地球温暖化でウサギが絶滅?「毛色のミスマッチ」と戦いながら進化を急ぐ北米のカンジキウサギ

2025/06/03

カンジキウサギの全身像。通常のウサギに比べると耳や尻尾が小さい
photo by:Dave Doe
名称(学名)
カンジキウサギ(Lepus americanus)
分布
北米大陸
生息域
森林、湿地、農地
体長
36~52㎝(頭~胴 )、2.5~5.5㎝(尾)
体高
20~30㎝
体重
1.1~1.6㎏

1年で200羽に増える驚異の繁殖戦略、ウサギ科が備える「交尾排卵」と重複妊娠の仕組み

 2022年、神奈川県で珍事が起きた。ある一般家庭において、ペットのウサギが増えに増えて飼育崩壊を起こしたのだ。ウサギたちは2羽から始まり、わずか1年で100羽以上まで数を増やした。そして外部へ助けを求めるも時すでに遅く、問題解決までの準備中にその数は200羽を超えたのだという。

 飼い主は動物への愛情が深いゆえに、どのウサギも見殺しにできなかったのだろう。それゆえにウサギたちは理想的な環境を提供され続け、本能のままに繁殖を続けしまった。愛情と知識不足が結びついて起こった、悲しき事件だったといえる。

 それにしてもウサギの繁殖力には驚かされてしまう。だがこれは決して珍しい話ではない。家庭も野生もなく、ウサギ科に属する動物はみな、異様なまでの繁殖力を備えているからだ。

 ウサギは1度に2~6匹を出産し、そのすべてが早熟ですぐに繁殖可能となる。生後4か月ほどで自らも子をなして、速やかに世代交代を果たしていく。

 子どもを授かりやすい体質であることも、繁殖力の強さを押し上げている。たとえばウサギ科の動物は「交尾排卵」という仕組みを採用している。メスはあらかじめ卵細胞を用意しておくのではなく、交尾のたびに卵細胞を排卵するのだ。

 この方法であれば、卵細胞をつねに新鮮な状態に保っておける。卵細胞と精子を結びつける力が強く保たれ、それだけ子も授かりやすくなる。また着床のタイミングを最適化できるので、ホルモンバランスも整えやすくなる。膣は適切な環境に保たれ、そこに置かれた受精卵も健やかに育っていく。

 なおウサギは交尾に30秒とかからないため、繁殖行為そのものが妨害されづらい。これは特に自然下で有益な性質だ。あるいは出産の機会を増やすことにも熱心だ。メスは子宮を2つ備えており、すでに妊娠している状態でさらに妊娠することができる。そうして年に3~4回の出産を迎えて、ウサギたちは爆発的に数を増やしていく。

10年周期で繰り返される大増殖と激減のドラマ、カナダヤマネコと連動する生態系の歯車

 自然界においてもウサギの繁殖力は特筆すべきものがある。たとえばカンジキウサギでは交尾排卵のしくみも相まって、交尾した際の妊娠率がほぼ100%に達するのだという。

 またカンジキウサギは成長も早い。新生児は体重がカイウサギの約2倍もあり、生まれて数日で走り回るようになる。固形食へ移行するまでの期間を短縮して、より素早く巣立ちを迎えようというのだろう。

 ウサギ科の動物はなぜこれほど急速な繁殖を目指すのだろうか。その答えは外敵の多さにあるのかもしれない。たとえばカンジキウサギの場合、ヤマネコ、コヨーテ、タカ、フクロウ…あまりに多くの動物がその肉を求めて襲いかかってくる。場所によってはカンジキウサギのみを主食とする動物もいるほどだ。特にカナダヤマネコは代表的な捕食者であり、食事の90%以上をカンジキウサギに頼ることもある。

 敵だらけの自然界において、カンジキウサギの死亡率はあまりにも高い。カンジキウサギ148羽に無線を取り付けた事例では、わずか7羽しか換毛サイクルを周回できなかったというデータも得られている。夏毛と冬毛を経験できる、つまり1年間を生き永らえるカンジキウサギは5%にも満たないわけだ。

頭上からウサギに襲いかかるワシ
カンジキウサギが好んで森林に住み着くのも捕食者を避けるためなのだろう。木々が生い茂る場所では鳥類も思うように跳びまわることができない。
(photo by:teddy58)

 カンジキウサギの寿命は2年ともいわれ、絶えず捕食者から襲われるリスクを負いながら暮らしている。その短い期間に子を残せなければ血脈は途切れてしまい、カンジキウサギという種そのものも失われてしまう。だからこそ彼らは限りある生をまっとうすべく、迅速かつ多産的な繁殖形態を示すようになった。喰われてしまうならば、それ以上に増えればよいというのだろう。

 この極端なまでの繁殖形態は、野生下において興味深い現象も引き起こしている。カンジキウサギは爆発的に増えた後、今度は急速に減少していくという増減サイクルを見せるのだ。このサイクルは完了するまでに約10年かかり、その間、彼らの生息数が安定することはない。1平方マイル(約2.6平方キロメートル)に1羽しか暮らしていない年もあれば、1平方マイルに1万羽を超える年もあるのだという。

 面白いことに、カンジキウサギのサイクル変動は他の生物にも多大な影響を与えている。たとえば爆発的に増えては植物を食い荒らしていくため、その土地における景観も激しく入れ替わってしまう。また他の草食動物から間接的にエサを奪うことになるので、動物の生息数にも影響を与える。草食動物を餌にしている肉食動物も影響は免れず、それらの死骸をエサにしている昆虫や微生物も変化を余儀なくされる。カンジキウサギは自身の数だけでなく、より広域な生態系にも変化をもたらしているわけだ。

 特に影響されやすいのが、カンジキウサギをエサにしている捕食者たちだ。とりわけカナダヤマネコは直接的な影響を受けており、カンジキウサギと同じような増減サイクルをみせる。ウサギが数を増やせばヤマネコも数を増やし、ウサギが激減し始めるとヤマネコも激減していく。まるでカンジキウサギを追いかけるように、カナダオオヤマネコも増減を繰り返すのだ。

「捕食―被食」の関係性が表れている貴重なデータであるとともに、これはカンジキウサギが捕食されやすいことを裏付ける証拠にもなっている。捕食者の存在は、彼らの増減を左右している最も大きな要因と言えるだろう。

 なお個体数が増えると、他にも様々な弊害が生じる。これもまた、カンジキウサギが増減サイクルを繰り返している要因となる。たとえば個体数が増えればそれだけエサの消費速度も上がってしまう。また物理的のみならず、化学的にエサが得られなくなるケースもある。たとえばヤナギは食べられると化学物質を分泌して葉を苦くするため、カンジキウサギもエサとしてヤナギを利用できなくなってしまう。やがてカンジキウサギたちはエサを得られなくなり、すべての個体が等しく餓死を迎えるようになる。

 カンジキウサギの食害によって他の草食動物が姿を消すことも、個体数増加による弊害と言えるだろうか。一見すると理想的な状況に思えるが、これは捕食者がターゲットをカンジキウサギで固定してしまうことを意味している。あらゆる捕食者がウサギ狩りに精通するようになれば、カンジキウサギは狩られるままに数を減らしていくだろう。

 また餓死にせよ被食にせよ、生命の危機は多大なストレスを生み出す。こうしたストレスはカンジキウサギの繁殖能力を低下させ、出産回数や産子数にも悪影響を与えてしまう。そうなればもはや増えることは適わず、彼らは急速に数を減らすようになる。いつか容易に繁殖できるような環境が訪れるまで、苦しい激減期を過ごすだろう。

後脚13センチの天然カンジキと究極の冬毛、雪景色に溶け込み気配を殺すカモフラージュ術

 狙われやすいからといって、カンジキウサギも黙って食べられているわけではない。むしろ冬のカンジキウサギは強敵だ。その名の通り、彼らの足はカンジキを履いているかのように膨らんでいる。特に後脚はかなり大きく、その足跡は最大で13センチにもなる。

カンジキウサギの足跡は特徴的な三角形になっている
カンジキウサギの足跡は特徴的で見分けやすい。両前脚をそろえて地面に置き、次いで後脚で前足を越すように走るため、このような三角形の足跡が生まれる。
(photo by:U.S. Fish and Wildlife Service Northeast Region)

 雪道に限るのであれば、足は大きければ大きいほど良い。雪と接する足面積が増えるほど、体重も分散しやすくなるからだ。事実、カンジキウサギは雪に埋もれることもなく、体重をかけながら力強く駆けていく。ウサギならではの跳躍力を活かせば、方向転換も容易い。敵からすれば、雪に埋もれながらもカンジキウサギの動向に気を配らなければならないのだから、その狩りは困難を極める。体力と集中力が削られていき、ウサギ狩りを断念せざるを得なくなる。

 そもそもカンジキウサギは見つけることも難しい。真白な毛皮がうまく雪に紛れ込んでしまうからだ。あるいは雪中に潜り込んで敵をやり過ごすこともある。毛皮は防寒具としても極上で、雪に埋もれていても寒さを感じたりはしない。特に冬毛は色素をまったく含まないため、本来は色素が詰め込まれるスペースにまで空気を蓄えることができる。そうして密度の濃い空気層を身にまとえば、外気を退けつつ体温は逃がさないという理想的な状態が保たれる。

 もちろん雪中に隠れずとも、黙ってたたずむだけでも敵をやり過ごせる。白くてフワフワした毛皮は雪と見紛わんばかりで、カンジキウサギの姿を雪景色に溶かし込んでくれる。

 しかも彼らは敵の気配に気づくと、動きをピタリと止めてしまう習性も備えている。そっと耳の向きを変えて音を探ったり、鼻をピクピクしてにおいを嗅いだりはするが、体全体は金縛りにでもかかったかのように動かなくなる。遠目から見ても、そこには”雪のかたまり”があるようにしか思えないだろう。外敵はカンジキウサギを発見することなく、その場を素通りしてしまう。

 このカモフラージュ戦法は、ノウサギに属する動物としては異例の防衛術といえる。「野をかけるウサギ」は本来、脚力を活かしてまっさきに逃亡するのが鉄則になっている。敵が迫りくる方向を探り終えると、その場から脱兎のごとく走り去っていく。

 だがカンジキウサギはあえて気配を殺すことに尽力している。敵が近づくほどに体を硬直させ、生きながら雪像になりきろうとするのだ。おそらく彼らは、自身のカモフラージュ能力が高いことを理解しているのだろう。恐怖心すらも凍りつかせて、雪の冷たさに身を任せているわけだ。

温暖化が招く「毛色のミスマッチ」の悲劇、季節外れの真白な毛皮が捕食者を呼び寄せる

 カンジキウサギの生息域は北米大陸、それも雪が深くなりがちな亜北極に限られている。それゆえに冬の間はその毛皮を雪に紛らわせて、多くの天敵の目を欺くことができる。だが北極にほど近い極寒地であったとしても、年間を通して雪が残っているわけではない。夏になれば雪は完全に溶け、土や草で地表が覆われてしまう。

 そうした季節の変化において、カンジキウサギはひとつ重大な決断を迫られる。雪にマッチした毛皮を脱ぎ捨てて、快適な夏毛へ衣替えしなければならないのだ。

 夏毛はとても軽やかで、厳しい暑さを和らげてくれる。そしてそれ以上に、その色彩が夏の背景色とよく噛み合っている。砂色や焦げ色といった地味な色味で身を包めば、土や岩肌、枯草といった背景色へ溶け込むことができる。雪に溶け込む冬毛ほどではないが、カンジキウサギは夏場でもカモフラージュを試みるわけだ。

カンジキウサギの夏毛は土や岩肌に溶け込みやすい色味になっている
夏のカンジキウサギはまさにノウサギといった様相で、地味な色合いに身を包んでいる。
(photo by:Walter Siegmund)

 ただし衣替えの時期は慎重に見極めなければならない。早すぎる換毛はむしろカモフラージュを妨げてしまうからだ。白いシャツに一滴でも墨を垂らせば目立つように、雪景色の中では茶色い毛皮がコントラストになってしまう。あるいは換毛が遅すぎても具合が悪い。土肌を背にすれば、真白の毛皮がまぶしく目に飛び込んでくる。

 こうした季節と毛皮の噛み合わなさは「ミスマッチ」とも呼ばれ、カンジキウサギの寿命を著しく低下させてしまう。悲しいことに、カンジキウサギはミスマッチの状態にあってもなお、身じろぎせずに外敵をやり過ごそうとしがちだ。カモフラージュ能力に自信があるからこそ悪手を取ってしまうのだろう。そうしてカンジキウサギは季節にそぐわない毛皮で捕食者を呼び寄せるだけでなく、逃げる機会すら放棄するという最悪の状況を招いてしまう。

600個の遺伝子で挑むハイスピード進化、環境の変化を乗り越えるカンジキウサギの適応力

 1988年に「地球温暖化」という言葉が広まって以来、その影響を調べようとする動きも盛んになった。とりわけ動物の被っている被害については関心が大きく、カンジキウサギにおいても「ミスマッチの増加」という直接的なデータが求められてきた。

 温暖化は冬の到来を妨げ、また夏の残暑も厳しくしてしまう。こうした季節の”ズレ”は適切な換毛を妨げ、結果的にカンジキウサギのカモフラージュ能力も低下させてしまう。

 換毛期は意図的に迎えるものではない。カンジキウサギの”体”が、日照時間の変化を無意識に感じ取り、勝手に判断して行っている自動的な変化だ。それゆえに、ミスマッチを抑えたくともカンジキウサギ自身には取れる手段がない。

 ただしこれは個体レベルの話であり、世代を超えたミスマッチの克服であれば話も変わってくる。つまり種全体がミスマッチを起こしづらくなるように”進化”していけば、いつの時代にかミスマッチを克服できる可能性がある。

 温暖化が進むにつれて、ミスマッチの期間が長いウサギは肉食動物に発見されやすくなり、容赦なく数を減らすだろう。一方、ミスマッチの期間が短いウサギは生き残りやすくなり、その血脈を広めやすくなる。そうなれば世代が進むごとにミスマッチの期間が短い個体ばかりが増えていき、カンジキウサギ全体のミスマッチ率も減っていく。

 このシナリオは決して的外れなものではない。カンジキウサギは換毛にまつわる遺伝子を600個以上も動員して、適切な換毛期を探りながら世代を紡いでいる。毛色の微調整はお手の物だ。また世代交代がとても早いため、他の動物に比べると遺伝子を変化させやすい。つまり進化しやすい。こうした条件を鑑みると、温暖化を超えるスピードでミスマッチを矯正したとしても不思議はない。

 あるいはより貪欲に、別種のウサギと交わろうとするカンジキウサギもいる。すでにミスマッチを克服しているウサギから遺伝子を得られれば、雑種の子どもは通常のカンジキウサギよりも生き残りやすくなる。カンジキウサギだけで進化を重ねていくよりも、さらに早いスピードで進化を望めるだろう。

 いずれにせよ、カンジキウサギにはまだ温暖化の影響にあらがう術が残されている。世代を経るごとに温暖化へ適応していけば、その高いカモフラージュ能力も回復するに違いない。身じろぎもせずにミスマッチをさらけ出し、肉食動物を呼び寄せてしまう悲劇もなくなるはずだ。

換毛期のカンジキウサギは冬毛と夏毛が混じった独特な毛皮をまとう
換毛期を迎えたカンジキウサギは段階的に毛皮が生え変わる。毛色や記事には個体差があるため、ミスマッチの程度もまちまちだ。
(photo by:Yellowstone National Park)

自分の糞を食べる「盲腸便」の画期的な栄養摂取、胃腸を巨大化させずに草食を極める知恵

 適応力という意味では、ウサギの食性にも驚かされてしまう。ウサギは紛れもなく草食動物だが、他の草食動物に比べるとあまり消化効率が良くない。これがウシであれば、一度食べた草を口の中に戻して咀嚼することで、栄養を取り出しやすくするのだろう。あるいはウマも盲腸を巨大化させることで、そこに住まう腸内細菌が植物質を分解するのを助けている。いずれも草食動物を代表する消化手段であり、効率的な食事には欠かせない。

 しかしこれらの手段は体が巨大化しやすいため、身軽に跳ねまわりたいウサギには真似できるものではない。とはいえ対策を施さなければ、草だけを食べて生活することなど不可能だろう。栄養の大部分は吸収されないまま大腸へ送られて、そのまま排泄されてしまう。

 そこでウサギは、自分の糞を食べるという画期的な解決策を思いついた。栄養豊富な便を作り出して、それを食べてしまうのだ。この”盲腸便”は盲腸と大腸の2つを経由して作られる。

 まずは盲腸内で腸内細菌に草を発酵させ、その産物であるタンパク質やビタミンなどを大腸へ送る。次いで大腸内で消化に悪い植物質を取り除きつつ、その表面を粘膜で包み込んで盲腸便を完成させる。

 見た目は緑色のソーセージと言ったところだろうか。栄養素が盛り込まれた便の”タネ”を艶やかな粘膜で”ケーシング”しておけば、排泄した盲腸便を効率よく口へ運ぶことができる。また表面を覆っている粘膜が胃酸から内容物を守ってくれるので、食糞によって栄養素が失われる心配もない。彼らは食べた草を体内で調理することで、効率的に栄養を摂取しているわけだ。

 この二段階にわたる食事システムを採用することで、ウサギは胃腸を巨大化させずとも草食動物として暮らせるようになった。ちなみに栄養を搾り取られた糞はコロコロとした丸い糞になって出てくる。栄養摂取の段階を糞で確認できるというのも面白い話だ。1度で駄目ならば2度目の食事を取ればよいという思想が、2種類の糞を排泄する彼らの生態にも表れているかのようだ。

冬の飢餓を乗り越える「肉食」への変貌、ヤマネコの死骸や羽をも喰らう貪欲な生存本能

 ことカンジキウサギに関しては、食に対してより積極的な姿勢が見られるようだ。夏場はせっせと草を食む彼らも、冬の貧しさには敵わない。時には肉食すら辞さず、「ウサギは草食動物である」という定説を覆してしまう。

 冬は木々が葉を落とすだけでなく、地上が雪で覆われて草花も見つけづらくなる。カンジキウサギもまた、硬い樹皮を食べざるを得なくなり、それでもタンパク質が足りずに苦しむことになる。飢えを満たしたければ、なにか代替食品が必要だ。

 そこで彼らが目を付けたのが、冬の寒さに倒れた動物の死骸だった。自分で狩りをすることはできないが、すでに力尽きている動物であれば問題なく消費できるというわけだ。

 ある動態調査では161の死骸が用意されたのだが、そのうち20がカンジキウサギによって消費されていた。さらには死骸を独り占めすべく、他のウサギと争っている姿も見られたのだという。なお肉の種類にはこだわりがないらしく、共食いも頻繁に見られる。さらに天敵のカナダヤマネコを食べることもあるなど、ちょっとした下剋上も行われている。

 あるいはライチョウの抜け落ちた羽など、他の動物が狙わないようなエサも食べている。羽は普通のタンパク質よりも消化に悪いケラチンで作られているが、カンジキウサギはそもそも日頃から硬い植物を食べて暮らしているため、消化の悪さはあまり問題にならない。羽も喜んでポリポリ食べるなど、彼らは想像以上に肉食へ傾倒しているようだ。

 動物の世界では、季節に応じて食性を変えることも珍しくはない。たとえばイヌ科動物においても、夏場は肉を食べて腹を満たし、冬になると果実で飢えを凌ごうとする者が多い。カンジキウサギとは真逆の食性とはいえ、これも肉食と植物食を使い分けている事例だ。

 これらの例から察するに、動物たちは肉食・草食とわかりやすく分類することはできないのかもしれない。カンジキウサギほど極端な食性を示す動物もそうはいないだろうが、動物の適応力がいかに幅広いものであるのかを想像させてくれる。これもひとえに、彼らが貪欲なまでに生を求めるこその変化なのだろう。

栄養効率を上げるべく食糞し、時には肉食も辞さないなど、カンジキウサギの食生活は想像以上に異色なものだった。雪原を力強く駆けていく彼らの姿は、貪欲に生きることを肯定しているかのようだ。
(photo by:Ethan Ellis)


参考動画