クレバーな狩りは群れてこそ ドール

食肉目

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photo by:Tambako The Jaguar
ドール(Cuon alpinus)
分布:アジア大陸(インド、中国、インドネシアなど)
生息域:森林、草原、平野、高山(ステップ)
体長:88~113cm(頭~胴)、41~50㎝(尾)
体高:42~50cm
体重:10~21㎏

「野犬」の血を継いでアジアに進出

 ドールは「アジアの野犬」とも称されるイヌ科動物で、東・東南・南アジアに散在するような分布を示している。過去にまでさかのぼると、ドールのご先祖様はさらに広い分布へ散っていたらしく、日本においても松香江洞窟(九州)や下葛生動物群(本州)から化石が発見されている。

 化石記録をさらにさかのぼると、その起源はヨーロッパにまでさかのぼる。今でこそヨーロッパからは遠のいているが、更新世にはヨーロッパドール―――つまり現代ドールのご先祖様がヨーロッパ圏に根付いていたのだ。

 興味深いことにドールの化石からは、あるイヌ科動物の影も見え隠れしている。どうやらリカオンの遺伝子が混じっているようなのだ。英名では「アフリカの野犬」と呼ばれているように、リカオンもまた”野犬”の名を継いでいる動物である。

 ドールの祖先は、「イヌ科の近縁動物(イヌ科ではない)」と「イヌ科動物そのもの」が交わった雑種にあるといわれている。おそらくリカオンはこの2種のうち「イヌ科動物」に該当していたのだろう。

 ストーリーはこうだ。リカオンはヨーロッパから中東に進出し、ドールのご先祖様と交わった後、アフリカ大陸にたどり着いた。そしてアフリカの野犬としてサバンナを闊歩することになる。一方でドールの祖先はリカオンの長所を受け継いで、中東からアジア方面へ乗り出した。

 群れることで狩りを効率的にこなし、鋭い牙で狩猟・食事を素早く済ませ、持久力を活かして遠くまでなわばりを広げる。イヌ科の血を最大限に利用して、ヨーロッパから中東、果てはアジアにまで広がっていったわけだ。

イヌから継いだ”歯”をより鋭く進化させよ

 遺伝子調査がさかんに行われるまで、ドールは本当にイヌ科動物なのかを疑われることもあった。オオカミとキツネを足して2で割ったような見た目は紛れもなく「イヌ科」なのだが、頭蓋骨まわりの構造はむしろ「ハイエナ科」に近しかったことも、原因のひとつだろう。

 ドールの頭蓋骨は形状が”がっしり”していて、頭頂部に”モヒカン”のような隆起も見られる。これら構造は咬合筋の付着面積を増やしつつ、顎の噛み合わせも良くしてくれる。早い話、ドールはハイエナのように強力な”顎”を備えていたわけだ。

 あるいは歯の構造がイヌ科とは決定的に異なることも、研究者たちを悩ませた。たとえばドールの奥歯には凹凸が1つしかない。一般的なイヌ科は2~4個の凹凸をもっており、肉をすり潰しやすくなっている。

 そもそも奥歯の数もイヌ科動物より少ない。いずれも歯の平たい部分をなくすような変化だ。おそらくドールは、あえて平たい歯を減らすことで、鋭い歯が獲物に触れやすくなるように進化したのだろう。

 強さを増した咬合力、鋭さを増した歯を組み合わせることで、彼らは効率的に狩りをこなせるようになった。噛んで引っ張るというたったそれだけの動作で、獲物の皮膚はノコギリでも当てられたようにザクリと裂けてしまう。怪我を負わせることに関しては、ドールの右に出る動物はいない。彼らはリカオンから受け継いできた丈夫な歯を、さらに効率的な武器へ進化させてきたのだ。

photo by:Ranjan Ghosal

仲良しの秘訣は入念な”声掛け”

 ドールは「アカオオカミ」と呼ばれることもある。群れをなしてなわばりを守り、仲間と協力しながら狩りをする姿がオオカミを彷彿とさせたのだろう。

 だが彼らの群れはオオカミよりもはるかに規律がゆるい。ドールの群れは階級が曖昧であり、仲間の全員が仲良く暮らしている。遠目から群れを見たときに、誰がリーダーなのか判断がつかないほどだ。

 注意深く観察を続けると、ある1頭ないし2頭だけが仲間から服従のサインを受けていることに気づくだろう。ドールもまた、オスメスそれぞれのリーダーを中心に群れがまとまっているのだ。これはイヌ科の一般的な群れの形態であり、ドールもやはりイヌ科に属している動物であると気づかせてくれる。

 結束を高めるべく、彼らは日々のコミュニケーションを怠らない。共同トイレで一緒に排泄を済ませて”におい”を共有したり、互いに舌が届かない箇所を舐めあって清潔な暮らしを保ったりと、生活環境を同じくしている。

 あるいは声によるコミュニケーションも欠かせない。豊富な声や音をもちいて仲間に呼びかけて、情報を瞬時に伝え合うこともできる。音の種類は実に11種にも及ぶといわれ、しかも群れのメンバーそれぞれの声を聞き分けることもできる。

 たとえば仲間に甘えたい場合は「キャンキャン」と鳴けばよい。他のメンバーと遊びを楽しんでいるときは、「キーキー」と興奮の声を漏らしてしまう。一転、何か恐ろしい敵が近づいてきた際には、「ククッ」と喉を鳴らしたり、「ワーッ」と威嚇したりする。

 仲間の声を聞いたドールたちも、やはり同じように声を返していく。そうして行動や感情を共有することで、連携の精度を上げたり仲間を好きになったり、群れの結束力も高めていくわけだ。

群れる醍醐味は”狩りやすさ”

 仲間との絆をもっとも感じられる瞬間といえば、やはり狩りの時だろう。狩りはモチベーションを高めるところから始まる。お互いにお互いの口元をなめ合う姿は、「頑張ろう」と励まし合っているかのようだ。

 先導役が歩き始めると、メンバーは一列になって後を追いかけていく。前を歩く仲間が草道をかき分けてくれるので、後ろの仲間は悪路に足を取られずに済む。また前の仲間を追いかけていけば、迷子になる心配もなくなる。きちんと整列して歩くことは、群れの統率力を示すだけでなく、合理的な移動手段でもあるわけだ。

 あるいは発声によるコミュニケーションも怠ってはならない。ドールは視界の利かない場所で狩りをすることも多いからだ。

 群れのメンバー全員を食わせていくためには、大物―――シカやウシをしとめる必要がある。つまりそうした獲物が好んで暮らしている森林まで足を運ぶことになり、茂みに視界を奪わながらの狩りを強いられてしまう。”視力”だけに頼っていては、狩りを成功に導くことはできないだろう。

 そこでドールたちは”音”を用いて、仲間との連携を図るようになった。視覚が利かないならば聴覚に頼れば良いというわけだ。彼らは”口笛”のような音を発することで、現在位置を仲間へ伝えたり、あるいは仲間のフォーメーションを把握したりする。そうして横並びで獲物を探していき、また獲物を見つけた場合は逃げ道を塞ぐように包囲網を敷いていく。

 音は牽制にも使える。あちらこちらから聞こえる声に翻弄されてしまえば、獲物たちも思うようには逃げられない。四方からドールが殺到してくるのを許してしまう。

 ドールたちはフォーメーションを維持したまま距離を詰めて、直ちに攻撃へ移るだろう。なにせチームワークは抜群だ。彼らはやはり役割分担を徹底したまま獲物を追い詰めていく。たとえ相手が自重の10倍もある雄ジカだったとしても、彼らには障害足りない。

 まずはメンバー全員でグルグル回るように包囲網を狭めていき、反撃の的を絞らせないように、されど確実にプレッシャーをかけていく。もしシカが角を振るってみせても、正面にいたドールはヒョイッと角をかわしてしまうだろう。それどころか、別のドールに無防備な後脚を噛み付かれてしまう。

 ドールの牙は1本1本がカミソリのように鋭い。それでいてノコギリのように配置されているため、1度噛み付くだけでも牙が深く刺さるようになっている。確実に傷と痛みを与える、実に効率的な武器だ。

 噛まれたシカは痛みで動きを鈍らせ、またもドールに攻撃の機会を与えてしまう。ついには後脚に力が入らなくなり、シカはその場に座り込むだろう。もはや反撃の手立てはなく、押し寄せてきたドールたちに太ももやお尻を引き裂かれてしまう。あとは失血死か生きたまま喰われるか、最悪の2択が待っている。

photo by:Mike Prince

 時にはテクニカルな狩りも見せてくれる。ドールの狩りは群れありきなので、単独では取えないような戦術も取ることができる。たとえばシカ狩りの際には、あえて獲物を水場へ追い立てることが良くある。

 深い水場まで追い込んでしまえば、あとは待つばかりだ。シカはバタ足で沈まないように泳ぎ続けなければならず、ただ浮かんでいるだけでも体力を消耗してしまう。もしそのまま水中で過ごし続ければ、やがて疲労に耐えられなくなって溺れてしまう。

 泳いで対面へ渡ろうにも、ドールたちが先回りして岸で待ち構えている。水中に留まることしかできず、シカは勝手に疲労を溜めていく。ドールたちはただそれを眺めていればよい。時には待つことに飽きてその場に座り込んでしまう仲間も出てくるが、そこにいるだけでもシカはプレッシャーを感じるので、さほど問題にはならない。

 獲物がだんだん弱ってくると、ドールのリーダーも攻撃の算段を立て始める。実はドールも泳ぐことは苦手ではない。見事な犬かきで獲物へ近づいていき、泳ぎながらも攻撃を仕掛けることができる。

 疲れ果てた獲物はもはや抵抗できず、水中で押さえつけられたまま溺れてしまう。やがて獲物を口に加えたリーダーが岸までたどり着き、仲間と共に戦利品を陸まで引き揚げる。知恵の勝利といったところだろう。

photo by:Tambako The Jaguar

群れには群れをぶつけるのが最善手

 獲物は1頭だけを狙い撃ちするのが常套手段だが、ドールの群れは複数頭を相手にすることにも長けている。たとえばガウルの群れを襲う際には、ドールたちは牽制役と攻撃役に分かれてから攻撃を始める。

 ガウルはシカほどには早く走れないが、代わりに恵まれた体格でドールを追い払ってしまう。メスのガウルであってもその体重は600~700キロに達することもあり、これはドールの約40倍に値する。ガウルに軽くぶつかられるだけでもドールは吹き飛んでしまうだろう。

 襲いかかるにはあまりに危険な相手だが、手負いのガウルや若いガウルであれば話は別だ。そうした”弱い個体”を群れから引き離すことができれば、シカと同じような手順で狩ることができる。ここで必要になるのが牽制役だ。

 健康な大人のガウルであっても、ドールが近づいて来れば反射的にそこから逃げようとする。いくら倒される心配がないといっても、怪我を負わされたくはないからだ。そこで牽制役を引き受けたドールは、このガウルの警戒心を巧みに利用してしまう。

 攻撃役のドールたちがターゲットを囲い込むのと同時に、牽制役はガウルの群れをジッと睨みつけて怯ませる。ガウルの群れが弱い個体を助けに来られないように、牽制して分断を図るわけだ。

さながら”野生の牧羊犬”といったところだろうか。牽制役はぐるりと大回りしながらガウルの群れへ近づいていき、すべてのガウルがターゲットから遠ざかるように仕向けていく。そして時間を稼いでいるうちに攻撃役がターゲットをしとめ、狩りを成功に導くのだ。

食事のルールが群れを高める

 戦利品を得たドールたちは、勝利の余韻と共にエサを味わっていく。彼らにはテーブルマナーが2つしかない。平等に。そして迅速に。この2つだ。

 彼らは肉をちぎって持ち去り、獲物から少し離れた場所で食べ始める。こうすれば弱い仲間でも獲物に近づいて食べることができる。誰もが争うことなく腹を満たせるので、群れの仲も良好に保たれる。

 早食いも大事なルールだ。ドールには敵が多い。クマやヒョウとは獲物を奪い奪われ合う関係であり、血のにおいを嗅ぎつけて襲ってこないとも限らない。さらに恐ろしいのがトラの存在だ。ひと噛みでドールを絶命させるほどの実力者とは、間違っても争ってはならない。

 たとえ食事中であっても、トラの気配を感じたドールは警戒心を最大限にまで引き上げる。その恐怖はやがて群れ全体へ伝播していき、獲物を捨てて逃げるという決断を迫られることになる。

 しかし獲物を奪われるにしても、被害は最小限にとどめたい。そこでドールたちは迅速な食事を心がけて、トラの分け前を少しでも減らそうとした。幸い、彼らは早食いを得意としている。

 彼らの歯はエサを食べるにも便利で、切れ味のよいナイフを差し込んだかのように、肉を骨からスッと切り取ってくれる。つまり食事を快適にすすめて、獲物を短時間で骨と皮に変えられるわけだ。

 また平等性を保つにも早食いは役立つ。特に繁殖期はお腹を空かせた子どもたちが群れの帰りを待っているため、食事を終えたドールたちは急いで巣穴へ戻らなければならない。子どもやその母親、さらには子守りをサポートする仲間にも獲物を分け与えるためだ。

 他のイヌ科動物と同様に、ドールもエサを吐き戻して与えることができる。ただしエサは胃の中で消化されてしまうので、食事を済ませてもあまり悠長にはしていられない。食休みをする暇もなく、巣穴へ急いで戻らなければならないわけだ。

 平等かつ迅速に。慌ただしく食事を済ませることで、彼らは群れの安定を図っている。

仲間には優しく、外敵にも優しく?

 人間が猫派と犬派で争っているように、ドールもネコ科動物とは分かり合えない。だが同じイヌ科動物に対してであれば、種を越えて協力し合うこともあるようだ。

 ドールはオオカミなどに比べると、なわばり意識が非常にゆるい。たとえば彼らはトイレを建設するのだが、それはなわばりの境界よりも内側に設置されることがほとんどだ。

 もしなわばりを厳格に保ちたいのであれば、トイレもなわばりの境界ギリギリに配したほうが良い。糞尿のにおいで自分たちの存在を匂わせて、なわばりの外で暮らしている動物たちに牽制をかけられる。

 しかし実際はなわばりの主張が弱いため、多くの動物たちが侵入してきてしまう。お隣さんのドールの群れと鉢合わせすることも珍しくなく、競り合いに発展することもある。

 たとえばある姉妹のドールが侵入してきて、そのなわばりの群れからオスを引き抜いてしまうケースがあった。そのオスは、父親となり働き手となり、新たな群れを導いていく重責に惹かれたのだろう。

 なわばりの群れも無抵抗だったわけではない。貴重な働き手を奪われないように、その姉妹を追い返そうとしていた。だがオオカミのように苛烈な追い立てをしなかったがために、結局はオスを引き抜かれてしまうのであった。なわばり意識の薄さゆえに起きた、ドールならではの不幸な事件だったと言えるだろう。


 とはいえ仲間意識がつねに事件へ発展するとは限らない。むしろ有効に働くことも多い。たとえば近隣の群れと友好関係を結ぶことも珍しくなく、群れと群れが合併することもある。30頭を超える大規模な群れをなして、近隣の動物を脅かすようになるわけだ。

 大規模なドールの群れは、時にオオカミとも互角に渡り合うのだという。ドールの群れはオオカミの群れとは敵対関係になりやすく、一般的には互いを退けている。だが力関係が拮抗する場合はその限りではない。共倒れになるのは不毛と考えるのか、2種が共にエサを食べている姿も目撃されている。

 あるいはオオカミ側が単独生活をしていた場合は、ドールの群れに受け入れられることすらある。相手がキンイロジャッカルの場合はさらに敷居が下がるのか、「2種混合の群れ」という極めて稀な生活形態が成り立つこともあるのだという。

 やはりイヌ同士で通じるものがあるのだろうか。ドールは仲間意識の強さゆえか、時には種をも超えて絆を深めてしまうらしい。

photo by:Mike Prince




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