネコと化した?

 彼らがネコのように行動する―――木登りを得意とするのは、彼らの食性によるところが大きい。フォッサは食事の半分以上をキツネザルで賄っている。霊長類も顔負けの登攀能力を駆使して、樹上を逃げ回るキツネザル狩りに興じるのだ。

 小柄なサルを獲物にする動物は珍しくないが、マダガスカル島において素早いキツネザルを、それも体重1キログラムを超える大型のキツネザルを狙う動物はフォッサを置いて他にはいない。

 なおフォッサは単独行動を好むのだが、ごく稀に仲間と協力してキツネザルを狩る姿が目撃される。追い込む役割と捕まえる役割に分かれて、効率よく獲物を捕まえるわけだ。こうして仲間と協力できるのは、かつて大型動物を捕まえていた名残ではないかと言われている。

 いずれにせよフォッサは現代においても、大型キツネザルさえも獲物にしてしまう頂点捕食者として、マダガスカル島の森林地帯を支配している。

キツネザルもマダガスカル島の固有種であり、100種以上も生息している。画像は代表的なキツネザルであるワオキツネザルのもの。
(photo by:RoyBuri)

 フォッサがネコ科動物と見紛うような進化を遂げたのは、おそらくキツネザルを追いかけて登攀能力を磨いてきた結果だろう。生物は似たような環境に置かれると、種を越えて似たような進化を果たす。こうした進化は「収斂進化」とも呼ばれ、フォッサの姿や能力はまさその典型的な例であると言える。

 この紛らわしい進化は、古く生物学者たちを悩ませてきた。ネコなのかマングースなのか、はたまたジャコウネコなのか…フォッサをどの動物に分類すべきか、多くの議論が交わされてきた。たとえば、かつてフォッサはネコ科の一種に分類されたことがある。当時はシンプルに見たままで判断していたのだろう。

 やがてDNA検査がさかんになると、フォッサはむしろマングースに近い種であることが判明した。事実、彼らはマングース科の特徴も持ち合わせており、たとえば臭腺がとてもよく発達している。フォッサは胸元が濃いオレンジ色に染まるのだが、これはニオイ物質を多量に分泌することが原因だ。カレーを食べ続けると歯が黄ばむように、強烈なニオイをまとい続けたフォッサは、胸元が鮮やかになっていくのだ。

 フォッサは胸元や肛門を木になすりつけて、自分のニオイをその場に残そうとする。こうしたマーキング行動そのものはネコ科動物にも見られるが、ニオイの強さはネコ科の比ではない。明らかにネコとは異なる性質を秘めているため、彼らがマングースに近縁の動物であるという話にも説得力があった。

 さらに遺伝子調査が進むと、彼らはマダガスカル島でしか見られない特別な種であることも判明する。大陸で見られるようなマングースとは遺伝的に隔たりがある奇妙な動物であり、しかも島内に暮らしている他の肉食動物たちと祖先を同じくするという事実も解明されたのだ。そうしてフォッサは紆余曲折を経て、ネコ科でもマングース科でもない動物―――マダガスカルマングース科を代表する動物として広く知られるようになった。

特殊な肛門構造でニオイ漏れを防ぐ?

 他の動物との類似点ばかりに触れてきたが、フォッサは当然、フォッサならではの特徴も備えている。そもそも学名からして珍妙だ。「Cryptoprocta」を直訳すると、「隠された肛門」となるのだから。

 言葉通りフォッサの肛門は開口部が肛門嚢で包まれており、ニオイ物質が外に漏れづらくなっている。わざわざ肛門を隠している理由は定かではないが、「ニオイ物質を節約してマーキングの効率を上げている」「ニオイを隠すことで獲物や他のフォッサや気づかれづらくする」といった仮説が囁かれている。

 あるいはスカンクのように、ニオイ物質を噴射させやすくして、外敵から逃れる手段にしていた可能性もある。今でこそ頂点捕食者に収まっているが、より古い時代では、フォッサを脅かすような動物がマダガスカル島に暮らしていたとしても不思議はない。

 いずれにせよフォッサの肛門は、物理的に秘匿されているだけでなく、その歴史的背景を探る手掛かりも隠されているわけだ。

オスたちを手玉に取るメスの繁殖術

 フォッサにとってニオイが重要であることは疑いようもない。とりわけ繁殖期には、オスを手玉に取るための策略として、メスたちがこぞってニオイを活用する。

 メスはお気に入りの木を見つけると、体をしっかりと擦りつけてニオイ物質をまぶし、長期にわたり自分の香りがあたりへ漂うように画策する。この香りがオスを呼び寄せる。「未来のパートナーが得られるかもしれない」という期待を胸に、オスたちが木の近くに横たわって待機するのだ。

 繁殖期の動物には珍しく、フォッサのオスは他のオスと争う素振りを見せない。そっぽを向いて不干渉を貫くか、稀なケースではあるが協力して狩りに勤しむこともある。ライバルと見ればすぐにでも威嚇やケンカの応酬が始まるネコ科動物とは対照的だ。フォッサの社交性が伺えるというものだろう。

 ただしメスを待っているうちに焦れてくるのか、日が経つごとにオスたちは敵対的な態度を見せるようになる。ガチョウが鳴くような低い声を出して不機嫌をアピールしたり、荒々しい動作に身を任せて苛立ちをぶつけたり、一触即発なムードがあたりを包み込む。

 やがて十分に場が温まると、ようやくメスが登場する。オークション会場に品物が届いたかのような熱狂の中でも、メスの態度は飄々としたものだ。お気に入りの木へ登ると、オスたちを品定めするかのように体を横たえてしまう。

 オスとしては、すぐにでもメスが居座る樹上へ駆けつけたいところだろう。だがアピールしている最中に、他のオスから邪魔されては適わない。まずは地上でオス同士の小競り合いが始まり、弱いオスは追い出されてしまう。そうして強いオスだけがメスにアピールする権利を得て、木を登り始める。

 だがオスが得られたのはあくまでも権利に過ぎない。メスは必ずしも近寄ってきたオスを受け入れるわけではないのだ。むしろオスの力不足を嗅ぎ取ると、木から叩き落とそうと激しく抵抗することもある。四肢を枝に絡ませたまま、激しい咆哮と共にパンチを浴びせるのだ。

 出展者がみずから客を集め、客を試し、あまつさえ客を追い払うこともある。この珍妙なオークションを経ることで、フォッサのメスは確実に強いオスを得ようとしている。異性の選択権がこれほどメスに偏っている動物も珍しい。樹上生活を主とするフォッサだからこそたどり着いた、特異な繁殖形態と言えるだろう。

木の上から見下ろすように目線をやるフォッサ
フォッサのメスはオス選びから交尾まで、繁殖行為のすべてを樹上でこなす。日頃から木の上で暮らしているフォッサだからこそ、繁殖も樹上で終えるのだろう。
(photo by:SeaReeds)

子を確実に得られるオスの交尾術

 オスもただ黙ってメスに従うわけではない。自分の子を少しでも残しやすくするために、施策を携えてメスに挑むようだ。

 フォッサのメスはたとえ交尾の瞬間を迎えても木から降りようとしないため、オスは枝の上でことに及ばなければならない。不安定な足場でアクロバティックな交尾を求められるのだから、オスもそう長い時間はかけられないに違いない。

 ところが予想に反して、フォッサの交尾は類を見ないほど長時間に及ぶのだという。1度の交尾に14時間かけることもあるというのだから驚きだ。オスはメスの背をしっかりと掴んで、決してメスと離れまいと必死だ。2頭分の体重を乗せて枝が激しく揺れようとも、つがいはバランスを崩すことなく目的を果たしていく。

 たとえ交尾に成功したからと言って、他のオスに対する牽制も忘れてはならない。フォッサのメスは複数のオスと交わる可能性があるため、交尾を済ませたからといって油断はできない。樹下で待っている他のオスに奪われないように、メスを占有したいのが本音だ。

 それゆえにフォッサの世界では、メスに選ばれたオスが数日間にわたり樹上へ留まり、メスと何度も交わろうとする。交尾を重ねるごとに受精率は上がり、他のオスがメスに接近することも防げる。一石二鳥の防衛網を敷くことで、自分の子を残しやすくしているわけだ。

『神は細部に宿る』とはよく言ったもので、フォッサのオスは細かい部分にまで工夫を凝らしている。というのも彼らは交尾行為のみならず、交尾へ用いる陰茎にまで工夫を凝らしているからだ。

 たとえば陰茎の先端には”棘”のような構造が付いている。陰茎をメスの膣に挿入した際、棘の圧迫感が良い刺激となり、メスの排卵を促すのだという。

 あるいは陰茎に陰茎骨を忍ばせていることも、オスが用意した施策のひとつだろう。骨が支えになって陰茎の硬さを保ってくれるので、長時間の交尾にも耐えるようになる。また、交尾中に体勢を崩したとしても陰茎が抜けずらくなるため、そのまま体勢を整えて交尾を続けられる。枝から落ちることを怖れたメスが逃げ出す、といった事故も防げるわけだ。

 こうしてオスは細かい施策も重ねて、物理的に交尾時間を延ばしている。メスの厳しい審査を通ったからには、確実に子を残さなければオスも報われない。執念ともいえるオスの想いが形となり、交尾形態にも特異な変化を与えたのだろう。

筋肉質な体を見せつけながらエサを両腕で掴んで食べるフォッサ
フォッサは掴む力が強いため、メスに木の上からたたき落そされそうになっても、オスは枝やメスの体を掴んで樹上に留まることができる。
(photo by:zoofanatic)

オスを偽って安全に生きていくメスフォッサ

 波乱の交尾期が過ぎ去ると、フォッサの母親には試練の時が訪れる。父親は交尾を終えると去っていくため、子育てには関与しない。つまり最大6匹の子どもを、母親は1頭で世話しなければならない。

 しかもフォッサの子供は、かなり未熟な状態で生まれてくる。目を離してしまえば、他の肉食動物から襲撃を受けかねない。わが身の心配はないとはいえ、非力な子供を抱えながらの生活は気苦労が絶えないだろう。

 なおフォッサは成長速度も非常に遅い。離乳するまでに約4か月、大人と同じサイズに成長するまでに2年ほどかかるのだという。参考までに、フォッサよりわずかに大きい程度のカラカルの場合は、離乳するまでに2か月半、大人と同じサイズに成長するまでに1年ほどかかる。

 生態系の頂点に君臨するからこそ許される”晩成型”の育児とも取れるが、フォッサの母親にかかる負担は計り知れない。

 ゆるやかに、されど無事に成長を遂げられた若者たちは、やがて親元から離れていく。母親に教わった狩りの極意を試しながら、少しずつ経験を重ねていく時期に入るのだ。幸いなことに、フォッサは繁殖に参加するまでの猶予期間も長い。性成熟を迎えるまでに3~4年ほどかかるため、それまでは実力を伸ばすことに専念できる。

 ただし若いメスは、熟練のオスから言い寄られるリスクを抱えている。まだ子を産めないメスにとって、交尾行為は時間とエネルギーの無駄でしかない。仮に子を産めたとしても、未熟な母親に子育ては難しいだろう。ましてフォッサは晩成型だ。しっかりと準備してから育児へ励まなければ、子どもの成熟は望めない。オスとの交尾は、是が非でも避けたいところだ。

 そこで若いフォッサのメスたちは、奇妙な対策を施すようになった。疑似的な陰茎を生やしてオスを装うのだ。

 これも一種の擬態と言えるだろう。遠目からはオスが歩いているようにしか見えないため、異性を求めて練り歩くオスのフォッサが近づいてくるのを避けられる。あるいは力強いオスを偽ることで、弱いメスからエサを奪おうと目論むライバルも遠ざけられる。

 そうして他のフォッサから逃れつつ、若いフォッサのメスも安全に性成熟を迎える。不思議なことにフォッサの疑似陰茎は、成長を重ねるごとに縮小していくのだという。限界まで小さくなった疑似陰茎は異性を惹きつけ、やがて若いメスに決断を迫るようになる。かつて母親がそうであったように、オスたちを手玉に取りながら次代を紡ぐメスの姿が見られる日も、そう遠くないだろう。




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