米大陸に広がりゆく巨大ネコ ピューマ

食肉目

t f B! P L
 
photo by:villagequirks
ピューマ(Cougar)
分布:アメリカ全土(北米、中米、南米)
生息域:あらゆる地形(森林、草原、山地、雪原、砂漠)
体長:86~155㎝(頭~胴)、60~97㎝(尾)
体高:60~90㎝
体重:34~72㎏

どこにでも現れる、人前にも

 街中で野良猫を見かけると、つい心がなごんでしまう。ボーッと日向ぼっこしている姿も愛らしいが、人間慣れをしていてコミュニケーションを取ろうとしてくれる猫もまた良い。人の足首に横っ腹をぶつけながら興味なさげに去っていくその姿は、「構ってやるよ」とでも言いたげでいかにも猫らしい。犬のように激しい愛情表現ではないが、ささやかな好意が伝わってくるようだ。

 だがこの控えめな隣人たちが、もしライオンほどのサイズであったならば、どうだろうか。うっかり遭遇した人々は、「獲物にされる」恐怖を感じて、パニックに陥るのではないだろうか。

 この妄想はたびたび現実になる。アメリカ大陸では大きな野良猫―――ピューマが住宅街へ紛れ込んでくる事件が度々起こるのだ。彼らはそうしてニュースの一面を飾ることもある。

 たとえばあるピューマは、鍵をかけ忘れた不用心な家屋を見つけた。どうやら彼の目には、そこがアミューズメントパークに映ったらしい。部屋へ侵入すると、触り心地のよいカーペットで爪を研ぎ、積み木でも崩すように家具を壊して回った。そしてソファーで寛いだ姿のまま、何も知らない家主と対面したのだ。

 

 ピューマが人前に現れたとしても、不思議はない。彼らは西半球では最も生息域を広げているネコ科動物だからだ。ユーコン準州の山岳地帯からチリの南アンデス山脈まで、緯度にしておよそ110度の範囲にわたってアメリカ大陸を占有している。

 彼らは根城を選ばない。針葉樹林、広葉樹林、灌木地帯にヤシ林など、あらゆる種類の森林へ身を隠したかと思えば、河川域や荒地などの開けた場所にも現れる。

 水を怖れないので川を泳いで渡りもするし、分厚い毛皮をコート代わりにして、標高5000mを超える登山にも挑戦する。雪山、断崖、山岳砂漠―――険しい地形をものともせず、そこに居を構えることもある。

 およそ彼らに侵入できない地形はない。だからこそ、その足が人間の生活圏へ向くこともある。新しいなわばりを探しているうちに、森と森を分断している高速道路や居住区へ足を踏み入れてしまうのだろう。

荒地、草原、森林、断崖、山岳、河川、人家…どこにでも現れる
(photo by:camselo)


 人間とピューマの出会いは昔からあったらしい。ピューマはさまざまな文化圏で名前を与えられ、また逸話や神話の中でも語られてきた。「もっとも多くの名前をもつ動物」としてギネス記録にも認定されており、その名前は英語だけでも40を超える。

 和名にもなっている「ピューマ」は、ラテンアメリカ・ヨーロッパに由来している。英名の「クーガー」はポルトガル語から借用したものだろう。「マウンテンライオン」という呼称も一般的で、こちらはアメリカ西部・カナダで用いられている。さらにはピューマの亜種である”フロリダパンサー”から派生したのか、ピューマは単に「パンサー」と呼ばれることもある。

 これほど名前が多いのは、古来より人々がピューマに関心を抱いてきた証拠だろう。現代においても、ピューマは観察対象として、多くの研究者を惹きつけている。同じ動物でありながら多くの地域で見られるという性質が、生物学の知見を確認するには打ってつけなのだろう。

 たとえば彼らの存在は、『ベルクマンの法則』を再確認させてくれる。ピューマは赤道付近ではサイズが小さく、逆に赤道から離れた場所では大きくなる傾向にある。まさしく”法則”と呼ぶにふさわしい特徴だ。

 あるいは経度・高度が高くなるほど、ピューマの体毛も厚さや長さを増していく。「毛皮で寒さを和らげている」という事実は検証するまでもなく正しいのだろうが、それでも実際にデータを採取できる―――異なる場所で暮らしているピューマ同士を比較できる意義は大きい。


彼らは『近交弱勢』に関する知見も与えてくれた。1970年代、フロリダ州で暮らすピューマ(フロリダパンサー)は推定20頭とされたが、2017年には230頭まで数を増やした。だがその代償として、彼らは多くの遺伝子異常を抱えることになる。精巣が睾丸まで降りてこなくなったり、心臓の一部分が欠損したり、健康上のリスクが高まったのだ。

 そこで同州は、テキサス州から8頭のピューマを導入することに決めた。フロリダパンサーとピューマを交雑させ、近親交配の係数を下げようという目論見だ。この試みはうまくいき、既存のフロリダパンサーに比べて、雑種のピューマでは生存率が3倍となった。

 このニュースは遺伝子の多様性が重要であることを知らしめた。また、人間の関与により動物を救うことができる、という希望にもなった。ピューマはまるで生きた教科書のようだ。今後も人類に知恵を授けてくれるのだろう。

適応力、運動力、そして狩猟力

 ピューマは姿こそメスライオンに似ているが、種としてはむしろチーターに近しい。

 チーターはスプリンターとなるべく進化を重ねてきた。その結果として失ったものも多い。たとえば頭部が小型化して呼吸量が少なくなった。酸素の薄い高山地帯で暮らすのは難しいだろう。全力疾走するには便利な細身の体も、外気から熱を奪われやすく寒冷地には適さない。アフリカの暖かな気候でなければ、チーターは生き残れないだろう。

 一方でピューマは走力はほどほどに、”適応力”を求めて進化を重ねてきた。むしろ筋肉量を増やすことで、寒い地域でも耐えられるように進化してきたのだ。雪山では耳や尻尾が凍り付いて壊死することもあるが、それも幼少期に起きる事故でしかない。彼らは寒さにも滅法強く、大人のピューマは高山地帯でも涼しい顔で暮らしていける。

 また山登りだけでなく木登りも得意としており、一跳びで5.5メートルの枝に登ることができる。この勢いを獲物にぶつけることもある。自重の5倍もあるヘラジカへ跳びかかり、その首を折ってしまうこともあるのだという。

photo by:Icewall42

 彼らはさまざまな地域へ侵入し、そしてあらゆる生物をエサにして暮らしている。ネズミからシカまで、入手しやすい獲物は積極的に狙い、ライバルとなる肉食動物さえもエサにしてしまう。ジャッカルやアナグマではピューマの力には敵わない。ピューマはそうした中型動物を縄張りから遠ざけ、結果として草食動物たちの安全を守ってもいる。

 ただしピューマも絶対的な王者というわけではない。たとえばオオカミとはエサを奪い合う関係にあり、ケンカに発展することもある。力関係は数次第といったところだろうか。

 1対1であればピューマに分があるが、群れを成すオオカミには獲物を譲らざるを得ない。オオカミの生息域で暮らしているピューマは、群れに囲まれるリスクを下げるためにも、獲物を素早く食べる傾向にあるのだという。

 ジャガーの存在も無視できない。同じネコ科ゆえに行動が似ており、同じ獲物を同じ場所で狙うことになる。しかもジャガーはピューマよりも筋肉量が多い傾向にあるため、ケンカになればピューマは力負けしてしまう。

 それを知ってのことか、ピューマはジャガーを一方的に避けることが多い。たとえば北米では主にシカを狩って生活しているのだが、南米ではシカだけでなく、多様な動物を狩って暮らしている。

 これもジャガーの影響だろう。ジャガーは南米に広く分布している反面、北米にはあまり足を運ばない。南米で暮らすピューマはおそらく、狩りやすいシカを泣く泣くジャガーに譲り、その不足分をネズミやノウサギで補っているのだろう。


 ピューマは3カ条に従って狩りをする。忍耐力・瞬発力・持続力の3つだ。特にシカ狩りではこれらを順守しなければならない。

 彼らは焦れる思いを抑えて、ジッと獲物を待つ。岩や木など獲物の目をごまかせる遮蔽物に身を隠し、相手が近づいてくるまで耐え続ける。

 あるいは自ら近寄ることもある。風下に陣取れば、においでバレる心配もない。音を立てず、姿を晒さないように気を配り、一歩ずつ地道に近づいていく。

 そうして射程圏内に獲物を収めると、彼らは全身をバネにして猛突進する。その衝撃力は計り知れない。小柄な獲物であれば、跳びついた勢いで首や脊髄が折れてしまうだろう。

photo by:Jackdrafahl

 しかしシカを相手にするとなれば、事はそう簡単に運ばない。即座に地面を蹴って走りだし、ピューマの突進から逃れてしまう。そして追いかけっこが始まり、ピューマには2つの選択肢が与えられる。追いついて首元へ噛み付くか、追いかけながら相手の足を掴んで転ばせるか。いずれにせよ獲物に追いつく必要がある。

 突進の勢いを活かして距離を縮めることができれば、シカが全力疾走する前に攻撃を加えられる。だがピューマが走る勢いはあまりにも激しい。シカの首筋に噛み付いた際に、勢い余って前方へ転げ落ちてしまうことも珍しくない。

 ここで持続力が試される。走りながら、転がりながら、それでも獲物を逃すまいと必死に追いすがる。そうしてひたすら攻撃を続けて、致命傷を与えるまで粘ろうとする。

 残念ながら、ピューマのシカ狩りは失敗することも多い。全力疾走の勝負になれば、持久力に劣るピューマには不利だ。うまく追いかけっこに持ち込めたとしても、そのまま逃げられてしまうだろう。また獲物を見つけるところからやり直しだ。その意味では、諦めずに何度も挑戦する、という持久力も狩りには必要となる。

物言わぬ子育て

 日頃は互いを避けるように生活しているが、ピューマは繁殖期を迎えるとオス同士で争うこともある。メスをめぐるそのケンカはかなり激しい。「シャーッ」と鋭い威嚇音を上げながら睨み合い、太い前足で殴り合い、鋭い牙で致命傷を狙う。片方が重傷を負うことも珍しくなく、時には死に至ることもあるのだという。

 だが死闘の末にメスを獲得したとしても、それが必ずしも報われるわけではない。ピューマは複数匹と交尾する傾向にあるので、オスが自分の子を残せるとは限らないのだ。場合によってはメスが1度の出産で、父親が異なる子を産むこともある。

photo by:Tambako The Jaguar

 子供は一度の出産で2匹生まれることが多い。4匹ほど生まれることもあるが、すべての子が繁殖期を迎えることは滅多にない。大人になれば敵なしのピューマも、幼少期は身を守るすべを持たない。他のピューマに殺されたり、隙を見てジャッカルに奪われたり、子供たちは悲惨な死を遂げることもある。

 母親はそうした脅威から子を守り続ける。たとえば子供たちの匂いを襲撃者から隠すためにも、彼女たちは頻繁に巣を変える。巣穴にこもった匂いを換気するためだ。ピューマのメスはかなり子煩悩で、最長2年ほど子育てを続けることもある。それに比べると父親は奔放で、子育てに関わることはほとんどない。

 とはいえ、父親の影響もないとは言い切れない。このような話がある。ある畜産家は育てていた家畜を襲われた報復として、その土地で暮らすピューマを駆除してしまった。ところが家畜の襲撃は止むどころか、むしろ以前よりも増してしまったのだという。

 こうした事例は珍しくなく、ピューマを駆除すると人間との衝突が150~340%まで増加するとの試算もある。人を避けることを学んだピューマが駆除されると、まだ人の脅威を学んでいない―――人・家畜を襲いやすいピューマが代わりに侵入してくるのだろう。

「ピューマが存在する」という事実そのものが、他のピューマを遠ざける防波堤となっていたわけだ。ピューマの父親も子育てに直接関与するわけではないが、知ってか知らずか、自分の子が別のピューマから襲われる可能性を下げているに違いない。


 子供たちは母親を見て育つ。生後3週間ほどで乳離れすると、母親の後をついて歩くようになる。この頃になると狩りのレッスンも始まる。最初のうちは仕留めた獲物を与えるだけになるが、やがて母親は子供を引き連れて、自分が狩りをする姿に注目させようとする。

 たとえば水場で戯れている水鳥を見つけると、母親は相手が気付く前に跳びかかり、空中へ逃げようとした瞬間に叩き落としてしまう。強烈なパンチを浴びた鳥は体勢を立て直せない。いくつかのジャブで追撃されれば、飛翔する暇も与えられずにかみ殺されてしまう。

 獲物を狩った後には”下ごしらえ”が待っている。母ピューマは獲物を咥えて子供たちのところへ戻ると、歯を器用に使って羽毛を散らしはじめる。食べられる部位と食べられない部位を選り分ける方法も教えるわけだ。

 母親のピリピリとした雰囲気が伝わってくるのか、その狩りを見ている子供たちも緊張した様子をみせる。体をピクリとも動かさず、母親の一挙一動を見逃すまいとジッと見つめ続けるのだ。その姿は、獲物をじっと待ち続けるピューマの忍耐力を思わせる。狩猟本能はすでに備わっているのだろう。母親はそれを刺激すべく、子を連れたまま獲物を狩り続ける。

 子供たちはやがて、狩りを真似するようにもなる。兄弟同士で追いかけっこをして、噛んだり叩いたりのじゃれあいは日常茶飯事だ。母親が狩り終えたシカを相手に、攻撃するそぶりを見せることもある。

 あるいは”保存食”の重要性もここで学ぶ。ピューマは大型動物を仕留めると、好みの場所まで運びこんで、その内臓を抜き取ってしまう。そして食べ残しに土や枯草をかけて隠しておき、何週間もかけて獲物を消費していく。こうした下処理を施しておけば、獲物が腐ったり盗まれたりしづらくなると、母親は知っているのだ。

 母親が食べ残しを丁寧に隠そうとする姿を見ると、子供たちもそれを真似し始める。土を掘ったり枯草を集めたり、ひとまず母親を真似してみるのだ。その行動が何を意味するのかは分からずとも、母親が何かを教えようとしている熱意は伝わってくるのだろう。母親と行動を共にするほどに、子供たちもスキルを身に着けていく。

photo by:Tambako The Jaguar

 生まれてから6か月ほど経つと、子供たちも小さな獲物くらいは狩れるようになる。狩りの興奮を覚えて野性味を増したのか、兄弟との遊びもエスカレートしがちだ。時にはケンカが白熱しすぎて、母親からたしなめられることもある。

 穏やかな親子生活もいつかは終わりを迎える。母親が次の発情期を迎える前に、子供たちは親元を離れなければならない。ピューマはネコ科動物の例にもれず”子殺し”を行う動物だ。うっかり外のオスと出遭ってしまえば、子供も無事では済まない。そのオスは子供を殺して、母親の発情を早めようとだろう。

 母親が新しい父親を迎える前に、子供たちは未知の世界へ旅立っていく。娘は母親のすぐそばに縄張りを構えるが、息子はかなり遠くまで移動していき、距離にして220㎞もの長旅をするのだという。野山を越えて川を渡り、時には人間の生息地へ迷い込む。各地を転々としていく中で、ピューマたちはそれぞれの暮らしかたを学んでいくのだろう。




参考動画






このブログを検索

お問い合わせフォーム

名前

メール *

メッセージ *

QooQ