筋力自慢なアスリート ボブキャット

食肉目

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photo by:PxHere
ボブキャット(Lynx rufus)
分布:北米大陸(カナダ南部~北米南部)
生息域:森林、草原、湿地帯、山岳地帯、半砂漠
体長:65~105㎝(頭~胴)、9~20㎝(尾)
体高:30~60㎝
体重:5.8~18.3㎏

古い時代から愛されてきたネコ

 ウサギを追いかけて、あっさりと追い詰めたボブキャット。しかし、木のうろに隠れたウサギは語ります。「まいった、もう降参。だから火を焚くといいよ。僕を焼いてすぐに食べられるからね!」。

 それは名案だと思ったボブキャットは、盛大に火を起こしました。しかしこれはウサギの策略だったのです。ウサギは火がついた落ち葉に飛び乗ると、それをボブキャットに向けて撒いてしまいます。

 これにはボブキャットも大慌て。毛皮に燃え移った火を消そうとして、たまらず川へ飛び込みます。なんとか火を消し止めたものの、ウサギには逃げられ、毛皮に”もよう”が焼き付いてしまい、もう散々です。

 トホホ顔なボブキャットの毛皮には、こうして今でも火傷の痕―――斑点が残るのでした。


 ボブキャットは古くから米国で愛されてきたネコ科動物だ。上の物語はショーニー族の動物神話にアレンジを加えたもので、ボブキャットの特徴がよく捉えられている。

 彼らは実際にウサギを好んで狩るし、ウサギを追い詰める手際の良さも、その狩猟能力が古くから確かなものであったことを暗示している。木や水場が登場するのは、ボブキャットが木登りや泳ぎに長けていることと一致する。

 あるいは火からすぐに遠ざかる描写も、優れた俊敏性や跳躍力をうかがわせる。あいにくウサギにやり込められてしまうが、これは人々のネコに対する親しみが表現されているのだろう。

 いささか野性味が強すぎるきらいはあるが、ボブキャットのフォルムもイエネコに通じるものがある。力強くて愛嬌もあるそんな動物に、人々は物語を贈りたくなったのかもしれない。

ボブの尻尾はボブテイル

 ”ボブ”という名称も馴染み深い。欧米では一般的な男性名であるため、物語の登場人物としてもピッタリだ。もっともボブキャットのボブは人名ではなく、”ボブテイル”が由来になっている。

「断ち切られた尻尾」の和訳そのままに、ボブキャットの尻尾はぶつ切りにされたような中途半端な長さをしている。これが人々の視線を惹きつけてやまないのだ。

 狩りに集中しているボブキャットは尻尾をにょろにょろと動かすのだが、その動きが妙に気になってしまう。派手に動かしているわけでも、尻尾が目立つわけでもない。だというのにボブテイルはジッと見ていても飽きない。

 そんな不思議な魅力に取りつかれて、人々はそのネコを”ボブキャット”と名付けたのだろう。


 他のネコ科動物に目を向けてみれば、その多くは実に巧みに尻尾を操っている。チーターは走っている最中に尻尾をブンブン振り回して、その勢いで方向転換している。ウンピョウは樹木に跳びついた勢いを殺したり、枝に巻きつけてバランスを取ったり、木登りの際に尻尾を役立てている。ネコ科動物にとって、尻尾は便利な補助具なのだ。

 一方でボブキャットは尻尾に頼るような生活をしていない。待ち伏せて跳びかかる狩り方が主流なので、そもそも獲物と速度勝負にはならないのだ。あちこち方向転換する獲物を追いかける、という展開にならない以上、尻尾にも出番はない。

 またボブキャットもよく木に登るのだが、それはウンピョウのように樹上生活を送るためではない。獲物を追いかけたり天敵から逃げたり、必要に駆られて木登りすることがほとんどだ。しかも瞬発力や跳躍力を活かして瞬時に樹を登り切ってしまうため、尻尾でバランスを取る必要がない。

 察するに、ボブキャットは昔から尻尾に頼ることが少なかったのだろう。使われない器官は退化してしまうのが道理だ。時を経るごとにその尻尾は短くなっていき、今ではボブテイルにまで縮んでしまった。

遠くからでは小さく見えるが、その体長はイエネコの2倍にもなる
(photo by:Pixabay)

ウサギ狩りのコツは”使い分け”

 神話ではやりこめられてしまったが、本来のボブキャットはウサギ狩りの名手として知られている。○、○、○といった小動物も獲物にするが、やはりウサギを好んで狩るようだ。とりわけよく狙われるのが○と○の2種類だ。地形や季節に応じて襲い分けているようで、その狩り方も異なっている。

 前者に対してはネコ科動物に特有の”忍び寄り”を決行する。斜面の高低差を利用して下から近づいたり、岩や茂みに隠れながらすり寄ったり、ウサギに気づかれないように接近する。そして射程圏内に入ると、脱兎のごとく飛び出してウサギを押し倒してしまう。首筋をグッと噛み締めれば、そのウサギは物言わぬ獲物となる。

 後者に対しては”力技の狩り”になってしまうようだ。雪上で狩りをすることになるので、忍び寄ろうとしても雪を踏む音でウサギに気づかれてしまう。そうなればあとはスタミナの勝負だ。必死の追いかけっこが始まる。

 雪上ではボブキャットに不利がつく。ウサギはその身軽さを活かして、雪上を跳ねるように走っていく。一方でボブキャットは自重で雪に沈んでしまうのだが、それをものともせずに走っていく。雪を押しのけながら走る姿は、ダンプカーといったところか。軽快に跳ねていくウサギとは対照的に、彼らは力技で雪道を進んでいく。


筋力そのままにネコパンチ

 それにしても、ボブキャットの力強さはどこから来るのだろうか。その答えはいたってシンプルで、彼らはとてつもなく”筋肉質”なのだという。骨格筋の割合が体の58%を占めている。

 人間は成人男性でも骨格筋の割合が40%ほどしかない。短距離走やバーベル選手であっても50~55%が限界だ。そう考えると、ボブキャットの筋力がいかに驚異的なのかが伝わってくる。ウサギを追い詰めるその手腕にも納得がいくというものだ。


 彼らはその筋力を活かして、静止状態からでも3メートル先まで跳躍してしまう。身をかがめて長い手足を縮めておけば、地面を蹴った反発力で遠くまでジャンプすることができる。勢いのまま獲物にしがみつけば、押さえつけて動きを封じることも可能だ。

 あるいは強力なネコパンチを浴びせることもある。とあるボブキャットは身長差を活かしてウッドチャックを一方的に叩いていた。太くて長い手足は力強いだけでなく、リーチを伸ばすにも打ってつけというわけだ。

 反撃されない距離からネコパンチを繰り出せば、安全に獲物を弱らせることができる。もし相手が背後を見せたならば、四肢に力を込めて跳びついてやれば良い。どう転んでもボブキャットからは逃げられない。

 そうして彼らは草食動物やヘビを射程外からしとめてしまう。どうやら狩り方を変えるのは、相手がウサギの場合だけとは限らないらしい。


筋力そのままに幹を駆ける

 ネズミを追いかけるネコは恐ろしいものだが、リスを追いかけるボブキャットはそれ以上かもしれない。地上どころか樹上に逃げ込んでも、その追撃は止まないのだから。

 リスを見つけたボブキャットは一も二もなく駆けていく。目的など聞くまでもない。食べるためだ。たとえリスが樹上へ逃げ込んだとしても、それは障害になり得ない。その後を追って、彼らも地上を走るのと大差ないスピードで木の幹を駆け上がっていく。

 ボブキャットには鋭い爪が備わっている。爪の長さはおよそ2.5センチ。これはイエネコの倍以上の長さだ。どんなに硬い樹皮であっても、彼らの爪を阻むことはできない。釘でも打つかのように爪を立てれば、それを足掛かりにして幹の上を走ることができる。

 たとえ垂直に近い樹木であっても、彼らは数秒で登り切ってしまうだろう。リスからすれば悪夢のような話だ。


 時には決死の覚悟で木から飛び降りるリスもいる。だがそれすらもボブキャットには通用しない。彼らは勢いをつけて木から飛び降りると、着地しながら四肢を折り曲げて、落ちた衝撃を完璧に吸収してしまう。そして何事もなかったかのようにリスを見据えて、また走り寄っていく。

 どうやらボブキャットはパワーだけでなくタフさも兼ねそろえた、上質な筋肉をもっているらしい。

当然、地上を走るネズミもボブキャットのエサだ
(photo by:PxHere)

全身全霊をかけてシカ狩りに興ずる

 ボブキャットは飢えにもある程度耐性をもっており、何も食べずに数日間を過ごすことができる。とはいえ食料はあるに越したことはない。時には食い溜めておくために大物を狙うこともある。

 たとえばシカ狩りもボブキャットの一般的な狩猟スタイルといえる。たいていは小鹿を狙うが、自分より8倍も重たいシカを狩ったという記録も残るほどだ。彼らの辞書には「無謀」の項目が欠落しているのだろう。

 シカ狩りではボブキャットのあらゆる能力が試させる。集中力、隠密性、瞬発力、忍耐力…。どれが欠けても狩りは成功しない。


 まずはウサギ狩りと同じで、”忍び寄る”ところからシカ狩りは始まる。肉球が音を消してくれるので、枯草を踏んでしまっても安心だ。一歩ずつ着実に歩を進める。優れた”視覚”も頼もしい。シカの動向をくまなくチェックし、相手がこちらを警戒していないことを確かめながら進んでいける。

 ”跳躍”が届く距離まで近づければ儲けものだ。そこまで接近できずとも、シカが違和感を探っている隙を突けば、全身を軋ませて矢のように刺さっていける。

 狙うは首元だ。両腕でしっかりと首を掴んで離さない。たとえ相手が暴れようとも、体を地面に叩きつけられようとも、ボブキャットの腕は決して緩まない。爪と腕力で”しがみつき”、さらに喉元へ強く噛み付くだろう。

 やがて疲労と息苦しさを覚えたままシカは倒れ、静かに窒息死を迎える。


 大物狩りには労力を要するが、それに見合った成果も得られる。シカで腹を満たしたボブキャットは悠々と去っていくだろう。そして次の日、また次の日もその場を訪れるに違いない。何日もかけて食べ残しをゆっくりと消費し、シカ狩りで疲れた体を癒していく。


先祖代々の兄弟ゲンカは今も続く

 ネコ科には珍しく、ボブキャットは他のボブキャットと縄張りが被っても気にしない。初対面の相手とはケンカになることもあるが、上下関係を築いた後であれば落ち着きをみせるようになる。また出会ったとしても、攻撃的な態度を見せるでもなく穏やかに去っていく。よほど獲物に困窮していなければ、弱い立場のボブキャットもなわばりを追い出される心配はない。

photo by:Miller_Eszter

 だが他の動物相手ではそうもいかない。特にカナダオオヤマネコとは居住を争う仲にある。2種は見た目はそっくりなので、遠目から判断することは難しいが、しいて言えばオオヤマネコと比べて”耳の房”が短いこと、尻尾が長いこと(ボブテイル)から見分けられる。

 ボブキャットは北米大陸のヤマネコ科ではもっとも小さいヤマネコだ。しかし他のヤマネコから後れを取っているわけではない。むしろカナダオオヤマネコとはしのぎを削り合う仲であり、優勢はボブキャット側に傾いてさえいる。

 この力関係はおそらくボブキャットの性格―――より凶暴であることが影響している。両者が出会えば激しいケンカは避けられない。長い手足を伸ばしあってパンチの応酬をはじめるだろう。隙あらば噛みついてしまってもよい。低い声で威嚇を繰り返しながら、互いに戦意を確かめ合う。

 とはいえ誰でも痛い思いはしたくないものだ。カナダオオヤマネコもある程度は闘うものの、しばらくすると痛みを思い出したかのように戦意を喪失してしまう。ところがボブキャットは怒り心頭といった様子で、今も掴みかからんばかりに睨みつけてくる。実力が互角であればこそ、性格の差も顕著に表れてしまうわけだ。まだ攻勢を崩そうとしないボブキャットを見て、オオヤマネコは困惑した様子でその場を去っていく。


 生息地の境目ではしばしば激突してしまうが、2匹はたいていの場合は棲み分けができている。カナダオオヤマネコは名の通り、カナダ以北でも精力的に活動できるのだが、ボブキャットは雪があまりにも深い土地では暮らせない。その差が生息域にも反映されて、両者は雪国を境にして南北へ分かれている。

 あるいは、お互いに愛憎相反する想いを抱いているのかもしれない。実のところ、両者は交配して子をなすこともできる。見た目だけでなく遺伝子も非常に近しいため、時折、交じり合うこともあるのだ。

 2種は祖先を同じくしており、そのルーツはユーラシアオオヤマネコにあるのだという。ユーラシアオオヤマネコは古く、2度に分けて北米大陸へ侵入した。1度目はボブキャットへ進化を果たし、次いで2度目にはカナダオオヤマネコへと進化する。そのわずかな差が雪国の境界線を生み出したわけだ。

 たとえ相手が懐かしの兄弟であったとしても、ボブキャットは容赦しない。先輩としての矜持がうずくのだろう。今のところ両者の関係性はボブキャットが優勢だ。


勝てないまでも一矢報いたい

 多少の体格差はものともしないとはいえ、それにも限度はある。ボブキャットの大きさでは、クロクマやピューマに挑みかかるのは自殺行為でしかない。実際、これら動物に命を奪われてしまうケースもあるのだという。

 実力が及ばないのであれば避けるしかない。ボブキャットは大型の肉食動物が暮らす土地からは遠ざかる傾向にある。あるいは獲物を変えて共存を図ることもあるようだ。

 たとえばピューマの生息域で暮らしているボブキャットは、ウサギをさらによく狩るようになる。これはピューマが中型~大型の動物を狩ることを見越して、獲物や狩場が被らないように配慮しているのだろう。

 ボブキャットはコヨーテにも後れを取るようだ。両者が積極的に争うことはないが、それでもボブキャットが一方的に追いやられる様子もしばしば目撃されている。


 しかし負けん気の強いボブキャットのこと。やられっ放しは我慢ならないようで、時にはコヨーテに奇襲をかけてそのまま追い払ってしまう。

 普段から待ち伏せに慣れているおかげだろう。彼らは他の動物が近づいてくることには敏感だ。コヨーテが呑気に歩いているところを見つければ、音も立てずに茂みへ身を隠してしまう。仕掛けは上々といったところか。

 敵の存在など知る由もなくコヨーテは歩き続け、やがてボブキャットが紛れる草場へ足を踏み入れてしまう。そうなれば死角からネコパンチが飛んできて、思いもよらない衝撃に身を揺らされることになる。見えない敵からの襲撃でパニックになったコヨーテは、一目散に逃げ去るしかない。

 地の利を活かせばボブキャットにも活路はあるのだ。彼らが草原よりも森林や岩盤地帯に身を潜ませたがるのも、”潜むこと”の優位性を自覚してのことだろう。そうして天敵の肉食動物はやり過ごして、獲物の草食動物を狩りながら暮らしている。長くもあり短くもあるボブテイルのように、絶妙なバランス感覚でさまざまな動物を手玉に取っている。

photo by:PxHere




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