アリ喰う苦労は身に染みて オオアリクイ

有毛目

t f B! P L

photo by:Fernando Flores

オオアリクイ(Giant anteater)
分布:中南米
生息域:草原、サバンナ、森林、密林、湿地
体長:100~140㎝(頭~胴)、60~90㎝(尾)
体重:22~45㎏

アリ喰らう大型動物

 「日和見」という言葉がある。たとえばジャッカルは日和見性の雑食動物だ。ネズミ、ウサギ、シカなど、あらゆる動物をエサにしている。そればかりか昆虫に爬虫類、鳥類と卵、状況が許せば魚や貝など、種類を問わず胃袋へ放り込んでしまう。さらには果物や木の実を食べたり、都市に出没して生ごみを漁るジャッカルの姿も見られる。

 いわばその時々に合わせて、どのようなエサも食べてしまう対応力の高さを「日和見」と称するわけだ。


 オオアリクイにもこの気質が備わっている。ただし彼らは日和見アリ食―――アリやシロアリに限り、多種多様な食性を見せてくれる。

 たとえばアルゼンチンではシロアリよりもアリを好んで食べるが、コロンビアでは食事の半分をシロアリで満たしている。また乾燥した地域や季節では、シロアリ食が大部分を占めるようになる。彼らは地域や気候に応じて標的を変え、実に23種ものアリを食べているのだという。

 あるいはシロアリ塚にコロニーを構えてしまった不運なセイヨウミツバチも、オオアリクイのエサとなり得る。なおハチも広義ではアリとして扱われるので、「アリクイ」の名を返上する必要はなさそうだ。アリはそもそもハチ目に属しており、種としてはハチに近い。

 ちなみにシロアリはゴキブリ目に属している。名前こそ似ているが、アリとシロアリはまったくの別物であり、その習性の差は大きい。

 アリは肉食性のものが多く、シロアリは朽木や落葉など植物食を好むものが多い。 営巣形態にしても、アリは地下に巣をつくり、入口に目立った建造物を建てたりはしない。 一方でシロアリは地上にこんもりと土を盛ったり、高層ビルのような建造物を建てたり、いわゆる”アリ塚”を形成しようとする。


 アリの性質の違いは明らかなのだが、オオアリクイからすれば些細な問題だろう。肝心なのはこれらアリが「高タンパク質なエサ」であり、「密集して暮らしている」という点に限る。1つ巣を見つけるだけで何千・何万匹というエサを得られるのだから、これほど摂取効率に優れている獲物もない。

 実際、アリやシロアリを主食とする動物は多い。ツチブタやアルマジロ、アードウルフにオオミミギツネ…アリを食べようと独特な進化を遂げてきた動物が、世界各地で見つかる。もちろんオオアリクイもそのひとつだ。現代においては、アリを主食にする動物の最大種として認められている。

エネルギー効率を高める工夫

 いくら栄養効率が良いからといって、全長2mの巨体をアリ食だけで維持するのは生半可なことではない。大きなアリでも0.005gほどしかないのだから、数百数千匹くらいではオオアリクイの腹も満たされない。絶えずアリを食べ続けなければならず、その消費量は1日で35000匹に達することもあるのだという。

 途方もない数のアリを消費する一方で、彼らは食べ過ぎを避けようともする。どれほど巨大なアリ塚を見つけようとも、少しアリを食べるとすぐに次のアリ塚へ移動してしまうのだ。

 これはアリの防衛反応を避けるためと考えられる。当然ながら、アリも食べられっぱなしでいるわけではない。アリ塚が危機に晒されると、兵隊アリが徒党を組んで襲撃者へ群がり、噛みついたり化学物質を放ったり、攻撃を加えようとしてくる。

 痛みや不快感に耐えながら食事を続けることは難しい。ゆえにオオアリクイはそれを見越して、アリが攻撃を企てようとする絶妙なタイミングを見計らって、すぐにアリ塚から去ってしまう。

 1つの巣に留まる時間はわずか1分にも満たない。そして別のまだ無防備なアリ塚を訪れ、労せず腹を満たしていくのだ。こうして彼らは1日200もの巣をハシゴして、少しずつアリを集めている。


アリ喰うための謎進化

 オオアリクイの頭蓋は、とても哺乳類のものとは思えない作りになっている。30㎝もあろう細長い棒状の頭蓋骨は、先端部がぽっかりと空洞になっており楽器の笛を思わせる。


オオアリクイの頭蓋骨(photo by:Dr. Mirko Junge)

 アリを丸呑みする採食方法ゆえだろうか、彼らの口腔内には歯がなく、咀嚼筋も著しく退化している。顔面筋も最低限しか備えておらず、わずかに頬筋を発達させるばかりだ。おそらく口をすぼめて、口腔内のアリを取りこぼさないようにする動作だけが残ったのだろう。

 この長い”吻”をアリ塚へ差し込むと、彼らは高速で舌を出し入れしていく。1分間に160回も舌を前後させ、アリを吸い付けて口内まで運び込むのだ。

 一般的な動物―――たとえば人間は舌骨(喉仏の少し上側)から舌を生やしているのだが、オオアリクイは舌骨のはるか下側にある胸骨を舌の基底部に定めている。口腔へ至るまでの距離を稼ぐことで、舌をより長く発達させているわけだ。

 60㎝まで伸ばすことができる舌は、しかし直径が1.5㎝ほどしかない。細くて長いアリの巣へ侵入させるには打ってつけだ。また、彼らの舌は柔軟性にも富んでおり、アリの巣の構造に合わせて的確に形を変えていく。たとえ90度に曲がったトンネルであろうと、勢いよく舌をしならせれば、奥まで届かせることができる。


photo by:Ellen

 アリを捕まえるのは唾液の仕事だ。糊のようなネバネバした唾液を舌にまとわせて、その粘着力でアリを吸い寄せる。そして舌を戻した反動でアリを口腔内へ振り落し、そのまま丸呑みむのだ。

 あるいは口蓋の溝にアリを引っ掛ければ、舌に付着したままのアリも外すことができる。たとえ歯がなくとも、アリを効率的に胃へ落とし込めるギミックを備えているわけだ。


 度重なる進化―――いや退化を重ねたせいだろう、彼らは大量にアリを平らげるにもかかわらず、自力ではアリを消化できなくなった。というよりも自力で消化する必要がなくなった。アリに含まれるギ酸を胃酸の代わりに用いて、そのままアリを消化してしまうからだ。

 なお彼らの胃は、鳥類に見られる”砂嚢”のような働きも期待できる。食事と一緒に飲み込んだ砂を研磨剤として用いることで、アリの硬い外殻をすり潰すのだ。

 彼らの胃は外壁が硬いヒダで覆われているので、砂で傷つく心配もない。むしろヒダは砂をより大きく撹拌させ、アリをさらに効率的に磨いていける。彼らは歯がないというハンデを負いながらも、「胃で咀嚼する」という荒業でそれを乗り越えているわけだ。


アリ喰うからには低燃費

 彼らは1日8時間はアリ探しに費やし、他の時間をほぼ睡眠へ充てている。無駄なエネルギー消費を避けるためだろう。栄養が足りないのであれば使わなければよい、というのは理にかなっている。

 行動のみならず、彼らは生理的な活動―――代謝を抑えることでもエネルギーを節約している。その基礎代謝率は、体重に基づいた予測値の34%しかないのだという。

 たとえば彼らは熱生産を抑えて、体温を33℃に保っている。これは哺乳類としても大型動物としてもかなり低い値だ。人間でたとえると、常に手がかじかんでいるような状態だろうか。うまく体が動かないので、自然とゆっくりとした動きになり、感覚も鈍くなる。

 残念なことに、オオアリクイの体は熱伝導率もよろしくない。予測値の94%までしか体温を活用できず、代謝を抑えることの弊害にもなっている。

 そこで彼らは、尻尾をうまく利用することで熱問題を解決しようとした。胴体と同じくらい長い尻尾はさらに、体をすっぽりと隠せるほど長い毛で覆われている。寝転がって尻尾を畳み込めば、簡易的なブランケットとして機能するだろう。あるいは尻尾をピンと伸ばしておけば、太陽の熱を吸って”湯たんぽ”になってくれる。

横たわり、子供を背に乗せたまま眠るオオアリクイの母親。尻尾を体にかぶせて暖を取っている(photo by:Thorsten Mohr)


ケンカするにも低燃費

 低燃費を貫きたいオオアリクイにとって、争いはご法度だ。彼らは縄張り意識がとても低く、他のオオアリクイと生活圏が被ろうとお構いなしだ。もし互いに出遭ったとしても、ことを穏便に済まそうとする。 爪を振り上げたり、軽く追いかけたりと相手を追い払う姿勢こそ見せるが、それは儀式的な行動に過ぎない。相手が少し距離を取るとすぐに穏やかな態度を取り戻す。

 おもしろいことに彼らは肉食動物―――襲い掛かってくる可能性がある相手に対しても無防備だ。明らかにこちらを警戒しているイヌが威嚇を繰り返してきても、まるで気に留めようとしない。尻尾を噛みつかれたり、目の前をウロウロされたりすれば反撃の姿勢を見せるが、それもやはり長続きはしない。

 幸いなことに、彼らの大きな体はそれだけで相手を威嚇しうる。また胸から脇腹にかけて黒々と浮かび上がる模様も、”警戒色”として働くと考えられている。胸部から両サイドへV字に広がる黒帯模様は、縁取りが白色で飾られており、マフラーでも巻いているかのようだ。

 白と黒の組み合わせは、それを見る者に本能的な警戒を呼び起こす。オオアリクイがどんなに穏やかな態度をとっていても、その模様を見れば危機感を抱かずにはいられないだろう。そこに攻撃的な態度も合わされば、相手は恐怖に負けて去っていくに違いない。


胸から背中にかけて白黒模様が際立つ。警戒色を目立たせるためなのか、他の部分は色味が薄いこともポイントだ(phot by:Fernando Flores)

 だが時にはしつこく付きまとわれることもある。南米最大のネコ科であるジャガーはその際たるで、積極的に襲いかかってくることはないが、それでも無視できる相手ではない。

 オオアリクイもこのネコに対しては徹底抗戦の構えを見せる。両前脚を宙へ振り上げて、唯一の武器である爪を見せつけるのだ。

 彼らはアリ塚や地面を掘るべく、前脚に鋭い削岩爪を備えている。その長さは10㎝に及ぶこともあり、天敵に対してはナイフのように突き立てて武器にすることもできる。

 その威力は絶大だ。動物園の事例ではあるが、飼育員を爪で切り付けて命を奪ってしまった事故も起きている。殺傷力を秘めているとあれば、対峙するプレッシャーも相当なものに違いない。

 相手があまりにもしつこいと、オオアリクイはついに後脚2本で立ち上がり、前脚の爪をありありと見せつけようとする。ただでさえ大きな体をさらに大きく見せる視覚効果も相まって、相手はさらに恐怖心を煽られるわけだ。そうして相手が自ら諦めるように仕向け、オオアリクイは労を払わずに身を守っている。


photo by:PBernfeld


 大きな爪は武器としてだけでなく、優れた工具としても活躍する。第2指と第3指(中指と人差し指)が削岩爪になっており、乾いて固まった土塊であろうと、簡単に引き裂くことができるのだ。

 彼らはアリ塚を見つけると、穴やひび割れに爪を引っ掛けて、指ごと手前へ引っ張ろうとする。土壁を裂いてわずかな隙間をつくり、そこへ舌を差し込むためだ。あるいは地中深くまで広がるアリの巣を暴くべく、地面を勢いよく掘り進めることもある。

 だがアリ塚は時に、オオアリクイの全長を超えるほど高く積みあがることがある。そうした塚を前にしたオオアリクイは、塚に前脚をかけてよじ登ろうとする。こぶしを握って爪を喰いこませ、2本足で立ち上がったまま食事へ勤しむのだ。

 これならば高層に隠れているアリも取りこぼさずに済む。第3指は筋肉が集中している指でもあるので、しがみつく力が足りずに滑り落ちたり、すぐに疲れて食事を諦めたりする心配もない。


 ナイフにもツルハシにもハーケンにもなる優れた爪はしかし、歩行にだけは向かないらしい。彼らは独特な歩行姿勢をとる。こぶしを握り、その形のまま前脚を地面に着けて歩いていくのだ。

「ナックルウォーク」とも呼ばれるこの歩行姿勢は、おそらく爪を鋭く保つための姿勢だ。爪を地面に引きずるような歩き方をしてしまえば、爪はあっという間に擦り減って鈍くなってしまう。

 ここぞという時に活躍させるためにも、日頃はいびつな歩き方を許容して、爪を研ぎ澄ませる必要があるのだろう。『能ある鷹は爪を隠す』というが、オオアリクイもまた、それが真理であると身をもって証明しているのかもしれない。




参考動画






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