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| (photo by:Frans van Heerden) |
- 名称(学名)
- カラカル(Caracal caracal)
- 分類
- 食肉目 ネコ科 カラカル属
- 分布
- アフリカ大陸(南部に集中)、アラビア半島、中東、中央アジア
- 生息地
- 森林、サバンナ、農地、丘陵地、山岳地帯、砂漠
- 体長
- 61~106㎝(頭~胴)、18~34㎝(尾)
- 体高
- 40~50㎝
- 体重
- 5.8~22㎏
耳飾りとアイシャドウをまとう砂漠の化粧、オオヤマネコと疑われるも独自の進化を重ねてきた
オシャレ好きが多いネコ科動物の中では珍しく、カラカルはやけに質素な毛皮に身を包んでいる。アフリカーンス語で「rooikat(「紅い猫」の意)」と呼ばれるように、カラカルの毛皮は模様が一切ない錆色を呈しているのだ。
だが、カラカルもオシャレに興味がないわけではないらしい。顔にはしっかりと化粧が施され、涙腺から黒い涙がこぼれ落ちているようなアイシャドウが、カラカルの目鼻立ちをくっきりと目立たせている。
ただしこれは「美意識」によるものではなく、目元を太陽から守るという「機能美」の副産物であるらしい。カラカルは獲物を待ち伏せる狩りを好むため、逆光の中で長時間、身を潜めることも多い。その際に目を傷めないように、もしくはまぶしさで獲物を見落としてしまわないように、アイシャドウを引いて対策している。黒色は光を吸ってくれるため、目に入ってくる光量を減らして、まぶしさを感じづらくしてくれるのだ。
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| カラカルの顔は部分的に黒く染まり、顔の輪郭をくっきりさせている。黒くて大きな耳も印象的だ。(photo by:Eddy Van 3000) |
特徴的な「飾り毛」が目を引くように、カラカルは耳もオシャレだ。耳の先端からカールする長い毛は、長さ50ミリにもなる漆黒のエクステだ。詳しい用途はわかっていないが、他のカラカルに対してコミュニケーションを試みる際に役立つと考えられている。耳を振ると飾り毛が軽快に動き、相手の目を釘付けにすることから得た着想だろう。
意外なことに、カラカルのように明確な飾り毛を備えているネコ科動物は珍しい。たとえば、南アフリカにはカラカルの他に6種のネコ科動物が暮らしているが、耳に飾り毛を付けている種は存在しない。反面、毛皮はどれもオシャレに飾られており、ヒョウやチーターに代表される斑点模様が華やかな印象を与えている。カラカルの生息地において、耳にオシャレを演出するのは独創的な手法なのだ。
もっとも、アフリカからはるか遠い地―――アメリカ大陸にまで足を延ばせば、カラカルのように耳を飾り立てているネコが見つかる。カナダオオヤマネコやボブキャットもまた、耳の先から黒くて長い毛を生やしている中型のネコ科動物だ。
その共通点から、カラカルはオオヤマネコに連なるネコ科動物ではないかと疑われていた時代もあった。尻尾が比較的短いという共通点も相まって、彼らは実際に「ヤマネコ」と俗称されることも多い。「 African lynx」「desert lynx」「red lynx」など、カラカルの特徴を組み合わせた呼び名が聞こえてくる(lynxはオオヤマネコの意)。
だがこの仮説は遺伝子研究によって否定されている。オオヤマネコが登場する100万年前には、すでにカラカルの祖先が誕生していたというのだ。つまり、この2種は異なる道を歩んできたことを、遺伝子に刻んでいたわけだ。
遠い雪国に飾り毛を持つネコが暮らしているのは確かだか、灼熱の世界に生きるカラカルがそれらと出会うことはない。また、古い時代には飾り毛を持った仲間もいたのかもれないが、少なくとも現代においては、カラカルの周りでセンスを分かち合ってくれるネコ科動物はいない。
それでも彼らは独創性を失うことなく、孤独なオシャレを貫いてきた。今もオシャレな耳飾りを揺らしているのは、他のネコ科に屈さなかったという歴史の証明なのかもしれない。
151種を喰らう超肉食性のハンター、自分より重いレイヨウさえ定期的に消費する実力者
アフリカ南端からインド中央部まで、カラカルは肉食動物の中でも生息域が広い動物として知られる。たとえばサーバルは体の大きさこそカラカルと同程度だが、生息域はアフリカ大陸の内側にとどまっている。サイズだけで考えると、カラカルは異例なまでに活動的といえるわけだ。
生息域の広さは狩猟能力の高さゆえかもしれない。1842年から2021年までの食生活を分析したデータによると、カラカルは151種類もの動物をエサとして利用していた。なお、同様の分析データからは、ジャングルキャットが61種類の動物をエサにしていたという結論も得られている。カラカルより一回り小さなネコ科動物と比較しているとはいえ、利用できる獲物の種類には大きな差が見られたわけだ。
カラカルは、ネズミやウサギなど小型哺乳類はもちろん、時には自分の2倍以上も重たいレイヨウを仕留めていた。しかも偶然によるものではなく、実力によって入手していたことも証明されている。カラカルはそうした中型動物を「定期的に」消費していたからだ。また哺乳類と同程度に鳥類も食べていた。つまり空を飛びまわる獲物に対処できることもデータは示した。
また頻度は劣るものの、カラカルは爬虫類や他の肉食動物も食べていた。つまり、場所や状況に応じて柔軟にエサを変えることができ、時には危険を顧みずに争いも仕掛けていたわけだ。手間やリスクも許容すればこそ、カラカルは広域にわたり生息域を延ばせたに違いない。
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| カラカルは狩りだけでなく、エサを食べるのも上手だ。皮や羽毛をきれいに剥ぐと、内臓を吐き出しながら肉だけを食べる。(photo by:Bernard DUPONT) |
データからわかることはもう一つある。それは彼らが「超肉食性」の動物であるということだ。超肉食性とは、食事の70%以上を肉に頼っている動物をいう。カラカルもまた植物質を口にすることは稀であり、獲物の90%以上を食肉に頼っている。地域ごとに獲物の種類は変わるものの、エサの大部分を食肉が占めているという事実は変わらないわけだ。これもカラカルの狩猟能力が優れている証明になる。
超肉食性を維持しているのであれば、カラカルがひどく乾燥した地域で暮らせる理由にも説明がつく。動物の肉は70%以上が水分で構成されているため、空腹と同時に渇きも癒してくれる。またタンパク質や脂質を分解する過程で代謝水も得られるため、水を飲む必要性はますます薄れていく。さらにいえばカラカルは節水も得意としている。尿を濃縮してから排泄するので、水分の損失も最小限に抑えられる。
獲物を確実に仕留められる実力に加えて、飲み水に依存しない耐久力も備えているのだから、カラカルが厳しい乾燥地帯に侵入していたとしても驚きはない。実際、彼らは乾燥した草原やサバンナを好み、砂漠へ足を踏み入れることもある。どれほど過酷な自然環境であっても、カラカルを阻むことはできないのだ。そうして彼らは着実に生息域を延ばしてきた。
ヒトの3倍強力な筋繊維が支える瞬発力、20以上の筋肉で音を捉えるネズミ狩りの極意
カラカルの狩猟スキルを支えているのは、卓越した瞬発力だ。肩が盛り上がるほど筋肉質で、四肢も相応に太くて長い。全身の筋肉をバネにして獲物へ飛びかかれば、獲物が反応する暇もないような超スピードで距離を詰められる。
これは彼らがもつ特殊な筋繊維による働きで、ヒトの筋繊維に比べて3倍も強力なのだという。たとえばチーターが時速110キロの速さで走れるのも、この筋繊維のおかげだ。チーターは短距離走に利用しているが、カラカルはさらに短い距離を詰めるとき―――突進する際に利用している。
また筋肉は繊細な動きにも欠かせない。たとえばカラカルの耳には、20以上の筋肉が備わっている。力加減や力の向きを細かく調節することで、耳の可動域を広げているのだ。そうしてカラカルは耳を自在に操り、音の発生源を正確に捉えている。
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| 同サイズのネコ科動物と比べても、カラカルの身体能力は頭一つ抜けている。瞬発力を生み出しやすい筋繊維、「タイプIIx筋線維」を多く備えるためだ。(photo by:Gopal Vijayaraghavan) |
『獅子搏兎(ししはくと)』ということわざがあるように、ネコ科動物は自分よりはるかに小さな相手に対しても、決して手を抜いたりはしない。カラカルの場合、その対象はネズミであるようだ。入念な計画を立てると、能力の限りを尽くして事に当たろうとする。
まずは隠れるところから。ネズミの気配を感じると草むらで息を潜め、気づかれないように位置を確かめていく。次いで距離を詰めたいところだが、この過程は特に慎重に進めなければならない。草むらに身を隠せるのはネズミも同様だ。もし初撃を仕損じてしまえば、深い茂みへ逃げ込まれ、二度と見つからなくなってしまう。
できれば一撃で仕留めたい。ならば確実に攻撃が届く距離まで近づき、逃げる隙を与えなければよい。そこでカラカルは狩猟スキルのひとつ、忍耐力を働かせる。ネズミに意識を向けると、その場でピクリとも動かなくなるのだ。いつでも飛びだせる姿勢を維持したまま、10分、20分と過ごすことも珍しくない。そうやってネズミを観察し、相手が警戒していないかを探っていく。
ネズミがこちらに気づいていないことを確信すると、カラカルはようやく足を進め始める。片足をそっと上げると、地面をチョンチョンと触りながら、草や砂利が音を立てないように体重をかける。気が遠くなるような時間をかけて一歩、また一歩と進め、ネズミを射程圏内に収める。
5メートル以内に近づければ、勝利は目前だ。いよいよ自慢の瞬発力が火を噴く。全身の筋肉をバネのように縮めると、その反動を開放して推進力に変えてしまう。ネズミとの距離は一瞬で詰まり、勢いを交えた噛みつきが迫ってくる。大きな土ぼこりが晴れた後には、獲物をくわえたカラカルの姿だけが残される。ネズミは攻撃に反応するどころか、自分が狙われていたことにも気づかず、エサとなってしまう。
3メートル超えの大跳躍!飛んでいる鳥を叩き落とし、上空から無傷で着地する衝撃吸収のスキル
カラカルは鳥もよくエサにする。瞬発力を空へ向けてやれば、3メートル以上の垂直ジャンプが可能だ。瞬間的に鳥よりも高く跳べるので、バレー選手が痛烈なスパイクを決めるように、上から鳥を叩き落すことができる。
また芸も達者のようで、ホロホロチョウなど大きな鳥であれば、両前脚で見事にキャッチしてしまう。あるいは小鳥の群れに飛び入り参加して、一度のジャンプで数羽を同時に撃ち落とす芸当も見せてくれる。
空中で方向転換することもできる。飛んでいる鳥のほうへ宙返りしては、前足を伸ばして爪を引っ掛けようとする。地面から飛び立った鳥がある程度勢いづいたとしても、カラカルは柔軟に対応できるわけだ。
着地も見事なもので、カラカルは体のバランスを崩さずに地上へ戻れる。空中で手足を伸ばしておけば、着地と同時に手足を縮めて、地面に衝撃を吸わせることもできる。大跳躍の反動で体を壊さないように、その勢いをしっかりと殺せるわけだ。ネコ科の代名詞でもある肉球も衝撃を吸ってくれるので、指を傷める心配もない。たとえ二階建ての屋根から飛び降りたとしても、カラカルは無傷のまま着地できる。空中戦に対する備えは万全なのだ。
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| 手足を広げてバランスを取り、体をひねって方向も調整する。優れた動体視力も合わさり、空を飛ぶ鳥の動きにも完璧な対応を見せる。(photo by:Catherine Harding Wiltshire) |
単独で子育てに励む母親の英才教育、遊びを通じて「窮鼠」の反撃を封じる狩猟スキルを学ぶ
優れた狩りの能力があればこそ、子育ても順調にいく。ただしカラカルのオスは子育てに興味を示さないため、メスはひとりで子どもを育てていく。ツチブタやヤマアラシが残した巣穴、洞窟、深い茂みを寝床に据えると、そこで通常2匹の子を産み落とす。
神経質にあたりを警戒するためか、カラカルの母親はこの時期になると行動範囲がかなり狭まる。巣に残した子どもが敵に襲われるリスクを減らしているのだろう。
あるいは狩猟効率を上げた結果として、遠出の必要がなくなるのかもしれない。繁殖期を迎えたカラカルのメスは、エサを中型動物に頼ろうとする傾向がある。小さな獲物を何匹も捕まえるのは手間だが、大物を仕留めればすぐに満腹を迎えられると彼女たちは考えるのだろう。エサに困っていないのであれば、わざわざ遠出する必要もなくなる。
忍び寄りの狩りは中型動物に対しても有効だ。カラカルは同サイズのネコ科の中で最速といわれており、短距離であればインパラやスプリングボックにも速度負けしない。ネズミ狩り同様、獲物にギリギリまで近づきさえすれば、あとは瞬発力を活かして一気に距離を詰められる。一瞬で迫って喉元に食らいつくと、相手を横倒しにして窒息死させてしまう。
大物を仕留めさえすれば、しばらくは狩りから解放される。カラカルの母親は子どもたちに母乳を与えつつ、外敵の監視に時間を充てられるようになる。
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| 獲物の血やにおいを残してしまえば、他の捕食者を呼び寄せてしまう。それを避けるためにも、カラカルは食事を済ませると前脚をペロペロ舐めはじめる。(photo by:Rinzler) |
生まれたばかりの子どもは弱々しく、目を開けられず耳も頭部に張り付いたまま開かない。10日ほど経つとようやく目を開けるが、カラカルらしい姿を見せるまでには、さらに生後3~4週間まで待たなければならない。その頃には耳もピンと立ち上がり、巣穴から自力で抜け出せるようになる。
子どもたちが巣穴から出られるようになると、母親も徐々に行動圏を広げていく。大きくなった子どもを養うためには、より多くの獲物が必要だ。
生後5~6週間には、子どもたちの行動も激しさを増していく。兄弟同士で元気に遊びまわり、母親から肉を分けてもらうようになる。機会に恵まれさえすれば、母親の狩りを観察することもある。自分が肉食動物であることを自覚して、カラカルの子は徐々に体の動かし方を覚えていく。
半年も経つと子どもたちは永久歯が生えそろい、本格的に狩りを学び始める。ここからさらに半年かけて、ひとりで生活するためのスキルを身に着けるのだ。とはいえ若者は失敗しがちだ。華麗なジャンプでホロホロチョウを仕留めたいところだが、現実は厳しく、邪魔な枝に翻弄されているうちに飛び去られてしまう。
若気の至りでネズミをもてあそぶこともある。若いカラカルは時に、捕まえたネズミを開けた場所まで運び込み、そこで手を放そうとする。するとネズミは必死に逃げようとするのだが、カラカルは当然これを許さず、逃げたところをまた捕まえてしまう。ネズミは逃げることも殺されることもなく、ただいたずらに生を長引かされてしまう。
残酷な遊びにも見えるが、これは獲物へ飛びかかる練習になる。またネズミは逃げるチャンスを与えられるため、希望を信じて逃げ続けてしまう。結果的に破れかぶれな反撃を封じられるため、ネズミに怪我や病気を負わされるリスクも減らすことができる。ネズミは窮鼠にならなければ猫を噛まないのだ。
失敗と遊びから経験を得ながら、カラカルの若者は狩猟スキルを高めていく。体の動かし方に慣れ、獲物の習性も覚えることができれば、あとは実戦あるのみだ。いずれは飛ぶ鳥落とすハンターに成長するだろう。
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| 眠たげでかわいい。表情次第では愛嬌も感じるが、彼らの本質は多くの動物をエサに変えてしまう恐ろしいハンターだ。(photo by:Tambako The Jaguar) |
参考動画
ジャンプして飛ぶ鳥をキャッチ!





