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photo by:PxHere |
分布:北米大陸(アラスカ、カナダ、北米東部)
生息域:森林、平野、牧草地、生垣
体長:41.8~68.5㎝(頭~胴)、9.5~18.7㎝(尾)
体高:22~28㎝
体重:2~6.3㎏
春と共にやってくる、ウッドチャック・フィル
2月2日は「グラウンドホッグ・デイ」。この良き日には、グラウンドホッグことウッドチャックが1年の吉凶を占ってくれる。1886年、米国の新聞報道がキッカケで周知され、それ以降もささやかな催事として続いてきた。
特に人気なのが『パンクスタウニー・フィル』と呼ばれるイベントだ。世襲制でフィルの名を継いだウッドチャックが、春の訪れを一足早く判断してくれる。日差しを受けたフィルが、振り返ることなく春の陽光を堪能したならば、それは冬開けのサインだ。逆に、彼が視線を落として自らの影を見たならば、春迎はまだ先になる。あと6週間は冬が続くだろう。
野生下でも、冬眠明けのウッドチャックはしばしば二度寝する。おそらく昔の人々は、「まだ寒い」とでも言いたげなウッドチャックを見て、春が遠のいたように感じたのだろう。いわば彼らは”季節”予報士の役割を期待されてきたわけだ。
天気予報が外れるようにフィルの予報も完璧とはいかない。だが春の予感と共に愛嬌たっぷりな彼らが姿を現すと、それだけで人々の間には和やかな空気がもたらされる。グラウンドホッグ・デイとは、冬の寒さに凝り固まった心身をほぐしてくれる日なのかもしれない。
人々の文化圏に浸透している掘削者
それにしても「ウッドチャック」という響きはどこか”ひょうきん”で、口ずさむだけで愉快な気持ちになってくる。そしてこの感覚は間違っていないらしく、米国ではウッドチャックが早口言葉としても親しまれている。
”How much wood would a woodchuck chuck if a woodchuck could chuck wood?”
「ハウ マッチ ウッド ウッド ア ウッドチャック チャック イフ ア ウッドチャック クッド チャック ウッド?」
(もしウッドチャックが木を投げることができたとしたら、どれくらいの量の木をウッドチャックは投げるだろうか?)
「ッド」「ック」という促音が連続して繰り返されるのが心地よい。その名を口にするだけで笑顔をもたらしてくれるのだから、ウッドチャックもなかなか侮れない存在だ。
とはいえ、彼らには早口言葉のように「木を投げる」ことまでは期待できそうにない。名前の由来はウッドチャックではなく「ウーチャック(wuchak)」であり、これには「掘削者」という正しい意味があるからだ。
実際、彼らはウッドチャック(木を投げる)ではなく、ウーチャック(穴掘り)に情熱を捧げている。あまり熱心に穴を掘り続けるものだから、それを見た人に不安を抱かせることもあるのだという。
「庭を穴ぼこだらけにして景観を損ねないだろうか?」。「畑に穴を開けられるとトラクターが陥没するかもしれない」。彼らの仕事ぶりを訝しむ声も聞こえてくるが、こうした不安はたいていが杞憂に終わる。むしろ人類に貢献してくれることもある。
面白いところでは、ウッドチャックの穴掘りがきっかけとなり、古代遺跡が出土したこともあった。しかも2件あったというのだから驚きだ。いずれにせよ、ウッドチャックが人々の文化圏に深く潜り込んでいることは間違いない。
穴掘り壁立て巣をつくる
”でっぷり”とした体型も、人々に親しみを感じさせてくれる。だがそれ以上に、彼らの食事風景には思わず笑みを浮かべてしまうほどの愛らしさが詰まっている。
その体型からは想像しづらいのだが、ウッドチャックはからだのバランスを保つのがとてもうまい。リスのように2足で立ち上がると、体勢が崩れる不安などまるで感じさせることなく、両手でエサを握りしめてモグモグする。
さて、リスの”ように”と言ったが、この表現は語弊があるかもしれない。ウッドチャックは正真正銘、リス科動物に属している動物だからだ。とりわけ地面に穴を掘るリス―――ジリスに分類されている。
肥満体型のイメージはどこへやら。彼らの動きはとても俊敏で、一度リズムに乗ると、巣穴を完成させるまで掘り抜いてしまう。どうやら掘削者の名は伊達ではないらしい。
まずは土を起こすところから。柔らかい土質を選ぶと前脚を置き、洗濯でもするように爪で掻き上げていく。そしてほぐれた土を後脚で蹴り出して、さらに穴を広げていく。
土がある程度溜まってくると、彼らはいったん掘るのを止めて土を片付け始める。そのまま放置すれば、山崩れが起きて穴も埋もれてしまうだろう。面倒を避けるためにも、彼らは穴掘りと片付けを順々にこなしていく。
あるいは掘り起こした土で高台を作っておくのも良い。見張りの時にそこへ登れば、より遠くまで見渡せるようになる。また、高台が壁になってくれるので、巣の入口も発見されづらくなる。天敵避けとしてはこれ以上なく素晴らしい働きをしてくれる。
ゆりかごから墓場まで、ウッドチャックを支える巣穴
ウッドチャックは最長7メートルものトンネルを掘るが、トンネルは途中でいくつも分岐を重ねていくため、決して一本道の構造にはならない。分岐した道も含めると、トンネルの全長は14メートルに達することもあるそうだ。
深さも90センチに到達することがあり、その最奥には部屋が設けられている。寝室はもちろんトイレも完備済みだ。巣穴に籠っているだけでも快適な暮らしが約束されている。また部屋ではなく緊急用の脱出口につなげておけば、のぞき穴にして外に危険がないかを確認することもできる。不意に侵入者が現われたとしても安心だ。
母親のウッドチャックはさらに、わらを敷き詰めて”ゆりかご”を用意することもある。子どもたちはそこで生まれ、いつかは自分も同じように”建築”を志すのだろう。そしてその場所で死を迎える―――とは限らないが、少なくとも一生のうち大半は地下生活を送ることになる。
ウッドチャックにとって巣穴とは、命運を預けるのに相応しい舞台でもあるのだ。
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冬眠や子育ての前には、部屋に枯草を詰めることもある (photo by:Cephas) |
動物たちも高級物件には憧れがあるらしい。たとえ家主が放棄したとしても、ウッドチャックの巣穴には多くの動物が集まってくる。
たとえば若いウッドチャックが、空き住居に引っ越してくることがある。まだ自分の穴掘りに自信がないのだろう。あるいはジリスの実力が気になるのか、樹上リスが巣穴を見学しにくることもある。
種を越えて利用されることも珍しくなく、キツネ、アライグマ、カワウソ、ヘビ、鳥など、さまざまな生物がウッドチャックの古巣に居つくのだという。時には、ウッドチャックがまだ暮らしている巣穴に住み着いてしまう不届き者もいる。あるウサギは家主が冬眠中であるのを良いことに、安全で温かな巣へ引っ越してきてしまった。
地上は油断のならぬ場所
建築士としての腕を求める声は止まないが、ウッドチャック自身は社交的とは言い難い。彼らはジリスの中でも特に単独生活を好むのだ。
他のジリスは仲間と警戒を促しあいながら、天敵の存在をいち早く察知して生き延びている。リス科には敵が多い。気を抜けば背後からコヨーテやボブキャットが忍び寄ってくる。空を仰げばタカが目を光らせてこちらを狙っている。とてもではないが、地上を無防備で歩くことはできない。
ウッドチャックも警戒は怠らない。むしろかなり神経質な様子を見せる。本音を言えば、巣穴からは一歩も出たくないのだろう。彼らは入口から顔を出したり引っ込めたりして、巣穴から中々出ようとしない。
ようやく出てきたかと思うと、今度は二足で立ち上ってあたりを警戒し始める。目線を高くして、少しでも遠くまで確認しようと必死だ。ジッとしたまま数分ほど立ち尽くすことも珍しくない。
だがいつまでも同じ場所で立ちすくむわけにもいかない。やがて観念するかのようにエサ探しに出かけていく。ただし外出は巣穴付近で済ますことが多く、どれだけ離れても巣穴から800メートル以内には留まろうとする。
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photo by:giadafrangioni |
ウッドチャックの界隈では「10秒ルール」が常識らしい。彼らは食事時でも決して気を抜かない。エサを食べるために顔を伏せていても、10秒に1度は顔を上げてあたりを確認しようとする。
時には両手でエサを持ったまま、ピクリとも動かなくなってしまう。嗅覚で探っているのか聴覚で探っているのか、あるいは両方か。二足で立ったまま感覚を研ぎ澄まして、あたりに危険がないかを判断している。
危機意識が最高潮に達すると、彼らは”警戒音”も発する。しゃっくりでもするように延々と息を吐いたり、口笛のような甲高い声で鳴いたり、明らかな異音をあたりに響かせるのだ。
たとえ無害な鳥が口ずさむ歌だったとしても、ウッドチャックは緊張した様子を見せてしまう。物音がするという事実そのものに我慢がならないのだろう。やはり2本足で立ち上ると、石像のように体を硬直させる。
たえず緊張状態にあるものだから、4本足で行動する時間よりも2本足で警戒している時間のほうが長いくらいだ。天敵を見かけようものならば、彼らは直ちに巣穴へ潜り込んでしまう。そして1~2時間は巣穴から出ようとせず、また顔だけを出して警戒するところから外出が始まる。
敵の多い土地でも一人暮らしでやっていけるのは、この過剰なまでの警戒心が役立っているに違いない。
過剰な草食者、肉も喰らう?
お行儀よく両手でエサを掴んで食べている姿は可愛らしいのだが、食事は彼らにとって死活問題でもある。内心は穏やかではないのかもしれない。
ウッドチャックは1日に450グラム以上の植物質を食べて暮らしている。これは人間換算で約7700グラムに相当し、日本人が推奨されている野菜摂取量を22倍も上回る計算となる。
なお食の好みは問わないようで、クローバーやタンポポといった馴染みの草から、桑の実や野生レタスといった野菜・果物、さらにはイネ科の葉や樹皮などの硬い植物質も齧ってしまう。
量もさることながら、彼らは硬い物をたくさん食べるため、歯が摩耗しやすい。だが心配はご無用だ。齧歯類の面目躍如というべきか、ウッドチャックは歯(門歯)の成長が早く、1週間で1.5ミリも伸びるのだから。
人間の爪は1週間で0.7~1.2ミリほどしか伸びないことを考えると、これは驚異的な成長だ。彼らは爪切りで爪を整える代わりに、ひたすらエサを噛み続けることで歯を摩耗させている。成長と摩耗のスピードを拮抗させることで、歯の長さを保っているわけだ。
ちなみに彼らは雑食生活も可能であり、時折バッタやカタツムリ、卵やヒナを食べることもある。他のリス科よりは低頻度だが、栄養を補うためならば肉を喰らうことも厭わない。
ふとましく冬眠して、ほそましく目覚める
実は完璧な冬眠をする動物というのは珍しい。たとえばツキノワグマも冬眠状態に入るのだが、時々目を覚まして体を動かしている。寝返りを打ったり排泄をしたりするためだ。ちなみにクマは眠りが浅いので、たとえ冬眠中でもちょっかいを出されると目が覚めてしまう。
冬眠よりもやや浅い眠り、”トルパー”で済ませる動物もいる。樹上リスやヤマネがまさにそれで、2週間ほどのトルパーで冬を越している。しかもトルパーから目覚めたとしても、まだ冬の寒さが和らいでいない場合は、再びトルパーに戻ることもある。
これらの眠りに比べると、ウッドチャックの眠りは”完璧”といっても良い。10月に寝込むと最長4月までは巣から出てこない。体温は2℃まで下がり、心拍数は1分間に10回未満、さらに呼吸も6分に1回まで減少する。あまりにも見事な”冬眠”ぶりは、死んでいるようにも見えるほどだ。
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樹上リスの画像。ウッドチャックとは違いトルパー(短い冬眠)で冬を越す (photo by:PxHere) |
6月上旬になるとウッドチャックは冬籠りの準備をはじめる。といっても、樹上リスのようにエサを地面に埋めておくわけではない。埋める先は己の肉体であり、エネルギーを脂肪に変換してから蓄えておく。
代謝を下げて、行動頻度も減らしてしまえば、エネルギー消費はさらに抑えられる。ウッドチャックはそうして”太りやすい状態”のまま秋を過ごし、体重が2倍に膨れ上がるまでエサを食べ続ける。
やがて冬が訪れると深い眠りにつく。頼れるのは蓄えた脂肪だけだ。ゆっくりと体重を減らしながら春を待つ。
穏やかな日差しと再会する頃には、彼らの体もひどく萎んでしまう。冬眠明けのウッドチャックはその体重を半分ほどに減らしている。寝ぼけ眼で空腹に気づくと、日差しを受けて伸びていく新芽を食べ始める。ふくよかな体型を目指す日々が、また始まるのだ。
わずかな家族生活に愛をこめて
春眠暁を覚えずとは言うけれど、ウッドチャックの世界ではウトウトもしていられないようだ。冬眠から開けるとすぐに繁殖期を迎えるため、休んでいる暇などないのだ。
特にオスはオス同士で競い合い、なわばりを確立しなければならない。ウッドチャックは一夫一婦制を採用しており、強いオスほど子を残しやすくなるからだ。
冬眠で余った脂肪を燃やしながら、彼らはライバルを追い払い続ける。そして眠りから覚めた花嫁候補にアピールすると、交尾を済ませて去っていく。たとえ繁殖期であろうとも、仲間と寄り添うことはない。ウッドチャックならではの淡白さだ。
父親との別れを済ませた母親は、1か月もすると出産を迎える。3~5匹の子どもに囲まれながら、せわしない日々を送ることになるだろう。
子育ての時期は、ウッドチャックの社交性が見られる貴重な時期だ。生まれたばかりのウッドチャックは弱々しく、母親の手助けがなければ生き残れない。およそ1か月間は、母親が丁寧に掃除した巣穴の中で、ゆったりと成長していく。
母親は持ち前の警戒心を子どもたちへ授けようとする。天敵の存在を感じれば、誰よりも早く警戒音を発し、子どもたちに巣穴へ戻るように指示を出す。
生後2か月になると、子どもたちも自力で穴を掘り始める。時には兄弟同士で協力し合って掘ることもある。巣穴の重要性は言うまでもない。母親が暮らしている住居に憧れて、あるいは母親が穴掘りする姿を真似て、子どもたちは少しずつ掘削の技術を磨いていく。
時には遊びの範疇で兄弟喧嘩をすることもある。母親はそうした子どもたちの営みすら、微笑ましげに見守っている。
だが幸せな生活もそう長くは続かない。遅くとも8月末までに一家は解散し、それぞれ一人暮らしを始めるようになる。子どもたちはそれまでに、自力で掘った巣穴へ移るのか、あるいは新天地を目指して移動するのかを迫られる。
初めて一人暮らしをする時期は、ウッドチャックにとって試練の季節となる。天敵から襲われても、もう母親は助けてくれない。警戒心が足りない者から順番に間引かれていく。
臆病な心を持ったウッドチャックだけが生き残り、やがて本能に従って冬眠の準備を始める。若者たちは家族との別れを済まし、天敵の恐ろしさを知り、訪れる冬の厳しさに震えるだろう。
ウッドチャックの命運は苦難にあふれている。せめて夢の中だけでも快適な生活を送ってほしいと、深い眠りについた彼らを見て願わずにはいられない。
参考動画