ライオンを噛み返し、コブラの毒にも耐える小さな暴れん坊ラーテル

食肉目

t f B! P L

ラーテルの全身像。細長い体と鋭い爪が特徴的だ
photo by:Jean Ogden Just Chaos Photography
名称(学名)
ラーテル(Mellivora capensis)
分布
アフリカ大陸、南西アジア、インド亜大陸
生息域
森林、草原、サバンナ、湿地、山岳地帯、砂漠
体長
55~96㎝(頭~胴 )、14~23㎝(尾)
体高
25㎝
体重
5~16㎏

ハチミツを自力で掘り当てる掘削者

 アフリカにはユニークな動物がたくさん暮らしている。オオミツオシエという鳥もそのひとつだろう。「蜜を教える」からミツオシエ。野生動物でありながら人間をミツバチの巣へ誘導しようとする、極めて珍しい性質を秘めている。

 人間が近づいてくると、オオミツオシエは普段とは異なるけたたましい鳴き声を上げる。そうして人間の注意を引いて、ミツバチの巣がある場所を示すのだ。やがて人間がハチミツを採取し終えると、その際に散らばるハチミツや蜜蝋(蜂の巣の材料)をついばもうとする。ミツバチの在処を教えた報酬として、おこぼれを頂戴しようというのだ。

 オオミツオシエは人間と共生関係を築く、珍しい野生動物だと言える。その誘導精度は素晴らしく、たとえばオオミツオシエに従ったハッザ族は、ハチミツ採集の効率を560%も上げられたのだという。

 オオミツオシエを含むミツオシエ科に属する鳥は、他の動物に対してもミツバチの巣を教えると考えられてきた。たとえばラーテルもその誘導に従っている動物であるように言われてきた。ラーテルは英名を「honey badger」―――日本語で「蜜を食べるアナグマ」「ハチミツをせがむ者」とされるように、ハチミツを好物としている。それゆえにハチミツの在処を教えてくれるミツオシエに頼っていたとしてもおかしくはない。

キツツキ目ミツオシエ科オオミツオシエ
ミツオシエ科の中でもオオミツオシエだけが人間と協力関係を結んでいる。自力ではミツバチの巣を破壊できないため、人間を頼ろうというのだろう。
(photo by:TonyCastro)

 しかし実際のところ、彼らはミツオシエを当てにしていないようだ。ラーテルは他の誰かに頼るまでもなくミツバチの巣を攻略することができる。鋭い嗅覚で地下に埋もれたハチミツのにおいを嗅ぎつけると、鋭い爪で速やかにミツバチの巣を掘り起こしてしまう。

 また肛門腺から激臭を放って、ミツバチの巣を”燻製”することもある。これによりミツバチは混乱状態に陥ったり気絶したりするため、ラーテルも安全に巣を掘り進められるわけだ。単独でハチミツ狩りが完結しているため、わざわざミツオシエに頼る必要もない。

「ミツオシエはラーテルに蜜の在処を教える」という話はいまだに議論の的ではあるが、「ラーテルがミツバチを襲う」こと自体は、嘘偽りない真実である。彼らはとても諦めが悪い動物で、ミツバチにどれだけ刺されてもハチミツを得るまで決して諦めようとしない。

 また彼らはとても頑丈な動物でもある。たるんだ皮膚で針をゆるく受け止められるため、ミツバチの攻撃が皮膚まで貫通することはない。目元や耳を刺されると痛みを感じるようだが、これらは小さくなるように発達しており、標的にされづらくなっている。

 もしミツバチの針が皮膚まで達してしまっても、彼らはなんとか我慢しようとする。体を激しく震わせてミツバチを追い払いながら、巣の破壊を試みるだろう。なおミツバチは毒を注入してくることもあるが、ラーテルはその毒にすら耐性があるため、やはり大した抑制力にならない。そのまま巣穴を掘りあてると、ハチミツがたっぷり詰まったそれを味わっていく。

毒ヘビすら征する過激なハンター

 危険な相手に挑みたがるのは、ラーテルの性格によるものかもしれない。彼らは時折、他の動物が手を出さないような獲物も標的にしてしまう。たとえばサソリも彼らのメニューに含まれている。ミツバチ狩りと同じように、やはり頭を針で刺されても気に留めようとしない。サソリの周りをグルグル回って尻尾側にたどり着くと、大胆にも針へ噛み付いて千切ってしまう。

 ヘビも好物だ。たとえばコブラやブラックマンバなど、毒性の強いヘビにも容赦なく襲いかかる。特にブラックマンバはひと噛みで人間を10人殺せるほど毒性が高い、危険極まりない相手だ。噛まれた人間の致死率は100%とも言われている。

 これほど強い毒になると、さすがのラーテルも無毒化はできない。毒が全身に回ってしまえば昏睡状態に陥ることもある。だが、ラーテルはそれでもブラックマンバを怖れたりはしない。牙で反撃されようとお構いなしに、正面からブラックマンバの頭を噛みつぶしてしまう。これがネコ科動物であれば、ヒット&ウェイ戦法で安全にヘビを追い詰めていくだろう。無謀なのか勇敢なのか、ラーテルの狩り方はあまりにも大胆だ。

 彼らはヘビ毒に対しても耐性を有しており、たとえ毒が回ろうと問題なく解毒してしまう。昏睡状態に陥ったとしても、数時間もすれば何事もなかったかのように動けるわけだ。そうして起き上がったラーテルは、気絶寸前でしとめた毒蛇を朝食にしてご満悦の様子を見せる。これほど命知らずな動物もそうはいないだろう。

ブラックマンバは可愛い顔ながら猛毒をもつコブラの一種だ
ブラックマンバもコブラの一種だ。毒の強さ、毒の注入量、攻撃性の高さが相まって、非常に危険な毒ヘビとして知られる。
(photo by:Bill Love/Blue Chameleon Ventures)

噛まれたまま噛み返す、恐れ知らずな喧嘩屋

 ラーテルが立ち向かおうとするのは毒ヘビだけではない。自分よりはるかに大きな相手―――ライオンやブチハイエナだろうと撃退してしまう。たとえ相手が群れをなそうとも、決して怯えることなく抗い続けるだろう。

 ラーテルは大型動物から攻撃を受けると、少し後退しては振り返って噛みつこうとするヒット&ウェイ戦法を取ろうとする。そうして少しずつ前線から離れていき、姿を隠せそうな茂みや巣穴までたどり着くのだ。

 なお実際に噛みついて撃退してしまうこともある。サソリの外骨格やヘビの頭蓋骨を砕けるように、彼らの噛む力には侮れないものがある。ライオンの太い手足であろうと、ラーテルの歯は容易に切り裂いてしまう。

 あるいは逆に、大型動物から激しく噛みつかれてしまうこともある。だがラーテルが致命傷を負う心配はないだろう。首から背中にかけて皮膚がダルダルにたるんでおり、爪も牙も受け止めてしまうからだ。

 また、ラーテルの皮膚は柔軟性にも富んでいる。たとえ首根っこを押さえられたとしても、皮膚をたるませれば頭を180度回転させることができる。つまり、噛みつかれたまま噛みつき返す芸当も可能というわけだ。

 こちらからは致命傷を与えづらく、しかも過剰なまでに反撃してくるのだから、ラーテルほど獲物に向かない動物もない。体格も数も勝っているはずのライオンの群れであろうと、ラーテルが相手となると諦めてしまう。『攻撃は最大の防御』といったところだろうか。ラーテルは体格差をものともせず、その立ち振る舞いだけで相手を退けていく。

 ケンカ相手には事欠かないようで、ラーテルは他にも様々な動物たちと争っている。たとえば母親のラーテルは子どもを守るべく、シマウマやヌーに対しても果敢に立ち向かっていく。

 子どもは好奇心が旺盛で、しかも親譲りの命知らずな性格まで譲り受けているせいか、危険な相手にも近寄ってしまう。母親はそのたびに大急ぎで間に入り、子どもの首を掴んで立ち去るわけだが、その過程でヌーやシマウマに噛みつくこともある。踏まれれば致命傷は避けられない危険な行為だが、それでも彼女たちは恐れることなく我が子を守ろうとする。

 あるいは巣穴をめぐって他の動物と争うこともある。こちらはより直接的なケンカとなるため、怪我を負うこともしばしばだ。たとえばあるラーテルは、ヤマアラシの棘が全身に刺さったまま歩いている姿を目撃された。エサを探している間に侵入してきたヤマアラシを撃退しようとして、その棘に突っ込んでしまったのだろう。

 イボイノシシの突進を真っ向から受け止めるラーテルもいた。牙を頭に突き刺されたというのに、そのラーテルは痛みも恐怖も感じさせない軽やかな足取りで去っていった。

 彼らはおよそ”怖れ”という感情を知らない。どのような脅威にも決して屈しない強い心が讃えられて、2002年には「もっとも恐れ知らずな動物」というギネス記録にもなった。あらゆる生物にケンカをしかける彼らには、これ以上なく相応しい称号だ。

母親ラーテルは子どもを口に咥えたまま移動する
母親は新生児を咥えて巣穴を引っ越す。子どもが成長してからも、危険に遭遇するたびに首根っこを掴んで移動させる。
(photo by:Derek Keats)

道具を使うこともできる知恵者

 その恐れ知らずな行動から直情的な性格に思われがちだが、ラーテルは賢い動物としても知られている。たとえば、彼らは環境をうまく利用することができる。他の動物から食べ残しを奪うこともあり、とりわけヒョウから獲物を盗もうとする数少ない動物だ。

 不器用そうな姿に反して、彼らは木登りがうまい。長い爪をピック代わりにして幹へ張りついたり、指で枝をしっかり掴むことができるため、どのような形状の木も登ることができる。そうしてヒョウが寝床にしている高さを目指すわけだ。

 また、彼らはイタチ科の動物としては最大級の大きさではあるが、他の動物種と比較するとサイズが小さい。ライオンでは重すぎて折れてしまう枝にも侵入できるため、ヒョウの獲物へ簡単にアクセスできる。家主がいない間にその蓄えを奪い取ってしまうだろう。

「道具を用いる動物」としてもラーテルは有名だ。実際、飼育下では知恵を発揮して逃げだすこともある。たとえば、金属ケージでただ囲うだけでは彼らを留めることはできない。もともと穴掘りが上手なので、ケージの下まで穴を掘り進めて脱走してしまう。

 あるいは鍵も複雑なものを用意しなければならない。簡素なしくみの鍵であれば、彼らはその構造を理解することができる。事実、かんぬきを内側から操作して開けてしまうラーテルもいるのだという。

 遊ぶためのおもちゃも、彼らにかかれば脱獄道具に早変わりしてしまう。ラーテルは跳躍力があまりないため、低い塀で囲われるだけでも脱走は困難となる。だが梯子にできるものがあれば話は別だ。丸太やタイヤ、ホウキさえも壁に立てかけて、それを梯子代わりにして塀を乗り越えてしまう。

 自然界においても丸太を転がして足場にするなど、道具をうまく用いて鳥の巣にアクセスするのだという。ラーテルは状況をよく理解して、利用できる道具を探し当てることができる、賢い動物でもあるわけだ。

暴れん坊も仲間には優しい

ラーテルは恐ろしいほど活発な動物でもある。たとえばオスのラーテルは、その行動範囲が500平方キロメートルを超えることもある。同サイズの動物、たとえばサーバルが10~30平方キロメートルの範囲でしか活動しないことを考えると、規格外もいいところだ。

 大型動物を怖れない大胆さが行動域を広げたのだろうか。ラーテルは積極的に移動を繰り返し、1日20キロメートルほど移動する。そして道中では鋭い爪をスコップにして所構わず土を掘っていく。クモやネズミを見つけては食べ、腹を満たしながら旅を続けるのだ。

 その長大な移動距離ゆえに彼らはなわばり意識がゆるく、他のラーテルとも行動圏が被りがちだ。過激な性格をしている者同士、出遭ってしまえばケンカもさぞ盛り上がるのだろうと思いきや、彼らは意外にも、仲間に対しては優しい態度で接する。

 たとえば、つがい同士で一緒に狩りをすることもある。これだけならば他の動物でもよく見られる光景だが、ラーテルはさらに、近隣の仲間と集まってエサを食べることもあるらしい。ジンバブエでは6匹が集まってにおいを確かめ合っている姿も目撃されている。

 ラーテルは1度に最大2匹までしか出産しないため、6匹すべてが同世代の兄弟とは考えづらい。この事例からは、世代を超えた兄弟、あるいは同世代の非血縁者で仲良できる可能性が読み取れる。

 さらに強固な仲間意識を発揮することもある。たとえば、あるラーテルはライオンに囲まれたところを仲間に救出された。背中側は頑丈だが、ラーテルの腹部は柔らかい。もしライオンが連携を取って攻撃してくれば、ひっくり返されて致命傷を受ける恐れもある。まして背後を取られてしまえば、不意打ちは避けられない。

 しかし不意打ちを受けたのはライオンのほうだった。突然、別のラーテルがライオンに向かって突進してきたのだ。驚いたライオンは包囲網を緩めてしまい、その隙を縫って2匹は逃亡することに成功する。

 ラーテルは過激で暴れん坊なイメージが強いのだが、どうやら仲間を見捨てない義理堅い動物でもあるようだ。

片方のラーテルがもう片方へ穴の掘り方を教えている
片方のラーテルがもう片方へ穴掘りを教えている。ラーテルは主に単独行動を取るが、協力関係を築くことにも抵抗はないようだ。
(photo by:Benjamin Hollis)



参考動画



このブログを検索

お問い合わせフォーム

名前

メール *

メッセージ *

QooQ