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photo by:PxHere |
分布:北米全土
生息域:あらゆる地形(草原、森林、河川、山岳地帯、砂漠、農地、都市 など)
体長:74~100㎝(頭~胴)、26~40㎝(尾)
体高:56~64㎝
体重:7~23㎏
人類が完全敗北した相手、コヨーテ
近年、「スーパー耐性菌」という言葉が浸透してきている。
弱い細菌は抗生物質やワクチンによって駆逐されていくが、ごく一部の病原菌は生き延びてしまうことがある。こうした”耐性菌”が増殖すると、やがて抗生物質もワクチンも効かないスーパー細菌と化してしまう。
人類が病気を克服しようとするほどに、細菌はそれをあざ笑うように進化を重ねていくわけだ。それは恐ろしくもあり、生命のしたたかさを感じる瞬間でもある。
コヨーテもまた、人類の攻撃から生き延びてきた。コヨーテは畜産場に侵入しては家畜を喰い荒らす不届き者であり、あらゆる農作物を奪いまわる泥棒でもある。
人類は自らの成果物を守るために、古くから捕食動物を駆逐しようとしてきた。その多くは成功を収め、時には行き過ぎた成果を生むこともあった。たとえばオオカミは絶滅の危機に追い込まれ、場所によっては姿を見られなくなっている。
ところでコヨーテも人間から襲撃を受けているわけだが、その実、彼らはまったく数を減らしていない。むしろオオカミの後釜に居座るかたちで、近代史の時代よりも数を増やしている。人類が100年以上かけても、コヨーテを滅ぼすことはできなかったのだ。
むしろコヨーテをめぐる諸問題は悪化の一途をたどっている。一時的に駆除できたとしても、彼らはさらに知識をつけて帰ってくる。そして駆除から生き延びた個体が「スーパーコヨーテ」と化し、人々を翻弄し始める。
人類が脅威であることを学んだコヨーテは、安易に姿を現さないため、猟銃で撃つ機会がない。また、毒餌を見抜いて口を付けなくなり、罠も発動させずに見つけ出してしまう。放尿してマーキングしておけば、罠の位置を忘れることもない。
人類がどのような手段を用いてくるのか、彼らはすぐに学習してしまう。駆逐しようとすればするほど、知恵者のコヨーテが増えてしまうわけだ。
近年、コヨーテの駆除費用はどんどん上がっている。もはやさじを投げた畜産家も多い。たとえば裏庭にくず肉を置いておき、それをコヨーテに食べさせて家畜を襲撃から守ろうという試みがあった。これは事実上の敗北宣言といえるのではないか。
北米大陸において、こうした人間とコヨーテのやり取りは珍しくない。今なお人類との知恵比べを続けながら、彼らは数を増やしている。
あらゆる場所に現れる
あるいは数だけでなく生息域も広げているらしい。草原、森林、湿地、河川、山岳、峡谷、荒地、砂漠…。コヨーテに入り込めない地形はない。
季節の変化にも強く、土地に合わせて毛皮を調整して、暑さ寒さを凌いでもいる。たとえば冬、氷雪が降り積もる極寒地に身を置いたとしても、彼らは身震い一つしない。雪の上で眠り、雪を6メートルも掘ってネズミを狩り、短時間であれば冷たい川を泳いで渡る。
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photo by:Hear2heaL |
遠出することもいとわないため、時には人間の生活圏にも出没する。特に都市部ではコヨーテの目撃が増えており、ゴルフボールを持ち去ったり、ペット犬からぬいぐるみを奪ったり、珍事を引き起こしている。
鳥の卵や、新鮮な獲物と勘違いしたのだろうか。都心にあっても彼らは本能を隠そうとせず、致命的な事件を引き起こすこともある。
コヨーテは人間の子どもやペットも襲う。あるコヨーテは野良猫をエサにしていた。しかも野良猫を全滅させた後は、人々が猫に与えていたキャットフードを食べて生活していたそうだ。
彼らは自分より弱い相手には容赦がない。それは野生下においても同じことだ。アカギツネやボブキャットなどを積極的に追い出して、その土地の獲物を独り占めしようとする。
コヨーテは置かれている環境を的確に見抜き、また弱者を利用するしたたかさも備えているのだ。
いかなる獲物も食べる
ゴワゴワした毛皮や細長い手足はもちろん、首元のたてがみや強面の顔など、コヨーテはオオカミと見紛うような姿をしている。だが狩りのスタイルはむしろキツネに近い。単独の狩りが得意なので、群れに対する依存度も低い。
彼らはネズミ狩りが得意で、1時間に5~6匹ほどのネズミを狩ることができる。まずは聴覚と嗅覚の出番だ。耳と鼻をピクピクと動かしながら草原を歩いていく。
獲物の位置を特定すると、弧を描くように頭上へジャンプし、頭から刺さるように地面を強襲する。その勢いのまま前足で踏んだり直接噛み付いたりすれば、ネズミの非力さではまず助からない。
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photo by:PxHere |
コヨーテにとって、目に映るものはすべてエサとなり得る。齧歯類、野兎、鳥類、爬虫類、両生類、甲殻類、昆虫…。あらゆる土地へ侵入できるのと同じように、あらゆる生物をその胃に納めてしまう。
もちろん彼らは雑食性なので、植物を食べて飢えをしのぐことも可能だ。果物や根茎などで空腹をごまかし、次の獲物をしとめるまでの時間を稼ぐ。
あるいは特産物を味わうグルメな一面もある。カワウソから魚を奪ってみたり、そのカワウソ自体やアザラシなど水辺の哺乳類に襲いかかる姿も目撃されている。
彼らは観察眼に優れていて、いろいろな作戦を学んでは実践することができる。たとえば、ヤマアラシ狩りの練度には年齢差が見られるのだが、この差も飽くなき探究心から生み出される。
経験が浅いうちはヤマアラシの棘をうまく回避できず、コヨーテも痛みを我慢しながら狩りをすることになる。もし獲物を狩れたとしても、怪我は免れない。
しかし熟練したコヨーテであれば、無傷でヤマアラシを狩ることも夢ではない。特にペアで挑むと成功しやすい。片方が鼻っ柱を抑えて、もう片方が後ろからひっくり返す。そして棘のない無防備な腹に噛み付いて、ヤマアラシをしとめてしまう。
失敗を失敗のまま放置したくないのだろう。コヨーテはその獲物を効率的に狩るにはどうすれば良いのかを考えて、より優れた方法を試していく。
知恵者は未来を見越す
遊びや狩りから学び続けるうちに、コヨーテは優れた戦略を立てるようにもなる。たとえばクマに巣穴を襲撃された際は、ただ撃退するだけでなく、クマを巣穴から引き離そうともする。比較的安全な脇腹を狙って攻撃して、わざと自分を追いかけさせるのだ。
そうしてクマを巣穴から引き離してから撃退すれば、後日また巣穴が襲われる心配もなくなる。彼らは将来のリスクも加味したうえで、その行動を決められるのだ。
冬になればクマを利用さえしてしまう。コヨーテは時折、川に落ちて凍死した獲物を引き揚げることがある。だが小さな獲物ならいざ知らず、それがヘラジカやプロングホーンといった大型の有蹄類だった場合、コヨーテの力では引き揚げることが難しい。
そこでクマが登場する。大型有蹄類と同等以上の体格をもつ動物であれば、水揚げも容易い。コヨーテはクマの後をつけて回り、クマが漁師の真似事を始めるまで待ち続ける。やがて水底に宝が眠っていることに気づいたクマは、それを陸まで運び込み、腹を満たすだろう。
陰からジッと見ていたコヨーテは、クマが去っていくと速やかに残飯へ近づく。そして何の苦労もなしにエサを食べ始める。海賊を狙う盗賊というおもしろい構図ではあるが、これもコヨーテのしたたかさを思わせる一幕だ。
仲良きことはやかましい
自然界において「大きさ」は無視できないファクターである。体の大きさが一回り違えば、それは明確な力関係を産む。「数」もまた力だ。群れを成す動物は時に、自重の10倍もの獲物を狩ってしまう。
コヨーテもその例にもれず、群れで連携して体重200キロの獲物をしとめることがある。だがコヨーテの世界では、狩りに参加する頭数よりもむしろ、「誰」が狩りに参加するのかが重要なのだという。
特にリーダーの能力は狩りの成功率に大きく影響する。獲物の見極めは重要だ。水中へ逃げ込む、突進や角で反撃する、栄養不足で弱っている。獲物がどのような特性を有しているのかを、リーダーは総合的に判断して狩りをする。
知恵者でなければリーダーは務まらない。コヨーテはオスとメスそれぞれのリーダーがつがいを成し、群れの中心に収まっている。優秀なつがいはやがて子をなし、あるいは余所からやってきたコヨーテを受け入れ、群れを大きくしていく。
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photo by:USFWS Mountain-Prairie |
コヨーテは仲間とのコミュニケーションが盛んであり、お互いに毛づくろいし、同じ場所で放尿してにおいを確認し合う。群れの中で安心して暮らせるように、お互いの存在を確かめ合っているのだろう。日頃から絆を深めておけば、いざという時に連携がスムーズになる。
コヨーテにとって、もっとも重要なコミュニケーション手段は「謳う」ことだ。少なくとも11種類の声を使い分けている。特に「遠吠え」は彼らの十八番であり、うるさいほどに声を張り上げて遠吠えする。
コヨーテは北米でもっと声が大きい動物ともいわれ、穏やかな気象条件下では3.2キロ先にも声を届かせるのだという。ちなみに人間の叫び声は数百メートルほど、理想条件下でも1キロ先へ届かせるのが限界だ。
たとえ群れからはぐれたとしても、コヨーテはこの”やかましい声”を活かして仲間を呼ぶことができる。あるいは群れの全員で合唱を楽しむのも良いだろう。1頭が遠吠えを始めると、仲間もそれに呼応して声を張り上げる。興奮を共有したり朝の挨拶をしたり、「仲間との遠吠え」はコヨーテならではのコミュニケーションツールとなっているのだ。
一家総出で育児に励もう
繁殖期はメスが主導権を握る。発情を迎えたメスは遠吠えの頻度を増やし、オスを呼び寄せるようになる。オスをオーディションにかけるためだ。メスはより優れたオスを見定めると、その1頭だけをパートナーに選ぶ。
最大7頭ものオスが呼び寄せられたこともあり、そうして集められたオスの中には、メスをめぐりオス同士でケンカする者もいる。だがメスがパートナーを選ぶとオスも落ち着きをみせ、メスの選択を尊重して去っていく。他のメスが吠える声を聞きつけて、次こそはと決意をみなぎらせて走り去るのだ。
発情期を終え、交尾期も去ると、子育ての時期がはじまる。妊娠期間は2か月ほどで、その間に母親は子どものために部屋を用意する。丁寧に巣穴を掃除するだけでなく、枯草や腹毛を詰めてベッドを作ることもある。
出産数は平均6匹ほど。生後10日は乳だけで育つため、母親の負担も大きくなってしまう。そこで父親は単独で狩りへ向かい、母親にもエサを吐き戻して与えるようになる。両親とも実に献身的だ。
ただし離乳前に母親が行方不明になると、父親は育児を放棄してしまうケースもある。父親では乳を与えられない以上は仕方のないことではあるが、これも母親の重要度が伝わってくるエピソードといえるだろう。
2週間ほどの授乳期を乗り切ると、母親の負担も少しは軽くなる。子どもたちが吐き戻したエサを食べられるようになるからだ。肉の味を覚えた子犬たちは、大人たちが狩りから戻るたびに肉をせびるようになる。我先にと群がる姿は、まるでケンカでもしているかのようだ。
しかしケンカ相手としてはコヨーテの兄弟たちよりも、むしろカラスのほうが厄介だろう。ワタリガラスは子犬がこぼした肉を横取りしようと、常に目を光らせている。たいていは大人たちが追い払ってくれるが、不意を突かれてエサを奪われることもままある。
とはいえカラスは直接的な攻撃を加えてこないので、まだマシな部類だ。問題は大型の捕食動物である。オオカミ、ピューマ、グマ…。北米大陸には恐ろしいライバルがうろついている場所も多い。
こうした相手から襲撃を受けたり気配を感じたりした場合、母親は子どもを新しい巣穴へ移さなければならない。ノミがわいた場合も同様だ。1匹ずつ口に咥えて運んでいき、時には1キロ近くもそのまま移動するのだという。
なおコヨーテは群れの仲間も子育てを積極的に手伝ってくれるので、両親と見張りを代ってくれたり、天敵の撃退を手伝ってくれたり、群れの規模が大きいほど子も育ちやすくなる。その過程で群れの絆も深まっていき、群れも子どもたちも成長を果たしていく。
弱きを知るために子は争う
群れのメンバーは仲が良いが、それでもコヨーテは厳格な”一夫一婦制”を取るようだ。つがいの絆は固く、10年以上もその関係が続くこともある。環境に応じて一夫一婦にも多婚にもなり得るオオカミとは対照的だ。コヨーテはたとえ獲物が豊かな土地―――子を食わせるにも困らない状況に置かれても、つがいを裏切って別の異性と子をなすことはない。
つがいの絆もさることながら、仲間同士の関係性が明確に定まっていることも、一夫一婦を貫ける一因なのだろう。意外にもコヨーテは上下関係にうるさく、特に幼少期の争いはシビアだ。生後3週間ごろにはすでに競争がはじまり、オオカミの子ども同士が争うよりも激しく兄弟を噛み合う。
遊びの前にはまず真剣勝負の時間が設けられ、それが済むと楽しげに兄弟同士でじゃれるようなケンカに移行する。メリハリがあって大変よろしいが、この順位争いは長ければ生後5週間まで続くのだという。中々に刺激的な幼少期を過ごすことになりそうだ。
しかし順位が定まると攻撃的な態度も徐々に和らいでいき、遊び行動も増えていく。試合が終われば敵も味方もない。ノーサイドの精神が受け継がれているのだろう。彼らは上下関係を維持しながらも絆を深め合い、自分よりも強い相手には敬意を払うようになる。
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遊びの範疇だが、コヨーテは頻繁にヒップスラムと呼ばれる背撃行動をみせる (photo by: g'pa bill) |
弱者であることを認める強さ
どうやら厳格な上下関係は、種が異なる動物に対しても適用されるらしい。コヨーテは立場をわきまえている。巨大な草食動物は襲おうとせず、獰猛な肉食動物を前にすれば逃げ出す。自分の限界を超えるような戦いは避けている。
特にオオカミは危険な相手だ。コヨーテよりも大きさが1回りも2回りも大きいため、ケンカになれば勝ち目はない。さらに悪いことに、オオカミはコヨーテを積極的に排除しようともする。
両者とも雑食性の日和見性という食性を掲げている以上、図らずともエサが似通ってしまう。コヨーテがエサを食べるほどに、オオカミの獲物も目減りしてしまうわけだ。あるいは食べ残しを奪われる可能性もある。コヨーテがいるというだけで、将来のエサを食いはぐれるかもしれない。
まして群れを成したオオカミはなわばり意識が旺盛だ。自分たちのテリトリーを犯す不届き者を見かけてしまえば、許してはおけない。コヨーテをなわばりから追い出そうとし、時には殺してしまうこともある。
コヨーテの立場からすれば、オオカミとの遭遇は最優先で避けなければならない。見晴らしの良い岩に登って索敵したり、獲物を食べている最中でも、オオカミの気配を感じるとすぐに逃げ出そうとする。
これも幼少期の兄弟ゲンカの賜物だろうか。彼らは弱者であることを自覚して、臆病さを発揮することもできるらしい。オオカミという格上の相手が暮らしている土地にあっても、命を奪われないように振る舞い続けている。
時には遺伝子すら盗み出す
オオカミはコヨーテを許容しないが、コヨーテはオオカミを追いかけることがある。おそらく残飯が目的だろう。見つかれば容赦ない攻撃を受けると知ってなお、コヨーテはリスクを犯すこともある。
さらに信じられないことに、彼らはオオカミとより直接的に仲良くなることもある。実は北米で暮らすオオカミは、そのほとんどがコヨーテに由来する遺伝子をもっている。これはつまり、生物史のどこかでこの2種が交わり、しかもその雑種が生き延びて繁殖し続けてきたことを意味する。
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ユーラシアオオカミの顔。オオカミは全身がコヨーテよりもがっしりして、顔やたてがみも膨らみがある(photo by:ambquinn) |
この合いの子は”コイウルフ”とも呼ばれ、コヨーテに亜種を誕生させるための仲介役として役割を果たしてきた。1代目のコイウルフはオオカミとコヨーテの遺伝子を50%ずつ備えているわけだが、このコイウルフが純粋なコヨーテと交配した場合、その遺伝子はコヨーテ側へ傾く。
2代目コイウルフは(100%+50%)÷2=75%がコヨーテの遺伝子となり、3代目コイウルフは85%、4代目コイウルフは93.75%もの遺伝子がコヨーテ由来となる。純粋なコヨーテと交配すればするほど、その血は濃くなっていくわけだ。
この「戻し交配」とも呼ばれる現象のおかげで、コイウルフは最終的に、オオカミの遺伝子を持ちながらも限りなくコヨーテに近い存在となる。オオカミからすれば、遺伝子を”盗まれた”ようなものだろう。コイウルフはその遺伝子をコヨーテに配り続けていき、やがてコイウルフでも純粋なコヨーテでもない、コヨーテの亜種を生み出してしまう。
実際に亜種が誕生したこともある。1980年代、米南東部ではアカオオカミが絶滅してしまった。だがそれ以前にコヨーテはアカオオカミと交配を果たしており、少数ながらもコイウルフを誕生させていた。
その後、コイウルフはテキサスから生息域を広げ、コヨーテとの戻し交配も盛んとなる。彼らが新環境へ進出できたのは、あるいはオオカミの遺伝子を利用したおかげだったのかもしれない。生息域はカロライナまで延びていき、コイウルフとコヨーテの合いの子―――コヨーテの亜種も急速に数を増やしていった。
エサを奪うという直接的なやりとりでは満足できなかったのだろう。時にはライバルの存在そのものを盗み出し、自らに足りない能力を補ってしまう。そしてまるで勝ち誇るかのように、新たな土地へ足を踏み入れるのだ。
盗人猛々しいとはまさにこのこと。コヨーテはオオカミに成り代わるべく、今もその生息域を伸ばし続けている。
参考動画