1秒間に5回の高速咀嚼!肉を捨ててシロアリを主食に選んだオオミミギツネの生存戦略

2024/09/13

地面に耳を当てて音を聴くオオミミギツネ
(photo by: Derek Keats)
名称(学名)
オオミミギツネ(Otocyon megalotis)
分類
食肉目 イヌ科 オオミミギツネ属
分布
アフリカ(南部、東部)
生息地
サバンナ、草原、砂漠
体長
46~66㎝(頭~胴)、23~34㎝(尾)
体高
30~40㎝
体重
3~5㎏

草食動物の足元で昆虫を狙う共生術、シマウマが整える理想な草原をエサ探しに役立てる

 仲間と連携して狩りをこなし、戦利品を得た喜びのままに肉をむさぼり喰う。イヌ科動物にはそのようなイメージが付きまとう。だがすべてのイヌ科動物がそのように暮らしているわけではない。

 特にオオミミギツネの暮らしは一般的なイヌ科のイメージとはかけ離れている。シマウマやヌーに近づくことはあるが、その目的は草食動物を狩ることにはない。お目当てはその足元―――草食動物が歩くたびに飛び跳ねる、小さな昆虫にある。驚いて飛び出したところを捕まえて、そのままエサにしてしまうのだ。

 あるいは草食動物の糞も食料源となる。糞に集まってきたフンコロガシやフンコロガシが産み付けた幼虫も、オオミミギツネにとっては貴重なタンパク源なのだ。オオミミギツネの聴覚は大したもので、糞の中で幼虫がうごめく音も聴き取ってしまう。そうして音を拾えたならば、あとは幼虫が糞から出てくる瞬間をジッと待てばよい。大した苦労もなくエサが得られる。

 草原を管理してくれるという意味でも、草食動物はありがたい存在だ。オオミミギツネは開けた草原を好む傾向にある。草木など遮るものが何もなければ、獲物の昆虫に身を隠される心配がないからだ。また、開けた地形では音の通りが良くなるので、昆虫が立てるかすかな音も捉えやすくなる。自慢の大きな耳を活かしやすくなるのだから、草原に身を置くのは賢い選択といえるだろう。

 シマウマやヌーは草を食み、食べ損ねた草本も踏みつけて折ってくれる。さらに、重たい体重で地面を踏み固めてくれるので、植物が芽を出しづらい土壌も形成してくれる。草食動物からすればエサをただ食べているだけなのだが、結果的に植物の成長を抑え、オオミミギツネが暮らしやすい草原を整えてくれるわけだ。

 間接的とはいえ、草食動物の存在はオオミミギツネを大いに助けている。エサ探しを手伝ってくれるだけでなく、後々のエサ探しが容易になる環境も用意してくれる。そこにいるだけで恩恵をもたらしてくれる、頼もしい仲間なのだ。

シマウマを追いかけるオオミミギツネ
オオミミギツネは草食動物をよく追いかける。獲物にするためではなく、エサ探しを手伝ってもらうためだ。(photo by: Regina Hart)

 草原を管理しているのは草食動物だけではない。朽木や枯草を刈り取ってくれるシロアリも立派な管理者であり、しかも”ごちそう”でもある。オオミミギツネが草原を訪れる理由のほとんどは食事をシロアリで賄うためなのだ。

 ただしシロアリであれば何でもよいわけではない。たとえばトリネルビテルメス属のシロアリは食べられない。これらシロアリは毒で身を守っているため、口にすれば消化不良を起こしてしまう。アードウルフのように毒すら飲み込んでしまう猛者もいるが、少なくともオオミミギツネには真似できない芸当だ。

 とはいえ他のシロアリであれば問題なく食べられる。オオミミギツネの場合、ホドテルメス属のシロアリが特にお気に入りのようだ。ホドテルメス属には群れる習性があるので、1匹でも見つかれば、近くの仲間もまとめてエサにすることができる。しかもシロアリは水分を豊富に含んでおり、空腹だけでなく喉の渇きも癒してくれる。わざわざ水飲み場を訪れる必要がなくなり、エサ探しの効率も上がる。

陸上哺乳類で最多!50本の歯と高速咀嚼でシロアリを効率よく消化する

 彼らの生活はシロアリと共にある。その証拠にシロアリが数多く暮らす地域では、オオミミギツネもよく集まってくる。またオオミミギツネは年間を通して活動時間を変化させるのだが、そのサイクルもシロアリの活動周期と同期しているのだという。夏場は夜に活動する彼らも、冬になると昼間に活動するようになる。これはシロアリが寒さを嫌って地上に出てこなくなる習性と一致する。

 オオミミギツネがエサをシロアリに頼っているのは間違いないが、完全に依存しているわけでもなさそうだ。たとえば東アフリカではフンコロガシもよく食べる。この2種類が入手できない場合は、土を掘り起こして昆虫の幼虫も食べ始める。他にもガ、アリ、バッタ、ヤスデ、クモ、サソリ…口に収まるサイズであれば、どのような節足動物もエサにしてしまう。

 南アフリカでは小型哺乳類を食べる習性もあるのだという。さらに鳥類や卵、トカゲにも興味を示す。競合相手がいないのであればキノコや果物に手を伸ばすこともあるそうだ。他のイヌ科動物がそうであるように、オオミミギツネも雑食動物として暮らすことができるのだろう。

 とはいえオオミミギツネの本命はあくまでも昆虫食だ。そもそも歯の構造からして、他のイヌ科とは一線を画している。一般的なイヌ科動物は歯が鋭く発達している。特に犬歯の成長は著しく、ナイフのような切れ味が期待できる。肉を切り裂いて骨からそぎ落とし、効率よく胃に収めることができる。

 それに比べるとオオミミギツネの歯は物足りなく感じる。全体的に小ぶりな歯が並ぶばかりで、およそ肉を裂くのには向いていない。その代わりに臼歯がよく発達している。象牙質が非常に硬くなり、歯の凸凹も数を増している。また歯の本数もかなり多い。他のイヌ科動物は42~46本の歯を生やすのだが、オオミミギツネは最多で50本も歯を揃えるのだという。これはオポッサムと並び、陸上哺乳類における最多本数となる。

アードウルフの歯はイヌ科にしてはかなり小さい
イヌ科にしては歯が小さい。肉を食べる機会が少ないために退化したのだろう。 (photo by: Derek Keats)

 オオミミギツネは発達させた臼歯を最大限に活かすべく、顎の構造にも工夫を凝らしている。たとえば下顎骨が階段状に隆起している。骨の表面積を広げて、より多くの筋肉を付着させようという作戦だ。実際、オオミミギツネの二腹筋はよく発達していて、1秒間に5回も顎を開閉できる。人間は寒くなると歯をガタガタ震わせるわけだが、オオミミギツネは日頃からその速度で咀嚼しているわけだ。

 昆虫1匹から得られる栄養などたかが知れている。生きていくためには数を食べなければならず、1回の咀嚼に時間をかけている余裕もない。だからこそオオミミギツネは効率を求めた。目にもとまらぬ咀嚼でシロアリの外殻をすみやかに噛み砕くのだ。

 そうやって食事の回転率を上げることで、オオミミギツネはエサ探しに費やせる時間を増やしている。イヌ科らしい豪快な食べ方はできなくなったが、彼らがそれを気にする様子はない。今日もせっせと耳を地面に当て、シロアリ探しに明け暮れている。

体長の2割に匹敵する大きな耳、180度の可動域を活かして聴覚や放熱へ役立てる

 オオミミギツネの聴覚を体感したければ、手を軽く曲げて耳の後ろに添えてみてほしい。音が拡散しづらくなって、いつもより大きく聞こえるはずだ。この状態を常に維持しているのが、オオミミギツネの”大きな耳”だといえる。

 体全体に対する耳の割合が規格外に大きく、その比率は体長の20%にもなる。人間でたとえると、頭に35~36センチの耳が付いているようなものだ。これは人間の耳の平均的な長さ(6~7cm)の約5倍に匹敵する。オオミミギツネの耳がいかに巨大なのかが窺える。

 またオオミミギツネは耳を上下左右あらゆる角度に動かせるので、音がする方向へピンポイントに耳を傾けることができる。あるいは両方の耳で強弱を聞き分けて、音を立体的に捉えることも可能だ。たとえば右耳では大きく、左耳では小さく聞こえる場合、音源は右側にあると判断できる。微調整を重ねれば、さらに詳細な位置まで把握できるだろう。

オオミミギツネ(bat-eared fox)の由来になったミゾコウモリ
オオミミ(Bat-eared)とあるように、名前の由来はミゾコウモリにある。このコウモリも大きな耳が特徴的でアフリカに暮らしている。 (photo by: Bernard DUPONT)

 オオミミギツネの優れた聴覚が活かされるのは、やはりエサ探しの時だろう。昆虫が揺らした葉擦れの音を聴くだけで、即座にその位置を特定できる。あるいは耳をピンと伸ばして地面スレスレまで近づければ、地中に隠れているシロアリを探り当てられる。あとは掘って捕まえるばかりだ。

 耳は体温調節にも役立つ。耳には骨や脂肪といった熱伝導を妨げる組織がないので、血管からダイレクトに熱が逃げていく。皮膚が薄く、血管も網目状にびっしりと張り巡らされているため、その放熱効率は他の部位とは桁違いだ。ましてオオミミギツネほど大きな耳となればなおさらだ。彼らが砂漠で平気な顔をしていられるのも、耳の体温調節が上手くいっている証拠だろう。

 興味深いことに、耳はコミュニケーションにも利用される。耳を伏せて相手に近づけば、それは相手への服従を意味する。敵対心がないことを相手に伝えて、無駄な争いを避けているのだ。耳をまっすぐ相手に向けている場合はどうだろうか。これは緊張状態にあることを表している。エサ探しの時と同じだ。相手の動向に集中したいからこそ、耳もそちらへ向ける。

 耳を畳んで首に付着させることもある。危機的状況において見せる動作で、吠えたり突進したりといった行動が伴う。これはコミュニケーションというよりも、耳を攻撃させまいという防衛意識が表れているのだろう。警戒心が耳を動かすわけだ。

 このようにオオミミギツネの耳は感情が大きく反映される。友好的なのか敵対的なのか。はたまた興奮しているのか緊張しているのか。耳を見れば感情が伝わってくる。あえて格言を借りるのであれば、『耳は口ほどにものを言う』わけだ。

争いよりも食事を優先する平和主義者、あるいは知略でチーターを退ける勇猛果敢

「イヌ科動物はなわばり意識が強い」というのは常識だが、ことオオミミギツネに関してはその常識が通用しない。

 彼らが耳を畳むような危機的状況に陥ることはあまりない。なわばり意識が希薄なので、そもそも争いに発展することが稀なのだ。たとえ他のオオミミギツネと出くわしたとしても、過剰な反応はしない。誰もが地面に耳を向けて、思い思いに昆虫を探している。

 特にシロアリが密集している地域では、隣人と行動範囲が被ることも珍しくない。最大15匹のオオミミギツネが一か所に集まったこともある。だがそれほどの混雑に晒されたとしても、彼らは苛立ちを周りにぶつけたりはない。そんな暇があればシロアリを探したいというのが本音なのだろう。

 ただし相手が襲ってくるとなれば話は別だ。その小柄からは想像できないほどの勇猛さを見せてくれる。たとえば天敵に出くわして逃げられないことを悟ると、オオミミギツネは速やかに反撃へ転じる。威嚇の声を上げながら小さな突進を繰り返し、相手が攻撃するリズムを崩しにかかるのだ。そこに経験が加われば完璧だ。絶望的な状況も、知恵さえあれば乗り越えられる。

 とあるオオミミギツネは2頭のチーターに囲まれてしまった。相手は自分よりはるかに大きく、しかも数に劣るという最悪な状況だ。しかし、そのキツネは諦めなかった。まずは1頭目に噛みつく素振りを見せて、相手が怯んだところで囲いから抜け出した。そしてすかさず2頭目に対して牽制の眼差しを向ける。反撃の意を示して、なんとか膠着状態まで持ち込んだのだ。そこからは我慢比べだ。牽制に牽制を重ね、最後にはチーターを根負けさせた。

 そのオオミミキツネが偉かったのは、チーターの特性をよく理解していたことだ。チーターを走らせてはいけない。全力疾走の勢いそのままに突進するのがチーターの得意技だ。これを許してしまえば、キツネの小さな体は吹き飛ばされ、体勢が崩れたまま喉に食らいつかれてしまう。

 相手に勢いを与えれば命はない。だからこそキツネはその場に留まろうとした。さらに反撃の姿勢も崩さなかった。チーターも噛まれたくはない。目や鼻に怪我を負ってしまえば、次の獲物を見つけることが難しくなってしまう。万が一にもリスクを負うわけにはいかず、慎重に狩りを進めようとする。

 オオミミギツネはそれをよく理解していた。相手が怖気づいたことを敏感に察して、自分は強気であり続けたのだ。その温度差がチーターの思考を狂わせた。”万が一”を起こされるのではないかという恐怖を植え付けて、諦めざるを得なくさせたのだ。このように頭脳プレイが上手くはまりさえすれば、絶望的な状況からも生還することができる。

数メートル単位のトンネルに隠れて安全対策、世代超えて引き継がれる巣穴

 勇気で敵を退けるストーリーは感動的だが、できれば遠慮したいのが本音だろう。万が一が起こる可能性は、明らかにオオミミギツネの方が高いのだから。

 実のところ、オオミミギツネは天敵を隠れてやり過ごすことが多い。普段は足を踏み入れないような背丈のある草や灌木(3メートル未満の木)の茂みに飛び込むのだ。

 チーターはもちろん、ジャガー、セグロジャッカル、ワシ…危険な相手を挙げればキリがない。こうした手合いから身を守るためにも、彼らは日頃から巣穴で息を潜めている。地下深くまで巣穴を掘っておけば、ついでに高温や熱波もやり過ごせる。快適な生活のためにも巣穴は妥協できない。

 巣穴づくりには他の動物の手を借りることも多い。トビウサギやツチブタが掘り返した穴、イボイノシシの古巣、アリ塚の跡地。これらを暮らしやすくなるように改築していく。もちろん1から掘ることもある。日常的にシロアリを掘り集めてるだけあり、彼らの掘削力には目を見張るものがある。時間さえかければ、どんな巣穴も建築できるだろう。

 時には入口や部屋がいくつもあり、数メートルにわたりトンネルが続いていく複雑な巣穴も掘る。オオミミギツネはこうした巣穴をいくつか用意しておき、いつでも逃げ込めるようにしている。前もって準備をしておけば、不意な危険に襲われても安心というわけだ。年間を通して巣穴の維持に努め、さらには世代を超えて巣穴が引き継がれることもある。

巣穴から顔を出すオオミミギツネ
巣穴から顔を出すオオミミギツネ。警戒心をぶつけるように複雑な巣穴を掘る  (photo by: Bernard DUPONT)

パートナーと協力してシロアリを搔き集める、生涯を共にするつがいの結びかた

 挨拶を交わす程度の関係性ではあるが、オオミミギツネは日頃から「お隣さん」と交流している。毎日なわばりを徘徊して侵入者を追いかけ回すイヌ科動物と比べれば、かなり温情にあふれた対応だ。そうして日頃から敵対心を持たないおかげか、オオミミギツネの繁殖はスムーズに進むことが多い。お隣さんをパートナーに見初めると、すみやかに絆を深めていく。

 単独生活を送っているイヌ科動物は通常、繁殖期になると食事効率を落としてしまう。パートナー探しに時間を取られ、エサを探す時間が減るためだ。つがいを得るためになわばりの外へ出かけるというのは、かなり負担を強いられる。

 たとえば土地勘のない場所で、異性が立ち寄りそうな場所にマーキングを施していくのだが、異性と出会えず空振りに終わることもある。それどころか同性と遭遇してしまい、激しいケンカに発展することもある。食事を満足に取れないばかりか、パートナー探しは空振りに終わり、激しいケンカで重傷を負ってしまうわけだ。独身のイヌ科動物にとって、繁殖期ほど過酷な時期もない。

 それに比べてオオミミギツネの繁殖期は実に穏やかだ。元より異性と行動圏が被っているため、エサ探しのついでにパートナーも見つけられる。わざわざ婚活パーティーに出かけずとも、相手から勝手に現れてくれるわけだ。

 やがてオオミミギツネはつがいを成して、行動を共にするようになる。一緒にエサを食べ、一緒に毛づくろいし、一緒に戯れるのだ。こうした異性との触れ合いは、一見すると食事効率を犠牲にしているように思える。だが実際は逆で、協力してエサを探すおかげで食事効率はむしろ上がるのだという。

 これにはシロアリの習性も影響している。シロアリは危険を察すると土に潜って敵をやり過ごそうとするのだが、オオミミギツネのつがいに対しては逆効果となる。シロアリを潜らせてからパートナーを呼び寄せれば、パートナーはただ土を掘るだけでエサを得られる。哀れなシロアリは、2頭に増えたオオミミギツネから集中砲火を受けてしまう。

 エサを分け合いながら探索範囲も分担することで、つがいはシロアリを効率的に探し続ける。そうして余った時間を交流に充てれば、つがいの絆も高まっていく。

2匹のオオミミギツネは寄り添って眠る
オオミミギツネの絆は固く、つがいは生涯を共に過ごす。 (photo by: aecole2010)

吐き戻してエサを与えられない昆虫食の苦悩、父親が主導する献身的な愛情と英才教育で乗り切れ

 乾季も終わりを告げる10月頃、オオミミギツネの母親はついに出産を迎える。平均2~5匹の子どもを産み、甲斐甲斐しく世話をする日々が始まるのだ。この時ばかりはイヌ科の習性に従い、オオミミギツネもつがいで子育てに励む。絶えず周囲を警戒しながら、子どもたちの動向にも気を配り続けるという、心休まる暇のない生活を送っていく。

 子育てを主導するのは父親の役割だ。母親が担うべき役割はわずかに授乳と清掃だけ。多くの時間をエサ探しに費やして巣穴に引き籠るため、子育てのストレスも最小限で済ませられる。

 一方で、父親は子どもたちに惜しげもなく愛情を注いでいく。毛が乱れたならばグルーミングで整えてやり、好奇心が爆発した子どもたちの遊び相手にもなってやる。もちろん外敵に対する警戒も怠らない。子どもたちを目で追いながらも、大きな耳で周囲の音を確認し続ける。

 父親が献身的なのは、オオミミギツネがシロアリに依存していることと関係があるのだろう。たとえばオオミミギツネはイヌ科動物に特有の「吐き戻してエサを与える」という給餌方法を取らない。肉食であればブロック肉を吐き戻せるのだろうが、あいにく彼らは昆虫食だ。小さな昆虫は持ち帰るまでに消化されてしまうため、吐き与えたところで子どもが得られるものは何もない。

 となれば食事は母乳を頼ることになる。母親に大きな責任がのしかかるわけだ。父親もそれを理解しているからこそ、他の育児をすべて引き受けてくれる。むしろ子どもが離乳を迎えた後でも、父親は我が子から距離を取ろうとはしない。むしろこれからが本番と言わんばかりに、今度は教師としての役割を努めはじめる。

 生後3ヶ月頃になると、アフリカの大地にも雨音が聞こえるようになる。水気を帯びた植物は急激に伸びていき、それを食べて昆虫も爆発的に増えていく。オオミミギツネもエサに困らなくなる理想的な季節、雨季の到来だ。

 この時期は子どもたちが固形食に興味を示すようになる。父親の後を追いかけては、狩りの真似事をするのだ。何を食べられるのか。どう食べればよいのか。父親は子どもたちの知識レベルを計りながら、自らの知識を惜しげもなく与えていく。

 ある父親はエサ探しの最中、子どもたちに道端の糞を与えた。糞の中でうごめいている幼虫が食べられることを教えたかったのだろう。またある父親は小さくて弱々しい子どもを連れて夜の散歩に出かけた。向かう先はたくさんのシロアリが徘徊するエサ場だ。子どもは大喜びでシロアリを食べ、足りない栄養を補った。

 オオミミギツネは声を発することがほとんどない。だが愛情を伝える術はなにも声だけとは限らない。オオミミギツネの父親は自らの行動をもって、子どもたちに愛情を示していた。「どうか健やかに育ってほしい」。静かな背に見守られながら、子どもたちは穏やかな日々を送るのだろう。

こちらを警戒するように見つめるオオミミギツネの家族
オオミミギツネの娘は独立せずに両親と暮らし続けることもある。母娘ともに子を産み、やがて大家族となる。 (photo by: Avi Alpert)


参考動画