尻尾で木を登り、威嚇のポーズで地上をやり過ごすミナミコアリクイの雑技生活

有毛目

t f B! P L

ミナミコアリクイの全身像。樹上性だが地上を歩くことも多い
photo by:Tomáš Malík
名称(学名)
ミナミコアリクイ(Tamandua tetradactyla)
分布
南米大陸
生息域
森林、草原、サバンナ
体長
34~88㎝(頭~胴 )、37~67㎝(尾)
体高
樹上性のため、地上の体高は記述なし
体重
1.5~8.4㎏

地上と樹上でそれぞれ進化したアリクイたち

 約1300万年前、アリクイの先祖は大きく2つの道へ分かれていった。ひとつはオオアリクイの系譜で、大きな体を活かして天敵を退けて、地上を闊歩していった。そしてもうひとつが後のミナミコアリクイにも通じる、コアリクイの系譜だ。こちらは尻尾を発達させて、樹上生活に特化していった。

 この2種は現代でもアリクイを2分する存在となっている。どちらも南米大陸に広く生息しており、所によっては生息域が重なることもある。

 もしミナミコアリクイがオオアリクイにであったとして、果たして競争に勝てるのだろうか。大きさの差はゆうに2倍以上はある。どちらもアリを食べる関係上、出会ってしまえばケンカになり、そしてオオアリクイに餌場を占領されてしまうのではないか。

 だが幸いなことに、2種は特に争うこともなく同所でも暮らせているようだ。「アリを食べる」という食性こそ被っているが、彼らは好みのアリを”食い分ける”ことで、お互いを邪魔することなく食事を楽しめているのだ。


 オオアリクイはとりわけ地上でオブジェのように目立っているアリ塚をよく訪れる。そこには無数のシロアリが巣食っており、数百数千もの塚を渡り歩いてはアリを食べて過ごしている。あるいは地上にこんもりと盛られた土を掘ることもある。その下には多くのアリが巣食っており、やはり1か所から大量のアリを摂取することができる。要するに、オオアリクイは地上でアクセスしやすいアリたちを主食としているわけだ。

 一方でミナミコアリクイは待ち構えるように木の上まで登り、そこに迫ってくるアリを食べて暮らしている。尻尾で枝を掴み、バランスを保ちながら樹の表面を這いずりまわるアリの群れを狙い撃ちするためだ。さすがのオオアリクイも、その巨体が邪魔となるため樹上までは進出してこれない。手つかずのまま樹上に餌場が残されるため、わざわざ地上に降りずともアリを堪能できる―――オオアリクイと争う必要もなくなる。

 地上と樹上で棲み分けすることで、2種はゆるやかな停戦協定を結んでいるわけだ。

力強さと繊細さを両立した尻尾で木に登る

 ミナミコアリクイのバランス能力には突出したものがある。地上を歩いたかと思えば後脚2本で立ち上がったままの姿勢で居続け、樹上では細い枝を足場にしてのんびりと綱渡りを楽しんでしまう。

 体幹が優れていることは言うまでもないが、それだけでは樹上生活を送るには心もとない。睡眠時に寝返りを打ってうっかり落下…といった事故は避けたい。そこで彼らは尻尾を命綱にすることを思いついた。

 尻尾は体長と同等以上の長さがある。しかも太く膨れ上がるほどに筋肉が詰まっているため、かなりの力で枝に巻き付けられる。また柔軟性にも富んでおり、細い枝であれば”らせん状”に巻き付けることもできる。

 安定した体勢でしっかりと力を込められるので、尻尾さえ枝に絡めておければ安心だ。うとうとして枝から落ちかけたとしても、尻尾でとっさに枝を掴んで事なきを得られる。

 なお全身が毛むくじゃらのミナミコアリクイだが、尻尾はどうも例外らしく、尻尾の下側と先端部には毛が生えていない。おそらく摩擦力を高めるためだろう。尻尾にも毛をびっしり生やしてしまうと、木に巻き付けても大した摩擦力は得られなくなる。椅子に掛けておいたタオルがするりと落ちてしまうように、彼らも木から滑り落ちてしまう。

 一方、皮膚を剥き出しにしておけば、毛で覆われた場合よりもはるかに大きな摩擦力が得られるようになる。ちょうど人間が鉄棒にぶら下がり両手でしっかりと掴み続けるように、彼らも枝に尻尾を巻きつけたまま固定することができるわけだ。そうしてバランスを取りながら、彼らは樹上を危なげもなく歩いていく。

両腕のサポートを受けてゆるゆる木を渡る

 ミナミコアリクイは握力も非常に強く、両腕でも枝をしっかりとつかんで体を支えられる。当たり前だが尻尾と腕を併用することもあり、その場合は仰向けの状態で水平な枝を掴んで渡ることすら可能になる。筋力を活かした力技ではあるが、彼らからすれば綱渡りでバランスを取るよりも面倒がない移動方法なのだろう。

 掴むことが難しいほど太い幹に対しては、命綱ではなく釘をもって対抗する。彼らは爪が非常に鋭くて長い。特に中指の爪は、指の2倍もの長さがあることも相まって、貫通力も発揮してくれる優れものだ。自慢の握力で幹へ爪を立てれば、ベニ板に釘を刺すような容易さで深々と刺さるだろう。

 彼らは道具の手入れにも熱心で、暇なときには太い幹を砥石代わりにして”爪とぎ”もしてしまう。そうした研ぎ痕が幹にもしっかりと残るため、彼らにその意識があるかは分からないが、体の良いマーキングにもなっている。

 なお動物園では頻繁に爪とぎをする結果、それが致命傷となって植物が枯れてしまうこともあるのだという。飼育する側としては頭を抱える問題ではあるのだろうが、ミナミコアリクイの爪がいかに鋭いのか、そして自慢の爪を頻繁に手入れする勤勉な性格であることがうかがえる、貴重なエピソードとなっている。

ミナミコアリクイはバランスを崩すことなく枝の上を歩きまわる。
枝葉が直射日光を退けてくれるため、暑さの厳しい地域でも樹上でやり過ごすことができる。
(photo by:ar_ar_i_el)

樹上派の仲間同士でも棲み分けている?

 ”南”と言うだけあって、このコアリクイは南米大陸に広く生息している。オオアリクイとの棲み分けが成立していることは冒頭で述べたとおりだ。それぞれが餌場を独占できるように暮らしている。

 棲み分けができているのはコアリクイとオオアリクイの大きな括りだけに留まらない。どうやらコアリクイと呼ばれる者同士―――ミナミコアリクイとキタコアリクイの間でも、うまく共存を図っているようだ。

 これまた名前の通り、キタコアリクイはミナミコアリクイの生息域よりさらに”北”へ広がっている。南米大陸の北端から中米大陸にかけて、密集した森を好んで生息している。

 両者は姿も行動も酷似しており、とりわけ姿がパッと見では見分けがつかないほどに似ている。しいて言うならばキタコアリクイは胸元に「V字」の黒模様を必ず備えているのだが、これは一部のミナミコアリクイにも見られる模様なので、厳密に区別することはできない。

 もっとも確実な判別方法は、レントゲン装置にかけることだろう。彼らの骨には差異が認められる。頭蓋骨の形状がわずかに異なり、それ以上に「尾骨の個数」が違っている。

 おそらく生息地ごとによく見られる木の形状に合わせて、それぞれが尻尾を特異に進化させていった結果なのだろう。そうして変化を重ねるうちに、自然と南米北端に境界線が引かれていき、コアリクイ2種の間でも停戦協定が結ばれたのかもしれない。

生息域を広げるコツはアリを選り好みしないこと

 ミナミコアリクイには4つの亜種が認められている。どうやら種を同じとしていても地域差が大きく出てしまうようなのだ。たとえば彼らは大きさや体色が地域ごとに激しく異なっている。

 飼い猫なみのサイズしかない者もいれば、中型犬ほどの大きさになる者もいる。毛色に関しても、濃い黄土色や灰色がかった黄色、真っ白に近い毛皮など多様な色味を帯びている。斑点でオシャレをするミナミオオアリクイも見られる、など模様にも多様性があるようだ。

 あるいは食べているアリの種類にも地域差が見られる。彼らはアリやシロアリという大きな括りさえ守れるならば、その種類までは選り好みしない。たとえばシロアリだけに絞っても約20種類ほどの食用が認められる。

 なお個体レベルでも好みが異なるらしく、ベネズエラで捕まえられた2頭のミナミコアリクイによると、片方が「アリ61%、シロアリ31%」を食べていたのに対して、もう片方は「アリ5%、シロアリ95%」というかなり偏った比率を見せていた。

 アリの形態にもこだわらないようだ。兵隊アリ、働きアリ、さなぎ、幼虫…いずれも消費されることがあり、時にはその食欲が羽蟻やミツバチに向けられることもある。

 しいて言えば化学物質を放って身を守っているアリだけは避ける傾向にあるが、豊富なアリやシロアリを利用することで、ミナミコアリクイはどのような土地でも食に困らず暮らしている。これが南米大陸の広範にわたり生息域を伸ばしてこれた秘訣なのだろう。

アリを食べるために進化完了

 短時間でアリを大量に食べるという性質を共有しているからだろう、コアリクイとオオアリクイは体の構造も良く似ている。(参考記事:オオアリクイ)。アリの食べ方にも差は認められず、両者とも長い舌を高速で出し入れしてはアリを口の中へ収めている。

 ミナミコアリクイの舌は全長40センチにもなり、地中深くに隠れているアリであろうと容赦なく舐めとってしまう。また、舌にはトゲ状の突起が無数に生えており、舐め寄せたアリが舌に引っかかりやすくなっている。粘着力に長けている唾液で舌を覆っていることもあり、アリがアリクイから逃げることはほとんど不可能だ。

 それにしても分岐してから1300万年も経つというのに、両者ともまったく同じ構造にたどり着いたという事実には驚かされてしまう。異なる種が同じ正解を出しているのだから、アリを食べることにかけてはアリクイ科の身体構造は最適解と言ってもよいのだろう。


 ただしアリ食に特化しているのは良いことばかりでもない。ミナミオオアリクイは1日7時間もかけてアリ探しをするのだが、それでも食事が足りているとは言い難い。代謝を抑えてエネルギー消費も最低限にすることで、なんとか活動を維持している。

 その関係上、彼らはあまり食物を消化するのが得意ではなくなった。エネルギーを取り出す―――食物を消化する働きも抑えられているので、硬いものはうまく消化できないのだ。特に幼少期はまだ胃が未発達なことも相まって、消化不良による下痢を起こすことがある。

 とはいえ完全にアリしか食べられないわけではない。時には甲虫や幼虫などアリ以外の昆虫も食べ、少量ながら果物を摂取することもある。もっとも、アリ食ほど優れている食事はあまり見つからない。アリはタンパク質が豊富で水分にも富んでいる、栄養食ともいえる優れた食品なのだ。

 昆虫食に限定するならば、これほど頼りになるエサもない。アリクイ科の動物たちもこの素晴らしいエサに惹かれたからこそ、特異な進化を果たしてきたのだろう。

威嚇のポーズで闘わずして敵に勝つ

 ミナミコアリクイには愛らしい必殺技がある。彼らは興奮したり驚いたりすると、すぐに立ち上って”万歳”をするのだ。

 一見するとハグを求めているような、可愛らしい態度にも見える。だが間違っても抱き返してはいけない。彼らにとって万歳は「威嚇のポーズ」であり、爪を相手に突き刺すための体勢でしかないのだから。

 彼らのポージングは堂々としたものだ。樹上生活を得意とするおかげか、体のバランスがまったく崩れない。後脚2本で立ち上がり、尻尾で支え、前脚を大きく横に広げる。この「大の字」のポーズは大きな爪がこれでもかと強調されるため、相手が反撃を怖れてミナミコアリクイに襲いかかることを躊躇してしまう。

 微動だにしないまま威嚇のポーズを取り続ける者も多いが、少しアレンジを加えてより積極的に爪を見せつけようとする者もいるようだ。たとえば扇風機が首を回すように、ゆっくりと腕をスイングさせることがある。左右の爪を交互に見せることで、さらに相手の恐怖を煽ろうというのだろう。

 時には威嚇の声を上げて、苛立ちも伝えることがある。あるいは肛門腺から不快なにおいを漂わせて、自分の存在感を際立たせる作戦も使う。

 いずれにせよ、反撃の機運を高めることで、相手の攻撃性を削ごうとする魂胆が見え隠れしている。ミナミコアリクイは些細なことでも威嚇ポーズを取る好戦的な動物にも見えるが、その実、相手が自ら諦めるように仕向けている知能犯なのだ。

木を背にして威嚇のポーズを取るミナミコアリクイ
このポーズは木や岩を背にすることも多い。前面に意識を集中させて、的確に反撃を加えるためだろう。
(photo by:Luiz Carlos Rocha)

遊びのポーズで無邪気に楽しむ子アリクイ

 ミナミコアリクイは幼少期においても頻繁に威嚇のポーズを取るが、その意味合いはむしろ友好的であることが多い。彼らは野生下では単独生活を取るが、コミュニケーション能力自体は高く、たとえば動物園でも積極的に仲間と遊びまわっている。

 特に子どもたちはお互いにじゃれ合うことに夢中で、相手が威嚇のポーズを取ろうとお構いなしにぶつかっていく。片方の腕を上げたまま、もう片方の腕を軽くぶつけてみたり、抱きつくように倒れ込んでみたり、プロレスごっこに明け暮れる。時には勢いのまま走りだし、追いかけっこを始めることもある。

 ただ残念ながら、彼らは地上での活動は苦手としている。長い爪が邪魔になるのだろう。日頃はてのひらにある肉球で、指を包み込むようにして歩いている。要するに握りこぶしで歩いているため、歩行体勢がやや不格好なのだ。

 走ると体勢はさらに崩れてしまい、両腕を振り上げるようにしてピョンピョン跳ねながら走ることになる。とても効率的な動きとは言えない。これも樹上生活に特化した弊害なのだろう。


 楽しげに遊びまわる姿はそのままに、ミナミコアリクイの子どもは甘えん坊な一面も見せてくれる。彼らは生まれたときから母親の背中にしがみつき、滅多なことでは離れようとしないのだ。

 子どもにとって抱きつくことは、この上なく安心を得られる行為なのだろう。もし母親から引き離されたとしても、代わりにアリクイの”ぬいぐるみ”にしがみつかせるだけで、子どもは落ち着きを取り戻す。

 そうして子どもを自身の体にまとわせたまま、母親は最長で1年間もそのままの生活を続けるのだという。

 悲しいことに、アリクイ科の爪は子育てに役立てるには鋭すぎる。誤って子どもに爪を当ててしまえば、その皮膚は容易に裂けてしまう。だからこそアリクイの母親は”おんぶ”という手段で、安全なコミュニケーションを図っているのかもしれない。

 うっかり傷つけないように、されど子どもの重みを感じながら暮らすことで、親子の情も深まるに違いない。

ミナミコアリクイの子どもは、小さいながらも体型・毛皮が大人と大差なく成長している。
新生児の体重は400グラムにも満たない。母親の背をゆりかごにして、急速に成長していく。
(photo by:Quartl)



参考動画

このブログを検索

お問い合わせフォーム

名前

メール *

メッセージ *

QooQ